愛しの妹へ

 

 グラスジュエリーを手に入れた僕達は、一度グリードさんの小屋に戻っていた。


「待ってください」


 何かに気付いたグリードさんが、僕たちの歩みを止めた。

 グリードさんの小屋をよく見ると、誰もいないはずなのに、灯りが付いていた。

 リナとグリードさんを先頭に恐る恐る小屋の扉を開けた。


「あ、貴方は!!」


 そこには、黒い手袋をした、黒髪の少女と執事服の男が居た。

 少女は椅子に座ったまま、口を開いた。


「久しいな、グリード」

「ははっ、クリスタ様」


 グリードさんは、すぐ様膝を着いた。

 手袋をしているということは、きっと十貴族のヘキサート家の人だ。

 僕たちが披露宴で指輪を授かるように、ヘキサート家の人は手袋を貰う。


「今日は父の名代で参った。ボストロール」

「はっ。グリード殿、こちらを」


 ボストロールという執事が手渡したのは一通の手紙だった。

 グリードさんは封を開け、手紙に目を通した。


「ところで、後ろの貴方たちは...アルバ家の人か?」


 僕たちが手袋で判断した様に、少女もまた、僕たちの指輪を見てそう言った。


「そうです」

「であれば、少年が持っているのが、グラスジュエリーか....。既に目的は達していたという事だな」

「目的って?」

「アリア様、こちらの手紙はグラスジュエリーを探しているアリア様たちを手伝うように書かれています。オルト様に依頼されたと」


 そうか、きっとオルトさんが貴族会議の場で、ヘキサート家の人にお願いしたんだ。


「少年、もし良ければ、グラスジュエリーを見せて貰えないだろうか?」

「は、はいっ」

「ふむ、これが、グラスジュエリーか。まさか伝承が本物だったとは....。ありがとう。....ところで、少年。なぜ、貴様が指輪をしている?アルバ家には娘しか居なかったと思うが」

「そ、それは....」


 恐らく、オルトさんが僕のことを話していないんだろう。

 であれば、僕が下手に言うべきではない。


「.....」

「...まぁ、いい。アリア嬢が傍に居るということは何かしらの事情があるのだろう。突っかかって悪かったな。叔母様は息災で在られるか?」


 叔母様?

 迷った僕の後ろからすぐ様アリアが答えた。


「うんっ、元気だよっ!」

「そうか。用は済んだ。帰るぞ、ボストロール」

「ははっ」


 少女は足早に小屋を去っていった。


「アリア、叔母様って言うのは?」

「えーっとね!ママの妹がクリスタ姉さんのママなの!」

「ええっ!!」


 って事は、あの人は僕たちの従姉妹になるのか。

 それよりも、マナさんに妹が居たって言うことの方が驚きだ....。


『カルマ、儂らも早く出た方がいい。グラスジュエリーに期限がある事を忘れるな』


 そうだった。

 咲いてから30時間を過ぎると消滅してしまう。

 そうなれば、今までの苦労が無駄になる。

 ここまで帰ってくるのに、既に1時間は過ぎているはず。

 ゴートさんの屋敷を経由して、アルバ家の屋敷に戻るまでは丸一日かかる。


「僕たちも急いで戻らないと」

「確かにそうですね。私は先に行って馬車の準備をして参ります。グリード殿、そこまで御二方をお願いします」

「分かった」


 早速、僕たちはグリードさんに続き、来た道を戻った。

 グリードさんの案内のお陰で、馬車までは直ぐに着くことができた。

 馬車に乗るなり、アリアは気を失うように、僕の膝の上で眠ってしまった。

 一日中、竜力を使い、慣れない雪道を歩き回ったのだ。

 無理もない。


「カルマ様、お願いがあります」

「どうしたんですか、グリードさん?」

「グラスジュエリーに期限がある事は知っています。しかし、少し寄り道をさせて頂きたいのです。そう時間はかかりません」


 期限の事を知っていての提案。

 その真剣な顔を見るに、どうしても寄りたい場所があるのだろう。


「いいですよ」

「ありがとうございますっ!馭者ぎょしゃは私にお任せを!」


 僕はその提案を受け入れた。

 疲れが溜まっていたせいか、出発して間もなく、僕も眠りに着いた。


「カルマ様、着いたようです」


 リナに声をかけられ、目が覚めた。

 そこは深い森の中だった。


「ここは?」

「ここは、北方都市ノルテの東の森にある墓地です」


 グリードさんが馬車の扉を開けながら言った。


「着いてきてください」


 グリードさんに誘われ、墓地を進んで行くと、一際豪華な墓があった。

 墓標には、"シビア=オルム"と書かれていた。


「ここに私の妹が眠っています。妹に一目グラスジュエリーを見せたかったのです」


 僕はグリードさんにグラスジュエリーを渡し、そっとリナと共に馬車に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る