10/20 明るい悪夢のはじまり 3

原因不明の体調不良に全員が悩まされながらも内容を解読した結果、全員別の方法で表記されていることがわかった。ローマ字、英語、いちばん苦労したものに至っては数式だった。とにかく結果は、それぞれの「能力」とやらが判明しただけだった。結局、高澤、中村、宮石はアタック系統の「能力」、山田、城守はデバフ、山本はバフ、そして僕は...よく分からない「能力」を使えるらしい。

「シールドと回復はわかるよね」

「そうだね、ただこの、理解と具現化ってなんかわかるか涼?」

「僕は知らん」

「だよなあ...」

「文字通り捉えるなら理解って何かの構造を理解するとか?」

「そうかな...」

「高澤、どうした?」

高澤は何かを考えるように立ち尽くしていた。

「いや、なんでも。ただ1個思ったことがある。どう転がっても多分、理解の能力は破壊するようなことは無いと思うんだ。だから...これに使ってみて」

高澤はホログラムを指さす。「能力」の欄には能力の詳細は書いていないのに使い方は丁寧に書いてあった。その通りに「理解」をするための手順を取る。と言っても凝視するだけである。

「出来た」

そう言うと同時にホログラムがもうひとつ現れる。そこにはこう書いてある。

"【Ho-22222式ホログラムスクリーン】

片手で表示可能なポータブルホログラムスクリーン。詳細情報:no-data"

「そういう事か...なら」

僕は厨房の鍋に対して「理解」を利用する。さっきと同じホログラムが現れると同時に、今度は僕の脳内になにかの情報が流れ込んでくる。材質、座標構造...細かな情報がひとつのファイルのようになって流れ込む...

「もしかして!」

僕はその情報を元データとして「具現化」を行う。すると、目の前のテーブルにさっきと全く同じ鍋が出現した。

「そういう事か...」

高澤は感嘆の声を上げる。

「ということは使用法の『想像でも可』って...」

その時点で僕は気づく。僕は具現化の姿勢を取り、目を瞑り、脳内でひとつのものを想像する。

「銃だ!」

それは持ち手は黒で、先に行くにつれデジタルチックな青色に変わっている銃であった。

「なるほど、涼!これは強いぞ!」

僕も薄々気づいてはいたが、これならば必要なものを無限に作れるようだ。僕はそのまま同じ銃を6本「具現化」する。

「これで護身できる!」

「吉宮くんやるじゃん」

「涼、すんごいグッジョブ。これあれば外でれるくない?」

「そうだな。ただ解読に思いのほか時間がかかってしまっているんだ。今はもう17時。安全性を考えても外に出るのは明日の朝の方がいい。それまでは...涼、ドローンって作れるか?」

なるほど。頭いいな。僕は脳内でドローンを想像し、具現化する。いつか学校の夏季講座のドローン講座で見たドローンが目の前に現れる。

「中村。上に駆け上がって、このドローン置いてこれるか?」

高澤はテーブルにある銃を一丁渡しながら訊く。

「任せろ。銃とかなくてもそれくらいならなんとかなる」

と言って外に出ていき、ドローンを外に置いて地下に戻ってきた。

「お前らもドローンで見ればわかると思うんだが...なんかビル増えてる」

そんなことを聞きながらドローンに接続し、画面を覗きながら浮上させる。そして僕は愕然とした。本当にビルが増えているのである。ビルの最上階から別のビルが生えたり、ビルの中間から斜めにビルが生えたりしている。しかも住宅地だったはずの場所まで続いている。そして僕たちがいる場所だけが前の姿を残している。それはまるで、ビルの樹海の中、唯一毒素に侵されていてビルが生えられなかった場所のように孤立している。

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