ギルとニノ

 

 クロノス家の屋敷から東に行くと、浜辺があり、賊の潜伏場所らしき洞穴があった。

 洞穴の入口には、黒いローブ姿のもの達が複数倒れていた。


「誰か、来ているのでしょうか....」

「分からんが、敵がいないのは好都合だ。急ごう」

「ええ」


 洞穴に入ると、そこにも戦った痕跡があった。

 ざっと30体は超えるだろうか....。

 一体誰が.....。


 さらに進むと、戦闘音が聞こえ、2人の少年が見えてきた。

 少年は敵の竜力を上手く剣でいなし、戦っていた。


 あれは、クロノス家の双子か?


「"真水機銃ペルラ・ジャドグワ"っ!お前たち、後は俺らに任せて休んでいろ」

「「.....」」


 顔を見て分かったが、既に二人は気を失っていた。

 気絶しても戦い続けるとは。

 この二人は何に突き動かされてここまでするのか....。


「済まないが、先を急ぐ。行くぞ、スティーリア。....必ず後で助けるからな!」


 途中接敵しつつも、洞穴を抜けると、空が見える広い空間に出た。


「....50、....70、....90」


 高いところに陣取っている敵はおよそ100人。

 竜化した儂らであれば、大した数ではない。

 きっと、この奥にネヴィアがいる、そう思った。


「「"対竜アンチドラゴン領域フィールド"」」


 複数の敵が発した言葉により、足元から光る円形の紋様が浮かび上がる。

 その瞬間、儂とスティーリアの竜化は解け、竜力を感じることが出来なくなった。


「カリオルっ?!」

『ゴート、俺の事はーーするな。これはーーの力だ。気ーーけろ....』


 相棒ソシオとの対話にもノイズが入り、遂には聞こえなくなった。


「はっはっはっ!!!竜人は生身になった途端、弱くなるなっ!!」


 奥から現れた、赤のローブを被った男が言った。


「貴様っ、何をしたっ!!」

「これから死に行く者には関係の無い事だ!アルカディアの人差し指インデックスである俺が、貴様らを処刑してやるっ!!」

「スティーリアっ!」


 儂はスティーリアを抱きしめ、死を覚悟した。


「"降雨ラビア"+"永久凍土グラセーテル"っ。合成レゾナンス"広域氷雨"」


 上空から少女の声が聞こえ、その少女が繰り出した氷の雨は、儂らを避けて、敵を一掃した。


「き、貴様、何故この中で力を使えるっ?!!」

「ふんっ、この程度の"対魔法アンチマジック"で儂を抑えられると思うなよ」


 黒髪の少女が発した言葉は、その姿にそぐわないものだった。


「ま、まさか、貴様っ、竜王かっ!!」

「ふんっ、これから死に行く者には関係の無い事だ」

「なっ....、ば、馬鹿にしやがってぇぇっ!!!"獄炎球ヘル・フレイム"っっ!!」


 敵が放った赤黒い炎を、少女は容易く水の壁で防いだ。


 先程は氷の雨、次は水の壁。

 この少女の相棒ソシオは水氷竜なのか?!


「全く、生ぬるい炎だ。炎で竜に勝てると思うなよ?"炎小銃カラビナーマ"+"風弓アルコント"×"ネグロ"っ」


 黒い炎だとっ?!

 それだけではない、あの少女の相棒ソシオは一体何なのだ?!!

 敵は炎の壁を出し、防いでいるが、少女の方が圧倒的に........強い。


「"防炎殻"」


 奥から、さらに紫のローブの男が現れ、黒い炎を受け流した。

 その男の手にはーーーー。


「ネヴィアっっ!!!」


 しかし、よく見ると胸に穴が空いていた。

 再び怒りが込み上げてきた儂は、左手を突き出した。

 しかし、まだ竜力を感じることは出来なかった。


「"黒き炎は全てを焼き尽くす"、ですか。まさか、竜王様の御業をお目にかかれるとは、光栄であります。しかし、我々に闘う意思はございません。どうぞお引き取りを」

「貴様らに無くとも、儂は貴様らを滅せなければならん」


 先程から、こやつらは何の話をしてるのだ。

 竜王だと?

