第28話

とりあえず簡単に整理が終わり、4人で部屋をどこにするか決め、買ってきた服に着替えを済ませて食堂へ向かう。

と、すでに食堂のテーブルには簡単な食事が並んでいた。パンとドリンクとドレッシングをかけた野菜だ。そもそも必要な栄養素をとるために無駄に料理に時間をかける意味はないので通常の食事ともいえる。

アサとスイがすでに席に座り談笑していたので、どちらかが用意したのだろう。

席に座り適当に食事をしているとエレも来た。


「で、エレって男慣れしてないとか言ってんの、そういうのいいって」


「茶化さなくてもいいじゃないですか、本当なんですから」


耳を真っ赤にしながらエレは抗弁を垂れているが、

う、うぜぇまだ続けるのか、と私は半ば(呆れ)気味だった。

こういうぶりっこを調子づかせると集団の連帯に不和を呼び込みやすい。

要は調子こくからはっきりと男どもの前で、その行為は嘲笑と侮蔑を呼ぶことを教えたほうがいいだろう。


「なぁにぃ? あんたそれでこれからやってけるの?人を殺したり、男に裸見せたりすることもあると思うんだけど」


「が、がんばりますっ」


肩をプルプルさせながら言うが、どうもピンとこない。

最初は何かの演技かとも思っていたが、

う~ん

なんか私たちとは違う感じがする。


「は?お前、俺たちは今から戦争の片棒を担ぐんだぞ、頑張るんじゃねぇ、やれるかやれないかだ。 上半身の服脱げ」


アサはそう言うと上着のボタンを外し、上半身裸になった、


「えっ!?」


私はそれを見てスイの方を見る、


アサ「おいおい、野外で必ず小屋や簡易設備があると思うのか?何も裸になれと言ってるんじゃねぇぞ」


上半身裸で腕組みをしているアサの発言を聞くと、

スイも上半身の服を脱ぎだした。


アサ「安心しろ、俺は女に興味がない。そもそも女兵士でなくとも生粋のフェミニスト(男女平等主義者)であれば男の前で肌をさらけ出すなんてやっている事だろう」


彼はあきれ顔を見せながら私たちの方を見やり、スイはどうでもよさそうに上着を脱ぐと頭の後ろで手を組み事態を眺めている。

はぁ、まあいいか

となりのエレがぷるぷるしてるのを横目に見ながら、

「仕方ないわね」

と、私は上半身裸になる。

「うぅ、わかったわよ」

と、エレも上半身裸になる。


「その うーうー 言うのやめなさい」


私はそう言いながら食事を続ける。

そうだ、いい機会だし服装についても注意しておくか。


「ねぇエレ、肌を露出しすぎるのはともかく、今の服装は子供っぽすぎる

おとぎ話のJAPじゃないんだから、

服装が子供っぽすぎるから、もっと大人っぽい格好しよう

女のおしゃれは戦闘服だってわかってる?

靴下はお人形がつけるようなものだし、なんか薄着を重ね着しすぎだし、ちんちくりんじゃない?女性はもっとスタイリッシュにしなきゃ、自分のスタイルを見せるピッタリした服を着たほうがいいわ」


スイ「それは俺も思ってた、なんかエレの服装は子供っぽいな」


「ううっ、そこまで言わなくてもいいじゃない。今までそんなこと言われたことないよ?前も含めて・・・あっ」

そこまでいうと、エレははっと口を押える。

その所作を見てアサはずいっと体を乗り出し

「ここではっきりさせておくことがある。」

と切り出した。


外は日も落ちてきて電灯をつけると、

その瞬間にオレンジ色の間接照明がフワっと部屋全体に広がる。


アサ「良いか?前のしがらみや常識は忘れろ。これはエルフ達に言われたからじゃない、俺たちの意志として 常在戦場 そういう道を俺たちは自ら選んだケジメだ。この点において俺たちは確かに同士であり同胞であり仕事仲間だ、ただし同志であるのは目的を共通しているからにすぎない。

仲間として信頼構築を図(はか)るには自立と共通認識が必要だ。俺たちの敵は誰か、敵を倒すには何を捨て何を守るか、俺は目的の障害になるならお前達も切る。

女はすぐ感情論に走りたがるからな、このことは覚えておけ」


なるほどアサのいう事はもっともで、頭では理性が理解し受け入れようとしているのと同時にしがらみを捨てることは難しい事だという思念が頭の中で葛藤しあっている。

もちろんアサやエレに対して含むところはない、問題はスイのことだ。

彼について行っていいのか?

私は彼を信頼しきれるのか?

彼は私を信頼してくれるのか?

