第2話

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改稿暦(直近のもの、誤字訂正等は除く)

・2024/6/28

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────ただ穏やかに生きたい。それは、そんなにも難しい願いなのでしょうか?

とある少女の祈り────


1か月後の儀式までの間、我々4人は都市で過ごすことを許可された。ただし、外出時には白と緑が半々づつ入った襷をかけ、さらに官憲の求めがあれば生体情報による確認に応じなければならない。それでもこの国におけるヒュームの扱いからすれば特別に悪いとは言えない。中には完全に人権をはく奪され家畜として生きている。ただし、そうした産業家畜となったものはヒュームとは言わず青いエヌムームと呼ばれている。

そしてこの区分けは管理上の区分だけではない。物理的にも青いエヌムームとヒュームが市井で会うことはない。居住区画が異なるからだ。

しかし私もこの国で過ごして3年ほどしかたってないから推測でしかないが、もしかしたらこの国に生きるヒュームにとっても、エヌムームは別種という認識があるかもしれない。

居所もそうだが、

人口出産によって産児統制が採られているからには、遺伝子配合がどのような割合で行われているのかエルフにしか知りようがないからな。


ところで、我々が向かう事になるレキスネント大陸では都市と現地ヒューム集落との通交を人力で行っているため、通商人は在勤と移動を繰り返すそうだ。我々は[都市出身のヒューム族]として、そうした活動を通しながら徐々に現地のヒュームへ溶け込んでいくことになるという。そのため出発までの1か月は簡単な研修を受けるという事を説明された。


「あなた方には1か月の生活支援として一人4キュレが支給されます。10時~16時までの間なら外出が可能です。課題は、くれぐれも時間を守っていただくよう願います」


そう吏員にいわれ、あてがわれた宿舎の窓からはLRT軌道(路面電車)が見え、数百メートル先には昇降場があった。国都市内は自動化された電動路面電車が網羅しており滞在者は無料で利用できる(運用は税金と寄付金、そして指定席料金により賄われている)。

この宿舎から仕事や研修に行く際、これから1か月世話になる。


―その日は、我々がこの国でやるべき仕事の日だった。―

「左のドアが開く」

路面電車内は1両目左前方に車いす等がジョイント出来る手すりが付いた立ち乗りスペースと、乗座イスがあり、2両目が指定席と貨物・人力車などの荷物区分となっていた。我々4人は立ち乗りスペースで目的地に着くのを待ちアナウンスが流れスゥーっと減速が始まると昇降場に降りた。

現在は13時、昼食を2時間設けているのがこの国の習慣なので人通りはそれほどない。

路地を何本か入ると表通りで見かけたエルフ人種は減り、代わりに顔の半分に刺青が入っており肌の色が青い人種が増える。


これが現在の姿だ。


顔の半分に入った刺青はそれぞれのヒュームの役割を示している。

自由身分を有するヒュームは刺青がないので、①都市に雇われたヒューム②国に雇われたヒューム③家畜であるエヌムームの3種だ。

現状、ヒュームはこの国ではほぼ100%人工子宮によって生まれるため、この身分は生まれた瞬間から死ぬまで変わることはない。

ヴァンダルギア不時着時のヒューム原種(地球人)は肌色という”茶色と白を混ぜたような色”だったらしいが、ヴァンダルギア人との交配によりヘモグロビンが減少することで肌が青く、気性も従順なものとなり、”宇宙を流離うゴブリン”と揶揄されたかつての姿を惑星上で見かけることはない。

これは国際条約により各国には特定の外交施設外においてゴブリンを発見次第に抹殺する事が義務付けられているためでもある。実際に私もこれまで真正のゴブリンには数えるほどしかあったことがない。

この肌の色の差異は、人工統制においても役立っている。

なぜならヒュームどうしの交配ではヘモグロビン欠乏が潜性遺伝であり、肌色の皮膚であることは人工子宮以外から出産されたことを示す。それは人口調整法と家畜配合法により殺処分が行われるべき対象となるからだ。

