1章2部 アサ視点
第20話 我が名はアサ、名前はまだない
――歴程
最後の記憶にあるのはロケット砲でがれきと化した市街地だった。
そこで俺は何をしていたかって?
「ワッショーイ、ワショーイ!」
真冬のレミダ川で行水を行っていた。
なぜそんなことをしていたか?俺は女が嫌いだからだ。
宇宙は気圧の関係で温度管理が難しい、水は-120度で沸騰する。
流体とは2つの状態を総称しているが気圧という枷がない状態では液体にならない。
地上では外気温が零下20度でも流体を保つ水は1~3度 つまり水は暖かい そう、暖かいのだ。
液体により生命を得た生物の集合体たる動物とは、産まれた瞬間から枷から離れて生きることはできない。
野生生物であれば弱肉強食であり、ヒトであれば法である。
したがってどのような法も無法よりはマシである。
これ、俺の持論ね
「セイ!セイ!」
ある一定の温度になると腐敗菌が増殖するように、社会は暖かいゆえに細菌が増殖する。
女とは社会を侵す病毒のようなものだ
男という崇高な社会に流れる水に毒を垂れ流す
闘争心を奪い柔和化させ
色欲により向上心を阻害し成長を阻害する
「俺は女が嫌いだ~~~!!!」
俺は叫ぶとタオルを濡らして~「うぉおおぉお」と走りだすと後ろでピシシシシ とタオルが凍る。
記憶にある俺はいつもそんなことをやっていた。
・
・
・
「はっはっは、〇〇はいつも元気だなぁ」
体を拭きリビングに行くと 誰だったか もはや顔すら思い出せないが声をかけられた。
「俺は今回の紛争で女は国家の重責判断を行えない事を痛感したよ。それで政府は難民を受け入れると?」
「あぁ、ほら見てみろよ」
テレビでは子供を抱えながら国境を不法越境しようとする不法難民へスクリューキックをかます現地民の映像を連日のように流す、世論誘導のための偏向報道が行われていた。
やれかわいそうだの、子供はどうだの、弾圧がどうだの、被害者ビジネスの営業マンが悪辣なところは契約受諾をしない場合には人格攻撃が始まることだ。
例の無償の愛 ならぬ 押し売りの愛である。
「社員は悪くない、国民は悪くない、子供は悪くない、女子はetc
社会にとって害となるものを処罰せず野放しにさせる詭弁はもうたくさんだ、そう思わないか?
南京虫ですら数匹の侵入を許せば検疫と処置に莫大な費用がかかる、
命とはもっと軽いものであっていい、
隣地にミサイル基地が建設されることは危機感を抱き拒否するが、不貞分子を自らの社会に潜り込ませることは、お優しい人道で受け入れてしまう。女が考えそうなことだ、終わったな」
「まぁなるようになるのを見守るしかない。私もやれることはやった、祖国への義理は果たしただろう」
「どうだ?君の祖国が終わるのを見る瞬間は」
「バカが、国内に不平分子を受け入れるとは、だな」
彼は苦々しげに、またさっぱりとした雰囲気で言い放つ目の前の男の発言を聞き終えると立ち上がり、棚からチャ葉と砂糖を取り出しお湯を注ぐ。
「お前も飲むか?」
「いや、俺はいい」
「そうか」
チャを注ぎ終えるとこぼれないようにテーブルに置き、ソファに座る。
外は零下20度だが寒冷地域らしく断熱建築なので、暖房が付いている間は家の中は一律20~24度に保たれている。
「まず食料はどうするつもりなんだ?主食や風習というものは変えられないから移民共の食べ物は輸入することになる。
これは本来は不必要な事だが必要物資ゆえに譲歩せざるを得ない、足元を見られるぞ、きちんとこのことについては説明したんだろう?」
「あぁ、しかし難民を受け入れることによりGDPが何%上がるとか、都合のいい事しかあいつらは聞かないんだ」
「東方紛争の時も女というのはそうだった。
男は自分の子息が国家のために死んだとき、まず不名誉な行為がなかったか確認し安堵し、後に国から名誉勲章が授与されはじめて泣く。
女は違う、まず息子が死んだことに涙を流した後に戦死慰労金の額を聞く、あいつらはまず一にも二にも自分の環境の事しか考えていない。
囚人を兵に使う場合、真っ先に反対するのは女と事務作業員のくせにエリートを自称するクズどもだ。こいつらは性根が似ている。
あいつらは自分の子息も殺したくないし、自分も死にたくないし、代案すら出さずに拒否する。そして責任を追及されると発狂し、ただ煽るだけだ。自分の都合に沿わない事は彼らの目には悪に変換されるらしい。こういうクズに発言権を持たせている国は弱体化を自ら招いている」
そういうと彼はおもむろに壁にかかっている勲章の一つを指さすと自嘲気味に「そういえばあの時も笑えたな」と「くっくっく」思い出し笑いをした。
それは公行事における国旗掲揚を偶像崇拝行為として拒否する地方土着宗教集団に対し、間接的な強制として個別巡回伝道における鑑札税の導入をめぐり当地の最高裁判所が合憲判断を行い行政が量的に強化し質的に拡大された行為が少数者への弾圧として締約国が武力介入を行った事件において、少数者への武器弾薬の密輸出について功があったとして贈られた勲章だった。
「敵の司令官が亡命した理由を聞いたときは卒倒しそうになった。なんと自分の母親の店が制裁対象に選ばれたとかいう理由だったからだ」
それを聞いた男も「はっはは」と笑い、
「あそこの民族は母親が好きすぎるとはいいますが、さすがにそこまでいくのは彼らのうちでもそういないのでは?」
と、呆れた顔で返答した。
「いや、まさか母親のために責務すら投げ出すとは味方であろうと考えまい。俺たちは見捨てられたんだ、と嘆く敵軍兵士たちの悲しげな顔は今でも思い出すよ」
「おや、もうこんな時間か。今日は帰るよ、早めに」
「あぁ」
彼は男性を雪が積もる道路まで見送り、部屋に戻ると、
ぐびっ
とチャを飲み干した。
・
・
・
気が付くと床に倒れていた。
「何か、毒か」
直感的に感じ、胸元に入れていた携帯をいじる。
カリッカリッカリ
「救急ですか?事件ですか?」
「救急だ。・・・あぁ、そうだ。住所は・・・」
電話が終わると虚無の時間が訪れる。
外は厳冬で路上は雪と氷に覆われ、緊急車が来るのも時間がかかるだろう。
「く、たすからんだろうな 助かっても寝たきりは嫌だな」
そして彼に襲来したものは、やつらに何もやり返せないまま終わるという口惜しさと怒りだった。
「そういえばエルフ共が、何か言っていたな」
醜くもあがいてこそ男というものか、と考えると
カリッカリッカリ
とまた何やら携帯をいじり、
そこで彼の意識はなくなった。
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