第19話 ある日の議会

議長「シーレゼル議員より提出された法案は議事日程に乗っています。法案の説明のためにシーレゼル議員そして法案検討課の発言を許します。しかし今日は激しい衝突を予期して言論の自由を守るため強力な警察力を用意したこと、そして私の権利と義務を守るために必要時にはこれを遠慮躊躇なく振るう事を付け加えさせていただきます。また、これは秘密会となりますので討議内容の公開は懲罰対象となる事を強調いたします。」


4国に対するゴブリンとの裏取引事実公表とともに4国の通貨価値は急減し、これに対しエルフ国が通貨介入を行うかの緊急法案の採決が行われようとしていた。

議場内には100名の兵士、更には講堂内外に1500名の兵士が周囲を警備し、敷地外には抗議派と賛同派が弾幕を掲げて座り込みデモを行っていた。


シーレゼル議員「かつて我々は国際的に土地の所有を禁じ、上物の財産権を担保として先住権を否定した。

次に産出資源の国際的な枠組みを設け、それにより各国は間接的に人口割り当てを受け入れ人口を国力に応じ調整することに同意した。

以上の国際的な枠組み合意の後、我々エルフは何を行ったか?

次に家族という枠組みを否定し、前時代において長年の問題であった国家に寄生する世襲エリートと、専業主婦を名乗る婦女を駆除する事に成功した。これにより、最早ほかの国の追随を許さぬ強い通貨を獲得した。

さて、今、我々のポケットには何があるでしょうか?通貨です。現在、二つの選択肢のどちらを選ぶか回答を求められています。

一つは人口割り当てを買い増すべきというもの、二つはそれとも増資割り当てを引き受け彼らの代わりに余剰人員のリストラだけを行うべきだというもの、です。」


シーレゼル議員の発言に「戦争を起こすつもりか」「殺しがしたいならその辺りの不良にでもケンカを売れ」だの「おや、あなたは学校でイキってるだけの陰キャだったのでは?」「ハッハッハ」といった嘲笑が飛ぶ。

 このやり取りの経過について知らされていない傍聴者には『人口をあちらから、こちらへ』という、ニュースでよく用いられた標語を教えるべきだろう。


シーレゼル議員「学校の不良にケンカ売りたかった人?みたいなずれた返答でお茶濁せると思ってる人いますが

いや、殺していいんすか?なんだよね

根本的に国家間の戦争は合法で、私人の武力衝突は違法なんですよ、これは古今において変わりがない。アンチ戦争を装ったアンチ国家主義者は、その敵対者へ通行人や知り合いにケンカ売れないだろと言い続ければうやむやにできると思ってるが、ためしに彼らにずっと「〇〇殺していいんすか!」と問いかけてみてください、「いいです」と言った瞬間、彼は殺人教唆の言質により犯罪者になります。

ところがずっと試しに「戦争していいんすか!」って言い続けて、彼が「僕も戦争したいです!戦争党に1票入れましょう!」って言ったとします、

これは全く犯罪になりません、

これがよく言う誤謬、典型的な詐欺師の詭弁てやつですね。


ちなみに僕が殺人許可出たらまず銃を買ってきて、その気に食わないやつの通学通勤中とかに暗殺しますね。

もしくは授業中に後ろからバットを後頭部にフルスイングです。

筋骨隆々の自称正義のボディーガードは自身の力を尊大に見繕う悪癖がありますが、そもそも真正面から戦うバカは今の戦争でもいません」


シーレゼル議員の最後の返答に「「「はっはっは」」」と、議場で笑いが起こる。

最初の質問者であるポルメン議員は会場が静かになるのを一呼吸まち、質問を投げかける。


ポルメン議員「だが一つ疑念があります、いったい彼らをどこに移住させるべきだというのか?財の移転のために、農奴の所有を認めたとします。主人が不労働となる場合、一人分の貨幣流通機会が滞ってしまいます。そうではなく管理者として農奴の収得を吸い上げる場合、過剰な資産は通貨を収蔵させ、デフレ因子になります。

このどちらも貨幣経済を疲弊させるものであります。

もし我々の居住地へ移住させるとしたら、もってのほかです。さて、いかに取り扱うのでしょうか」


シーレゼル議員「肥料化施設の稼働率だとおおよそ過剰人員の処分は10年かかる計算です。前5.後5年として暫時的に処分というのが無理がない形になります それ以外についてはヒュームと同様、居住地を指定し我々が完全管理を行います。」


「つまり過剰人口分は全処分?」


「はい、全処分です」


「ひゅー」


議会全体が騒然となる。提議に対して採決を不可能にしようと喧騒が酷くなるが、兵達が牽制を行い、それでも暴れるものや一部の左翼主義者については事前協議の通り強制的に退出措置が取られた。


シーレゼル議員「彼ら4国は500年の自由を得ました。しかし痴呆化した国民は非労化率が40%に上り、今や自主決定により自立すら投げ捨てる結果を招きました。500年経っても成長して自治に至れない事を世界に証明したものを許せば、1000年目には世界が腐り果てている事でしょう。

他人に寄生するものが繫栄することはあってはならない論理です。

彼らを見せしめの例にしなければヒトは自治を棄て隷属を選ぶことになります。」


議長「それでは採決を行います」


牛歩戦術を阻止するため、席には賛成か反対かのボタンがあらかじめ設置され、投票開始から5分以内に意思表示なき場合は無効票という措置が取られた。



シーレゼル議員が議場から出ると、取材を行おうとパシャシャと写真機がたかれながら質問が飛ぶ。


リポーター「4国の為政者や官僚といった責任者も対象でしょうか?」


「彼らの全年齢賃金統計による平均利潤額で購入額を算出するので、聖域はございません。」


リポーター「増加する割り当て分の人口を居住させるには3~4の新たな都市が必要となりますが、予定地は?」


「しかしながら、4国から移譲される増大する人口割り当てについてエルフだけが独占することはない事をお約束します。もし世界の盟友が望むならあなた方も制裁に加わることで得ることも出来るし、後に我々から購入することもできます。富の独占こそ我々が嫌う事ですから」


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