マリン=ジ=アルバ

 

 熱いよ....寒いよ....。


 マリンは地下室のベットの上で寝付けない夜を過ごしていた。

 こうして過ごす夜は初めてじゃない。

 寧ろ、これが日常。


 マリンは生まれてからこの地下室から出たことがない。

 その理由を昔、お母様に聞いた事がある。


「...お母様、マリンはどうして、ここから出ちゃダメなの?」

「それはね、麒麟児と呼ばれる特別な子だからよ」


 その後、お母様は麒麟児について教えてくれた。

 マリンのように、生まれつき竜力を持ってる子。

 でも、その代わり、大人になったらとっても強くなれるんだって。


「さ、今日も息抜きしましょうね」


 そう言って、お母様はマリンの手を握る。

 その間だけは、とても心地の良い、何処か楽になる気がした。


「...でも、マリン、お外で遊びたいよ....」

「ごめんなさい、今は出来ないの...。でも、5歳になって、相棒選エレヒールを終えたら、いっぱい遊びましょうね!お父様や私、マリンも楽しみに待っているから!あと、カルマもね!」


 マリンにはお姉ちゃんとお兄ちゃんがいる。

 まだ一度も会ったことないけど、きっと優しくてかっこいいんだろうなぁ。

 マリンも楽しみだよ....。


 ガチャッ。


 扉の開く音がした。

 こんな夜中に来るなんて、一体誰?

 普段、人なんて入って来ないのに....。

 怖い、怖いよ...。

 来ないで!


 そう思っていると、段々と息苦しくなってきた。

 胸の奥がどんどん熱くなる。


「....嫌、....嫌っ」

「大丈夫だよ、今から助けてあげるから」


 握られた手から、温かみを感じた。

 微かに映る視界に、かっこいい男の人が見えた。


「シキ、これからどうすればいい?....。うん、分かった」


 誰、なんだろう...。

 分からない、でも、どこか心地いい。

 お母様と同じ匂いがする。


「小娘、目を閉じていろ」


 え、誰?

 ...でも、瞼に触れている手からは、温かさを感じる。


「....小娘、口を開けて、ゆっくり息を吸え」


 マリンは言われるがまま、大きく息を吸った。

 すると、口の中に冷たいものが入り込み、喉を通って胸の奥に染み渡るのが分かった。

 途端に、胸の奥から手足にかけて、全身が冷やされていった。

 今までに感じたことの無い心地良さ。

 こんな事が出来るのは一体どんな人なのだろうか。

 そんな疑問をマリンは感じた。


「....だ、誰?」

「儂はシ....いや、カルマだ。目が覚めたら共に遊んでやる」


 カルマ...。

 聞き馴染みのある名前。

 そうか、マリンのお兄ちゃんは王子様だったんだ...。

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