裏切られたくないと思うのは人として当然の思いだろう。


私は世界中の人に笑われるのが嫌いです。

だから私は世界を愛せないのです。

でも一人の人に笑われるのはうれしい、

そういう人間なんです。


盲目的になり自分をだますことは仕事柄慣れている、

けれど彼が私に何を望んでいたのかわからないから、私は彼に何をどう接すればいいのかわからない。


スイ「だったら料理も野外活動に備えて訓練しよう。4日ごとに担当を決めてさ」


アサ「おぉ、いいぞ。食料は現地調達が基本だからな」


それからもしばらくどうでもいい談話が続き、

外はいよいよ暗くなっていた。


「さぁて、それじゃあそろそろ部屋に戻るかな」

「それじゃあ私も」

「俺も」


ギィイと床とイスがこすれる音とともにガチャガチャと食器を片付け、それぞれの部屋に向かった。




トントン

ドアをノックすると中から「誰?」という声が聞こえてくる。


「あの、少しいい?」


しばらくするとドアが開き、


「はい、なに?」


と、中からスイが顔を出す。


「あの、部屋、暗くありませんか?」


ドアから中を覗くと、

ネット機器のモニターがひときわ強く卓上で光っていた。


「はい、これ」


「なに?」


「買っておいたの、使って」


スイに買っておいた卓上ライトを渡す。

彼の瞳はグレー色だから、きっと部屋で物を読んだり書いたりするのに苦労するはずだと思い、昼間に勝っておいたのだ。彼がいらないといえば自分で使ってもいい訳だし。


「いやいいて、おかんかよ やめてくれよ 世話を焼くのは」

「ご、ごめんなさいそんなに嫌がると思わなくて」


私はそう言いながら、

そうだ、昔もこうして彼と言い合っていたんだった、

懐かしいな と思っていた。


「いや、そうだな、強く言い過ぎた。昔を思い出して語気が強くなった。こんどからは相談してくれるかな、被る可能性もあるし」


「そうだよね、ごめんね」


彼はそう言いながら、私の手からライトを受け取る。

という事は、やはり照明に困っていたのだろう。語彙が強くなったのも起こったのではなく、あまり知らない人が自分のために気を回したことに困惑しただけなのだろう、と甘めに考えておこう。

 ヒュームにはエルフと違い濃い虹彩が多く照明の感じ方について意識する事はないし、私もいろいろな付き合いがなければ意識はしなかった。

こんなことでいちいち諍いを生じるほど馬鹿ではない。


スッと部屋をのぞき込むと右側の机の上に各個室についているネット端末のモニターと、その前にキーボードが出ていて、何かの作業をしていたことが読み取れる。

夜に強い光源を見ると睡眠障害が起こりやすくなるので、

遠くから動画などを視聴するのはまだしも、卓上で作業する習慣自体があまりないので目を引く。


「何か調べものですか?」


「あぁ、10年前から今までの事件を一通りね。」


「へぇ、楽しいですか?」


「楽しくはないさ、出来たことと出来なかったことを知りたいだけさ」


画面をのぞき込むと、いろいろなニュースやグラフが並んでいた。

画面上部には各地の移民による不和の激化についてのタグが多い。

覗き込むためにかがみ手が当たると、彼がびくっと少し硬直したのが伝わる。


「大人になるって悲しい事なの

言いたいことも言えず、責任と義務だけが増える

でもそれってとてもいい事・・・かな

他人に少し優しくなれる」


ニッコリとほほ笑む私の目を

彼は視線からそらす。


「やってることは自己満足だよ、代替行為さ。

俺は世界中の人に笑われてもなんとも思わないが、

でもたった一人に笑われることは耐えられない。

だから俺は一人を好きになれないんだ」


「はい、知っています」


「・・・」

「・・・」


「だから俺はね、今まで目的のためにいろいろなものを棄てたし利用した。

昼間話したね、俺は彼女がもっと悪辣なことをしなかったことに驚かされたよ

私は君が敵をより凄惨に扱うか、私に牙を向けてくるのではないかと考えた。だから私は君が私に牙を向けるのを待った。」


「えぇ、知ってます」


「俺はあの時棄てたんだ、ただの都合のいい女だ」


「都合のいい女、か ・・・嫌っていたんですか?」


「嫌っていたわけじゃないよ、ただちょっと、ボタンをかけ違ったんだろうな」


「そうですか」


私は涙をこらえきれず部屋を出てしまった。

廊下は間接照明でボウっとオレンジ色に灯され、照らされた廊下の壁はうっすらと滲んでいた。


「嫌われていたら、それでもよかったんだけどな」





――

数日後


通りを抜け公会堂を改造した野外運動場が見えてくると人だかりが見えてきた。

屠殺場につくと私以外の3人は中央広場に案内されたが、

私だけ別室に案内された。


狭い部屋だった

部屋は白色灯が照らし

ベットには一人の老婆が横たわり

管が何本もくっついていた

脳が欠損しているのだろう、頭蓋骨が陥没していて

私はそのみすぼらしい姿を見て涙が出てきた

「頑張ったのにね」

心の中でつぶやく



エルフ達が「※経頭蓋磁気器具による感情抑制が必要であれば、~」何かしゃべっているが、どうでもよかった。

私の気持ちは決まっていた。


「あなたはもう死んだ」


「背後霊のように過去が付きまとうな」


「これは私の物語」


――俺は世界中の人に笑われてもなんとも思いません

でもたった一人に笑われることは耐えられない。――


(そういえば昔もそんなことを言われたな。)


同じというのは変わらないという事

今日よりも明日はさらに成長するというのは

今日の自分を殺すという事


「なくなよ」

「わらうなよ」

(わかってるわ、煩(うるさ)いわね)


理由を聞くのが怖いんだ

そうか、私は前の時棄てられたことを認めたくないんだ


「わかってる、私も自分を殺さなきゃいけない」


一番大切な人になれなかったな


なら一番頼れる人に・・・

いいえ、それだと変わらないか


そうだ、一番気が置けない人になろう


そう決意すると、私は目の前に横たわる体にナイフを突き立てた




ホモ(ここではあくまで女性恐怖症の事を指す)や、フェミ・百合(極端な男性嫌悪症)、DVといった、社会にとって有害で異常な思考・精神異常の理由として、脳内物質の分泌異常(コンピュータでいうバグ)が注目されている。

以前の医学的アプローチは薬物による治療が研究されていたが、一方で脳に電極を刺す、頭蓋骨を通して内部に刺激を与えるなどにより電気的刺激を強制的に与え、感覚物質の分泌パターンを脳に学習させる方法が現段階でも研究が進んでいる。

これにより、実際に反社会的な人間の性格を変容させられる事が証明されている。

ネットでよくある洗脳や催眠のようなものではなく嗜好をいじるだけで、思考性をいじる訳ではない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る