潜在的にゴブリンはゴキブリのように繁殖し増殖する危険な生物だ。

これは肌の色による差別ではない。

肌の色が青色でない事は、それだけで先祖返りして繁殖欲を抑えられなくなったことを示す、欠陥遺伝子の表出なのだ。



通りを抜け公会堂を改造した野外運動場が見えてくると人だかりが見えてきた。中央には寝台に寝かされた3人のヒューム、そしてが「ひゅー、ひゅー」と胸を上下させ浅い呼吸を行っている。

意識はないようだ。

先に来ていたのだろうエレとアサの姿も見える。中央は観衆から区切られていて、ところどころに憲兵と祭具用の斧を持ったエルフが立っている。


「農場から送られてきた薬体用は8、それ以外の個体は3です。薬体用は室内で処置を行うので、3個体のトドメを皆さんはお願いします。」


チラッと襷を見て短い説明を終えると、屠殺管理を行っている吏員が短刀を差し出してくる。俺は短刀を手に取ると寝台へ向かった。


「ヒュームは管理しなければ星の資源を食い荒らす、困ったものです」

「殺すときは苦痛を与えないよう二酸化炭素や薬物などを使って意識を消失させ死亡させます。体は生体損傷への医療用に使われたり、儀式用の案山子に使われたり、用途はさまざまです」

中等科の課外授業だろうか、教師らしい男性エルフが幼さが残るエルフの少年少女に説明を行っているのが見えた。

彼らの視線を受けながら俺が担当する個体の下に着く。見ると10歳ほどの幼体の牝だった、肌は肌色をしている。



考えるに、山間の集落で不義の子として隠れ住むように育ち親が何かしらあった際に発覚し捕縛されたのだろう。もしくは、意図的に儀式用に用意された個体かもしれない。どうでもいいことだ。



ゆっくりとゴブリンの首に短刀をあて横に滑らせると「ドクッ、ドクッ、」と心臓の鼓動と同調するように血液が流れ始める。血が手にかかるが何度か短刀を滑らせていると骨に到達する。それを確認し吏員に合図を送ると担当官が斧を振り上げ首を断ち切る、これで終わりだ。

なんてことはない、簡単な仕事だ。


「さて皆さん、あの肌色をしている生体は『ゴブリン』ですので、案山子に割り振られます。では武器を出口で受け取って着いてきてください」

見学していた学生一同が広場の方へ移動し始めたのが見える。

このあと首が落とされたゴブリン幼体は磔にされ、エルフの成人になるための儀式に使われる。

そして槍や刀で何度も刺されズタボロになった後、滅菌処理が施された体は家畜の餌や肥料になるのだろう。


(俺にとってこれが仕事であるように、彼らにとっては儀式なのだ。)


「合理性」の下に死を隔離すると穢れと見做し人は死を忌避するようになる。この儀式を断固とした意志でエルフが継続し続けているのは先史時代においてゴブリン(当時は太陽系人と称していたが)の精神麻薬により反乱への初動が遅れたことへの反省だ。

理解できる。

「合理性」「友愛」「経済的観点」そういったものから発露する哀れみ、差別、慈しみ、そういった麻薬として人を狂わせる感情がどれほど多くの害悪を覆い隠すか、この国では全ての国民が理解している。論理的にも誤謬はなく、従ってそれに対して否という感情を持つことはエルフに対して騒乱行為を図っている事と変わらない。


「エイッ!ヤァッ!」


声がしたほうを見るとエレの姿があった。髪を肩で揃えられたガッチリとしている女性体だ。下には男性ゴブリンが横たわっており首の骨を断ち切ろうとしているのか力を入れたり、関節の接合部を探っている。

エレがゴソゴソしているのに担当官が気が付くと彼女に近づき、一言二言会話をすると彼女を離れさせ、ゴブリンの首を断ち切った。

アサの方を見ると、彼も仕事を終えたようだった。


ヨナは室内で作業していたので出てくるのを待ち帰り道、「何か感慨はあったかい?」と、俺は聞いてみた。

ヨナ「そう・・・ね。特に何も」

「そう、じゃあ仕事も終わったし一緒に帰るかい?」

ヨナ「それ以外にあるの?」


血を洗い流し殺菌処置を受けると、4人で来たように電動路面電車に乗車する。


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