 あの童話のか?

 あれはただのおとぎ話では無いのか。


 儂の頭は疑問で溢れた。


「さて、まだ竜王様と話をしていたいですが、用は済みましたので、ここで失礼させていただきます」

「儂が逃がすと思うのか?」

「どうでしょう。しかし、洞穴にいる男性が気になりますね。無事だと良いのですが」

「......っ」

「では、失礼します。行きますよ、人差し指インデックス

「....ああ」


 男たちは消えるように去っていった。

 それと同時に、儂の竜力は戻った。


 難は去った。

 しかし、この少女にどう接したものか....。

 竜王が存在するなど、十貴族でも知りえない事だ。


「大丈夫、おじさん?」


 儂が悩んでいる事も知らず、少女は少女らしい言葉で話しかけてきた。


「お、俺がおじさん....だと....?俺はまだ36だっ!!」

「くすっ」

「笑うな、スティーリアっ!!」


 少女も笑いだし、示し合わしたかのように笑う二人。

 今にして思えば、あの時スティーリアは悲しみを忘れようと笑っていたのかもしれぬ。


「あっ!!そうだ、ギルが心配なんだったっ!!」

「ギル?」

「うんっ!アタシの彼氏ぃ」


 少女は満面の笑みとピースをして、ササクサと洞穴に入っていった。


「私達も行きましょう。あのクロノスの少年たちが心配です」


 スティーリアに言われるまで、すっかり忘れていた。

 儂らは少女を追い、洞穴に入った。

 暫くすると、少女の荒らげた声が聞こえた。

 見えてきたのは、3人の少年の姿だった。


「はは、ちょっと伏兵にやられちゃってね....」

「ちょっと待ってね!"治癒ガルム"っ」


 この少女は治癒まで出来るのか?

 何なんだ、この娘は....。


「そ、そなたたちは、何者なんだ?」

「....ただの下民だよ」


 確かに、見た目は黒い瞳に黒髪で下民そのものだが....。

 仮に、この少女の相棒ソシオが竜王だとして、なぜ下民に?

 本来、下民の相棒ソシオ下位竜ニベルか微弱な原竜アートモのはず。


「その力どこで手に入れた?」

「.....それは言えないよ。もし、おじさん達が知っちゃうと、殺さないといけなくなっちゃうから....」

「下民風情が俺を殺すだとっ?!!」

「さっきの出来事を見ても、それを言い切れる?」


 儂は何も言い返せなかった。

 当時の儂は下民の事を害を成すものとして見ていた。

 生きている価値などないと、そう思っていた。

 しかし、この出来事以降、考えを改める事になる。


「....だからね、今日見たことは他言しないで欲しいの」

「....そっ、そんなことーーーー」

「承知しましたわ」

「スティーリアっ?!」

「スティーリア=ジ=アルバに掛けて、他言しないと違いますわ」


 十貴族にとって、自身の名に掛けるというのは、最大級の誓いである。

 スティーリア、そこまでするのか....。


「ありがとっ、お姉ちゃん!」

「なっ....、スティーリアはお姉ちゃんで、俺はおじさんか?!」

「あら、その言葉は私も敵に回しますわよ?」

「なっ....」


 これが、儂とニノとギルの出会いじゃった。

 その後、すぐに二人は旅立ち、儂らもネヴィアの事を報告する為に、屋敷に戻った。

 当然、貴族会議は中断され、十貴族によるネヴィアの捜索が行われたが、成果は得られず。

 儂らは改めて、ネヴィアを失った悲しみに明け暮れた。


 じゃが、その中でも最初にスティーリアが前を向き、進み出した。

 きっと、ニノと出会っていなければ、もっと時間がかかっていただろう。

 次に儂も気持ちの整理がつき始めた。


 その時、ようやくニノに救われたのだと実感した。

 スティーリアと話し合い、感謝の意を示す為、二人の指輪を用意した。

 再び会える事を信じて。

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