第3話
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改稿暦(直近のもの、誤字訂正等は除く)
・2024/6/29
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リザヤイーズリ《エルフの国》で研修を開始してから数日後、俺以外の3人は各所で講習を受けに行くというので俺は今日、一人で
世界の戦闘が遠隔操作
我々が今いる国都は海を東方、山林を西方に臨む地に位置しており、それぞれ東西南北の郊外にエリア分けされて大規模な公共施設が置かれている。
路面電車は市街地から放射状に郊外へ連絡しており、大まかには、
北 競技用のアリーナや訓練場、軍施設
西 自然公園 図書館 科学館や歴史資料館 医療施設
東 倉庫街、上下水道や廃棄物などの処理施設
南 工場や遊戯施設エリア
といった感じになっている。
電車が北へ向かって陸橋をゴトゴトと渡りコンクリートの建物群を抜けると畑と開けた林野にドーム状の施設や空港が見えてくる。駅から遠くの施設に行く場合は目的地ごとに無料の人力車(地球風にいうと自転車)駐停所があるので、空いていれば利用するのも手だ。
見るとちょうど2台が余っていたので、機械に携帯機器をかざすと ピッ と鍵が外れた。
俺は鍵が外れた1台を取り出し、体育館へ向けてこぎ出した。
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「個人利用は4時間までです。設備の説明が必要なら自動案内板を利用してくれ」
「はい」
受付で預託料の500ツゥプシェを渡して薄い腕輪を受け取り、ロッカーへ向かう。退館時に腕輪を返却すると預託金は返却される。腕輪は印字された模様が鍵の代わりになっており、設備利用の出退記録になる。
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「フッ、フッ」
道場内は広く、少し涼しく、床は反発性の低いクッションになっていてプニプニしている。
俺は壁面側に備えられた練習用の案山子で投げ技を確認していると、隅で10人ほどの女性エルフが浮き技という倒れこみながら相手を後方に投げ飛ばす技と、関節技をかける練習を行っているのが見えた。戦闘では基本的に男性兵が先頭になるが、女性体の筋量は男性体の7~8割。そこで女性は想定される敵が自分より力が強いので、相手の力を利用して制圧する戦法が基本形とされている。
「男衆、試合形式で練習しないか」
数十分経過したころ、白銅色の訓練服に身を包んだ兵士然とした女エルフが近くに居る男エルフに練習を申し込んでいた。
―――女武芸者が男性と練習し技を磨こうとすること自体はそれほど珍しい事ではない。ただし、この国における女性兵士から男兵士への試合申し込みは、この国の制度に由来するので、この意味を理解するにはこの国における産児制度を少し理解する必要がある。
この国(リザヤイーズリ)では基本的に同胞差別がない代わりに居住の区別がある。段階は5類まであるが国都に住んでいるのは1~3類のエルフだ。と言ってもエルフの居住地は仕事の割り振り等で都市が決まっているので、他種族の方が割合が多い都市でも1~3類である。
このようにエルフにとっては3類までは制度的にあるだけで運用的にはさして変わりがない。
問題なのが4類からであり、ここからは就労制限が付帯的についてきたうえで都市内での僻地・隔地での隔離居住や下手すれば国外追放の可能性があり、第5類は国外追放である。この4~5類をヘパステイロ(足場のないもの)といい、陶片追放の一種である。
国外追放処分が下されるエルフは、レキスネント大陸などを含めた国際共有地へ生殖機能を削除されての配流となる。この不妊手術は刑罰ではなく国外では人口調整が困難であるための不随処置だ。
察しのいいものならこの説明を聞いただけで、この国における陶片追放の特徴が刑罰などによって反社会性を持った人物を排除するだけではなく、産児制限の役割を持たされているという事に気が付くだろう。よって、その必然として、産んだ子供の数によっても低下する。
1子を産んだ場合、その親は1類が減少する。市民の中にはこれを利用して第2~3子までの出産を行うものがいるが、問題は、昼間に15才以上40才程度までのエルフが単独で強姦をした場合、基本的に罪には問われない。
かつての動乱期において人口維持が困難となり堕胎禁止とともにいつからか【結闘権】として成立し現在も残っている風習と、基本的には平和な時代になり産児制限が必要となった際に妥協として併存している形だ。
これは双方向に機能するが、この時、女性側から行われる場合はあまり問題がない、事前に避妊薬を服むことができるからだ。その逆において妊娠した場合には堕胎を行うことは禁止されているため、双子や三つ子を孕むと想定外に類型が下がり国外追放になる可能性がある。
そのため女性エルフは街中では集団で行動をする。この10人集団をフェードといい、1/2フェードが普段の生活の最小、フェードの10組が女性の最小戦闘集団単位となる。
これをかいくぐり戦闘申し込みを行うと今日では両性合意の【婚姻をかけた決闘】と見做される可能性があるため、道場において申請がポピュラーに行われるというわけだ。
「勇ましい我らが女将軍よ!では、ワシが最初にお相手いたす」
「では、」
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館内に「バーン!」という受け身の音が響き、互いの体が宙に舞い、関節技をかけようと二人の応酬が続いた。二人が疲れて脇に下がると今度は後ろで練習をしていた者が代わる代わる練習を行っている。
それを横目に打ち込み練習をしていると、
「どうだそこのヒューム、お前もずっと一人で打ち込み練習するより実戦せんか」
見ると最初に練習を申し込んでいた女エルフがたたずんでいた。
近くで見ると胴着ごしでもよく鍛えられているのが分かり、片方の耳が多少潰れている。これは別名を柔術耳ともいわれ、激しい訓練を積んだ証拠だ。手術で元に戻せるが中には勲章としてそのままにする事もある。
「そうだな、お願いしよう」
そう言うと俺と彼女は移動する。
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「ぐっ」
あっと思った時には足が刈られ、そのまま首に腕を付けられ抑えられてしまった。
「フム、先読みが甘いな。知識だけでは相手が次に何をしてくるか読みが甘くなるので反応が遅くなる。やはり対戦!対戦は全てを解決する!」
くっ、言葉の意味は分からんが、とにかくすごい自信だ!!
「(いや、実戦に勝る練習はない、ということを体で教えられたわけか)」
自然に的確な動きをしてくる相手、対してこちらは集中力を使い、疲弊する。
時間がたつほど頭にモヤがかかったように思考も鈍り、反応も遅くなる。
そこからは一方的にただ投げられ、関節技をかけられ、立ってまた投げられる。
気が付くと1時間ほど時間が経過していた。
「もうこんな時間か。個人の戦闘技術 集団を維持できる社交性 この両方がないものは国にふさわしくないからな。精進することだ!ハハハッ」
そういうと彼女は女エルフ集団の下へ戻り、帰って行った。
「なれんうちはそんなもんじゃろうて。」
疲れて息を整えていると、男性の中年エルフが声をかけてきた。
「いいか、同胞たるヒューム。少年兵ですら人を殺せる、女性の成人ならなおさらだろう。ゴブリンだとて同じよ、戦闘では少年だからと侮るな殺すときは確実に殺せ」
「えぇ」
モヤがかかったような頭で考えながら空返事をする。
世に産まれてから3年がたった。脳に残った知識 と何かよくわからない記憶がいまだに混在する。エルフに対する憎しみ、エルフに対する同慕愛、ヒュームへの憤り、ヒュームへの未練、そしてこれが自分のものではない事も理解している。
俺は『スイ』、これは俺の人生だ。どのような決断をしても、それは俺のものだ。
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