10/21 それはきっと醒めぬ夢 1
突如として意識が戻る。前が見えない。なにかおかしい。夢うつつのまま目の前の泥のような闇でもがく。記憶が戻る。全てが自らの身体に戻ってくる。そうだ。これは前が見えないのではない。まるで黒の絵の具で塗りつぶしたような暗闇だ。僕は起き上がる。目が慣れてきた。近くに懐中電灯がある。手を伸ばし、つける。そうだ。それは僕が昨夜作ったものだった。手元の腕時計が映る。学生が誰でも持っているような、黒くて小さいアナログの時計は6時を示す。思い出す。ここは地下だ。懐中電灯を挟んで向かいから、影が出てくる。その影の主はしばらく混乱した様子のあと、いつもの調子で喋り出す。
「もう朝か、おはよう涼」
僕と高澤で、まだ寝ている5人を起こす。店にあった食べ物は全て「止まって」しまっていたので、僕が適当にパンを出す。ご飯を出そうと思ったらお椀いっぱいの硬い米が出てきたので諦めた。昨夜はあれから1時間くらいドローンで観察を続けたが、それといった進展はなかった。そうして店内で夕食を取り、眠りに落ちたのだった。
「よし、腹ごしらえも終わったしそろそろ外に出ようか」
高澤が言う。僕は1回「消して」おいた銃を再び7丁具現化させ、全員に手渡す。「弾はいらない、高圧電流を発射するように改造した」
「戻って来れないかもしれないから荷物は持っていこう、それじゃあ行こう」
高澤が先頭になって、そっとドアを開ける。階段を上り、外に出ると昨夜ドローンで見た通りの異様な光景が広がっている。
「出たとはいえさあ...」
中村が言いたいことはよくわかる。
「これどこ行けばいいわけよ」
その通りである。道だった場所までビルがせり出してカオスな状況になっている。
「とりあえず高いところ行くか駅に戻る方がいいと思うな」
山本の言に従い、とりあえず駅まで行く。駅はビルに覆われるようになりながらも、駅自体からビルが生えることは無く原型を留めている。駅ビルの展望台に上り、そこから僕の作ったハシゴを使って駅を覆うビルに飛び移る。さらにそこを登ると、異様な街を一望できた。それは、制御を失ったがん細胞のように、大量の増殖を行っていた。その中に1箇所だけ、他と比べてもさらにおかしい場所があった。ある一点を中心に爆発するようにビルが生えており、その中心が強く光っている。
それは通信距離の問題で前日確認出来なかったエリアに存在した。
「あれが原因みたいだ」
高澤はつぶやく。
「あそこに行こう」
その時。僕らが立っていた地面がせりあがった。
「なんだ!!」
僕達は持っていかれないと必死に端まで走る。
ただ、間に合わない。僕達は巨大なビルの屋上に持ち上げられた。そして同時に、ビルが生えてきた時の破片が黒く半透明に変質する。それは集まり、ひとつの実態となる。
「な...」
それはまるで立体のホログラムのように、身体がブロックごとに揺れている。知らぬ間に凝視していた。それのすぐそばに説明が現れる。僕はそれを一瞥して叫ぶ。
「敵だ」
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