無事

 

 翌朝、日光と共に夏本来の暑さを感じ、目を覚ました。

 同時に体の疲れが取り切れていないことに気付く。


「...流石に竜力を使いすぎたかな」


 シキの竜力にはまだまだ余りあるが、僕の体が追いついていない。


『仕方あるまい、実際にあれ程の竜力を一度に使ったのは初めてだからな』


 夢の世界での特訓では様々な事を試しているが、やはり現実の世界で実践してみないと成長しない。

 誰にもバレない場所に行ければいいんだけど....。


 程なくして扉が開き、リナが僕を起こしに来た。

 リナと共に朝の支度を終え、一日が始まる。


「カルマ様、奥様から応接室に来るようにと、言伝てを預かっています」


 そう言うリナに続いて、応接室へと足を運んだ。

 応接室にはマナさんの姿しかなく、ゴートさんとスティーリアさんの行方を聞くと、昨日の内に屋敷に戻ったのだらしい。


「ところで、今日は何かあるのですか?」


 応接室に呼ばれた理由を聞くと、特に何も無いと言う。


「ちゃんとしたお礼を言いたかったのよ。マリンを助けてくれて、本当にありがとう。貴方には感謝してもし切れないわ」

「い、いえ、助かって本当に良かったです....」


 血は繋がっていなくても、マリンは僕の妹だ。

 また家族を失うのは、嫌だった。


「うふふ」


 何かを察したのか、マナさんは僕を力強く抱きしめた。

 いつもは冗談半分のこの行為だが、今日は僕も応えた。


「あ、そうそう。カルマが連れてきたグリードだけど、本人の希望もあって貴方の執事になってもらうことにしたのよ」


 そういえば、氷竜に何か言われてたっけ。


「そのグリードさんは?」

「荷物を纏めてくるって言って、朝早くに出発したわよ。次いでにお父様の所に寄ってもらって、マリンの無事の報告もしてもらうことにしたの」

「そうでしたか....」


 ん?そういえば、今日はやけに屋敷が静かだな。

 マリンが病み上がりって言うのは分かるけど....。


「アリアは今どこにいるんです?」

「あの子ったら、熱を出しちゃって。きっと、疲れきっていたんだと思うの。だから今日は一日休むように言ってあるわ」

「すみません、無理をさせてしまって....」

「ううん、あの子もマリンの為に頑張ったのね。そうだ、マリンが貴方に会いたがっていたわよ?」

「え、マリンが?」


 ....そういえば、昨日、シキが目覚めたら遊ぼうって言ってたんだっけ。

 早速、僕たちはマリンの居る、地下室へ向かった。

 まだ地下室に居るということは、上手く竜力の制御が出来ていないのかもしれない。

 そんな不安を胸に、地下室の扉を開けた。

 しかし、そこには元気よくベッドの上を飛び跳ねる、マリンの姿があった。


「あ、お兄ちゃんだっ!!」


 ベッドから飛び降り、僕の胸に飛びついてきた。


「ねぇ、早く遊ぼっ?!」

「こらっ、まだ大人しくしてなさいって言ったでしょ?それに、先に言うことあるでしょ?」

「...ごめんなさい、お母様」


 マリンは僕から離れ、2歩下がった。


「お兄ちゃん、マリンを助けてくれてありがとう!」


 ....シキ、今度は助けられたんだね。


『ああ』


 マリンの元気な姿を見て、僕の目には少し涙が浮かんだ。


「どういたしまして!マリンが無事で良かったよっ」

「えへへ」

「母上、マリンと遊んじゃダメですか?」

「そうね〜、熱は引いたのだけど、一応、今日一日は様子見かしら」


 昨日、約束した手前、申し訳ない。


「約束したのに、ごめんね。明日になったら遊ぼ?」

「うんっ、分かったっ!約束っ!!」


 今日はアリアもマリンも休んでるから、大人しくしておこうかな。

 久しぶりにゆっくり街を歩いてみるのもいいかもね。


 しかし、それは突如現れた金髪の少女によって叶わないのであった....。

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