第7話

「さぁて、いい日はいい食事からってな」


そういうと食卓に朝食を並べ始める。

真ん中に大皿に盛った料理を並べ、全員に取り皿を渡して各自が必要な分を取る。

これが一番 食器を洗う手間がなくなる。


「どうだおっさん」

「これは?」

「麻油鶏(マユケ)から転じて魔除けみたいな料理だったかな。滋養料理。」

「そうか」


鳥は飼料要求率も低くタンパク源として優秀な食材だ。ただし、こうした畜産動物の肥育は効率化を行おうとすると感染病対策などで抗生物質が必要になり、耐性菌によるパンデミックが起こりやすくなる。

現在はヒト種へ感染するインフルウィルス等は経口摂取では感染しないことから、従事者を農場内で半年~1年外界と接触禁止にすればよいというかなり強引な方法をとっている。

昔であれば何らかの刑として規定されていただろうが、現代はネット端末があれば閉じられた空間も苦ではないのでむしろヒュームに人気がある作業だ。


「ほう、おいしいな。料理はスイ君がいつもしてるのか?料理は嗜好 貴(たっと)ばれるもの、よきことで。」

「いやサバイバル研究も兼ねてるから4人で順番に作ってる。年寄りにはもっと高カロリーの方がよいだろうが」

ヨナ「アッシは出来るけどぉ、エレはいっつも手伝ってって言ってくるけどぉ」

エレ「いや、別に不得意なわけでは・・・」

アサ「俺もたいして得意じゃないぞ、スイが一番うまい」

「そこは各人の素体差だからなぁ。おいおいみんなも慣れてくるんじゃないか?」


こうしてメシを一緒にしているが別に、このおっさんに恩を着せる気はない

犯罪を犯していないなら施設に届ければ彼は食を得るだろう、例え一部のエルフが嫌がらせしていたとしても法が保障している

犯罪を犯していたとしても、施設に入れば刑を受けるまで食を得られる

処刑されないなら、懲役その間も食が得られる

だからこれはこちらが勝手にやっている事、こちらの都合

ともすれば代用収監施設を買って出たということで、あとで彼の分の費用はヒュームの組合、または国や都市から出るだろう

彼とは一切の隔たりなく対等だ


「はっは、エルフには感情は麻薬、論理は嗜好という格言がありますからな。若いときは筋肉美におぼれて高たんぱく低カロリーで愉しみ、年が行けば高カロリー低たんぱくを食して脳を働かせて愉しむ、でしたかな。私はどちらでもかまいませんよ。」


おっさんは右手で肉をほぐしながらスープにパンをつけてふやかしている。


「見ての通り、ここは若いので食事もそういう傾向になります。何か苦手なものはありますか?」

「エルフだけではなくこの国に住んでるヒュームも若いときはトレーニングのあとに鶏肉だのばっかり食べますから、苦手はないです。」

「そういえば、そうでしたね。」


そういえば地球時代には地球人は12才ごろまで精神病に患ったという、年少者しか罹らないその病状から『小学生足速モテ病』と今日では言われている。

そこから高ニ病?やらなんやかんや学歴病?とやらに患ったあと、もう一度精神病に罹りなんか格闘技やってる為政者うっひょーとか発狂して沈静化し、また高ニ病?発症することを繰り返していたという。

急性症状が発症した場合としては プーチン! だとかを処方箋として連呼するとたいてい大人しくなったという。

感染症の流行も2~3度の山をかけて免疫が付くというから、まさに典型的な人間病だ。

ただしこれも原始人の精神病により変形されているが、成長過程により身体と脳のピークが分かれているという実態が表層化したものともいえる。

社会が国際的な交流高速化する以前の古代ギリシアですら、なんという学者だったか忘れたが、なぜ筋肉筋肉とうるさいものは肉ばかり食べるのだろうか?頭も筋肉でできているに違いないと言っていた事から社会病ではなくヒュームに普遍の病気だろう。

きちんと身体と脳機能についての研究と学習が進んだ今日では、こうした病気にかかるものは少なくなった。


「そういえば豆乳プリンがあったな、5人分に切り分けよう」

保存庫から型枠に入ったプリンを出すと皿にだし切り分ける。

「おっさんは紅茶に入れる砂糖はいくつだい?」

「2つかな」

「了解」


砂糖や菓子を愉しむ

甘未を怠惰(麻薬)と解するか、脳を愉しむ栄養(法理)とするかにもエルフとゴブリンの対比を表せる。


喜怒哀楽、感情という論理がエルフは薄い。

猛獣は話ができない、だから自然界には絶対的な平等がある。例え肉食獣が待ち伏せしていたとしても、潜んでいる間に蚊などから寄生虫に罹るかもしれないし、泥やぬかるみにずっといれば体がおかしくなる。どんなものにも反対側には危険というものが釣り合っている。

対してヒトは言葉で他者を欺くことができる。では、その欺瞞の利の反対に乗る危険は釣り合ったものか?そんなものはない、だから他者や自身を欺く行為をエルフは嫌ったし、ヒトも他者を欺くことを禁止していた はずだった

いつしかヒトは他人を操るために欺瞞を使いだした、感情だ

 永遠不変たる神への献上であった愛を男女の恋愛の意味に堕天させたゴブリンをエルフは忌み嫌う。

ゴブリンが麻薬により幻覚で死ぬまで踊り狂う赤い靴の少女であるなら

誇りと尊厳をもって自身と他者を縛る法をまとっているエルフの様はまるで砂糖菓子を食べ過ぎてブクブクに太り自縄自縛する王だ

もはや一人で動くことはできず、近習や配下の手助けなくては立ちいかない

だから誇りと尊厳を持つ限り、エルフは皆ひとしく王である


「で、おっさんは今日はどうするんだ?」

「今日は元の場所のヒュームにもう一度お願いしに行ってみます。いつまでもここにいるわけにはいきませんから」

「そうか、まぁ何があったかわからないがうまくいくといいな」


「今日の買い物はエレか、忘れるなよ」

「ウース」


見るとみんな食事が終わった、今日も仕事が始まる。


「「「さぁ、今日も頑張ろうぜ」」」


食器を片付けるとそれぞれ準備をし、宿舎を出る。

いつもと変わらない。

エレはたしかおっさんの事を報告しに行くと言っていたから今日か明日には何か情報がはいるだろう。



さて行こうか

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