第6話
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改稿暦(直近のもの、誤字訂正等は除く)
EP全体の調整のみ
・2024/7/16
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「そういえば、君たちはもう銀行口座は作ったかい?」
ゼレーニ納入課長は帰り際、我々を呼び止めるとそう聞いてきた。
俺「いえ」
国から今回の支援金がでるらしいが、
とりあえず直近1か月分の生活費くらいだけもらってあるので、
今のところ銀行口座を使う必要性がなく作っていなかった。
「そうか、それなら早めに銀行に口座を作っておくように。レキスネント大陸のコルレス銀行※はゴブリン系のヒュームが経営するヴィドラフツカーヤ銀行と、海人族系のカイロ銀行だ。レキスネントの自治都市は個人情報守秘義務を定めているがヴィドラフツカーヤからゴブリンへは情報が漏れると考えていい。カイロについてもエルフ国から国際送金をすると履歴が残るので口座情報開示が行われるとエルフ国との関係が分かるので、仮の会社か個人口座を利用して受け渡しを行う。
どちらにするかは君たちに任せるが、ペーパーカンパニーが必要なら申し出てくれ。
向こうのエルフ系銀行間内ですべての処理を終わらせてもいいが、一部の情報を流す事で誤認を誘う意図もあるからね」
※国際送金を行う中継銀行の事。銀行間送金は互いの口座内勘定を増減させて行うが、国外送金では通貨為替なども関わるため指定されている。送金先がコルレス銀行以外の場合、中継銀行として現地銀行間との受け渡しを行う。
俺「そうですか、わかりました。後日作っておきます」
こうして我々は、その日の研修を終えてギルーカ社を後にした。
――――帰路――
俺は途中で買ってきたパンとハムを脇に抱え、路面電車の中で立っていた。
車内は割と混んでいて、淡い車内灯が点いているが、相変らず暗くて見えにくい。
たまにカーブに差し掛かるとシャーシャーと足元で金属がこすれる音がしている。
そうして2駅くらい揺られて駐停場に着き乗客を乗せ発車すると、何やら前の方が動きが激しくなった。
何だろう?と思っていると、小さな声が聞こえはじめる。
「100ツゥプシェでも、100ツゥプシェでも、」
俺のすぐ前がモーゼのようにザワザワとうごめきはじめた。
俺はそこでピーンときて、たまにいる物乞いだろうと思いひょいと前の方を見ると年を取ったヒュームだった、刺青を見ると都市に雇われるヒュームだった。
直感、「おかしい」という感想が襲う。
ヒュームの身分が固定されているというのは、身分が保証されているということでもある。たしかにこの国都にも浮浪者は少ない数いるが、集団からハブられたエルフや不法残留に近い外国人が多い。都市に雇われたヒュームであれば任に堪えられなくなれば相応の施設に預けられるし、何らかの不法を侵したなら処刑されているはず。老衰で衰え切ったという風でもないヒュームが乞食になるというのはあり得ない。
などと考えていると、居合わせた女性エルフ数人が袋からゴソゴソいくつか食べ物を出し渡している。
こういう場合、食い物を恵むのは正しい。金を渡すことはできない、不正所得になる可能性があるからだ。
「右が開く」
車内にアナウンスが流れ、すぅーと減速し扉が開くと、ヒュームは電車から出て行った。それを追いかけると、
「おっさん、ちょっといいか?」
俺は彼を引き留めていた。
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「あなたがよければ1か月ここで雑用夫として雇われませんか。僕たちはあなたに3食与える事くらいしかできないけれど」
宿舎にヒュームのおっさんを連れてきた後に4人でしばらく話し合った後、彼『ドグマ』に打診してみた。
別にエルフ国では少ないヒュームへの同胞愛からの偽善ではない、通常ではありえない事は、何らかの事件に繋がる可能性があるからだ。
アサ「よければ、どうして浮浪になったか聞かせてもらえないか?国都市に雇われるヒュームなら仲間もいたはずだ。そいつらに助けも求めず物乞いするなんて普通じゃない。他の都市から逃げてきたのか?場合によってはあんたを官憲に突き出さなきゃならない」
「えぇ、えぇ」
ドグマはポツリポツリと語り始めた。
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彼の話を意訳するとこんな感じだった。
現在の国際秩序は職業における貴賤を廃しているが、字面のままでは社会の運行に支障をきたすため、エルフ国では都市と国家はそれぞれヒュームを雇っている。
通常、都市ヒュームは都市から寄こされる仕事をチーム単位として受注し報酬をチーム員で配分する形式をとっているが、ある日を境に彼が加入したチームの場合は仕事が受注不可になるようにされていたという。
だが、今までは知り合いが融通を利かせて通常5人チームのところに6人目として後から入って報酬を1/6にしてもらったり、食べ物を回してもらっていたらしい。ところが配置換えで付き合いのあったヒュームがいなくなった際、作業転換のための学習を行えなかった彼は残されたのだという。
ヒュームは身体機能の最盛期が30才程度まで、脳の最盛期が30中盤から60才くらいまでと言われているので年齢により作業内容の転換のための学習を並行して行うが、彼はハブられていたのでそれが出来なかったという。
でも、そのハブられることとなった原因は話してはくれなかった。
「とりあえず、犯罪とかではないんだな?」
「あぁ、」
「そうか、なら問題ないな、俺たちは1か月後にはこの都市からいなくなるから、この都市の誰にとっても中立だ。そのあとどうするかは考えておく必要があるがな」
「おぉ、すまない。感謝するよ。」
少し安堵したのか、力みが軽減したように見える。彼も突然連れてこられて緊張していたのだろう。
そして我々の顔を見るとびっくりしたようにマジマジと見た後、
ドグマ「ところであんたらは自由民のヒュームかい?顔に刺青がないが」
アサ「いいや、俺たちは人造生命だ。体はヒュームを基本にしてるがな」
ドグマ「そうか、そういえばそんなものもいると聞いたことがあるな。」
ドグマは何事か考えているようだが、何を考えているかはわからない。
俺「ところであんた何ができる?掃除洗濯くらいはできるか?貯蔵庫のカギは渡せないので料理はしなくていいがゴミ出しだのはやってくれよ。それ以外は好きにしてていい。ただし今日みたいな物乞いはだめだ、場合によっては通報されるぞ。
あとは部屋は空いてないので食堂にあるソファーで寝てくれ。布団はいくつか空いてるので後でもってこよう。
そうそう、寝る前に体は洗ってくれよ。うちはシャワーしかないが右奥にある。石鹸だのは出てるものを使ってくれていい。タオルは悪いが作業に使って洗ったやつを使ってくれ、明日にでもあんたの分は買ってくる」
「あぁ、ありがとう。助かるよ。」
そういうと彼はシャワー室の方へ向かっていった。
それを見届けると、女性陣が口を開いた。
エレ「見たところ40後半から50代か、痴ほう症とかが発症していれば国の施設に届け出なければならなかったけど受け答えもしっかりできてるので、その心配はなさそうね。とりあえず現状だと何もないでしょうけど、引き受けたってことは私の方から報告しておくわ」
ヨナ「まぁさすがに部屋でウンコをぼたぼた垂れ流されてまで他人の面倒を見る気はなかったからね。こうなった理由については理由についてはそのうちしゃべってくれるでしょう」
確かに部屋でウンコを垂れ流されるのは困るな。失念していた。
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