大陸の最北端

 

 グリードさんの小屋で一夜を過ごした僕たちは、早朝、グリードさんに着いていき、大陸の最北端を目指した。


「大陸の最北端は岬になっていて、すぐそこです」


 グリードさんの言う通り、目的地は小屋から歩いて10分ほどの所にあった。

 雪の積もった道ではこうも早く着かないとグリードさんは言った。

 この歩きやすさだけは今の季節に感謝しないとね。


「それで、カルマ様。どうやって雪を降らすんです?」


 そろそろ聞かれる頃だと思った。

 正直、僕も知りたい。

 言われてるけど、実際どうするの、シキ?


『雪は本来、雨が冷たい空気に凍らされたものだ。要は雨を降らせて、空気を冷たくすればいいだけだ』


 凄く簡単に言うんだね....。


『実際、簡単だからな。後は-40℃になるまで、ひたすら空気を冷して循環させる。そうすれば、自ずとグラスジュエリーは咲く』


 分かった。

 やってみよう!


 幸いな事にも、適任者は揃っている。

 まず、僕とグリードさんで"氷結ニエベ"という技を使って冷気を出す。

 それを、リナの風竜の力で上空へ送る。

 ここら辺の空気が冷えたところで、アリアに雨を降らせてもらう。


「つまり、グラスジュエリーが咲くか、私達の竜力が底を着くかの我慢較べという事ですね?」

「リナの言う通りだ!マリンを助ける為、頑張ろっ!!」

「「「おおーっ!」」」


 しかし、そう上手くは行かない。

 始めは順調に進んでいたものの、3時間程でアリアの限界が来てしまった。


「ご、ごめん....」


 無理もないよ。

 相棒ソシオ真級ペルラとは言え、まだ7歳の少女。

 半径1kmの範囲に雨を降らし続けるのは相当竜力を消費するはず。

 少し効率は落ちるが、僕がアリアの代役となり、雨を降らせた。

 しかし、それから1時間程して、リナの限界が来てしまった。

 少し回復したアリアと代わり、次は僕が風を起こし、冷気を上空へ送った。

 その後は、アリアとリナが交互休憩しながら、グラスジュエリーが咲くのを待っていたが、等々日が落ちる頃になっていていた。


「やはり、無理なのか....」


 そう嘆くグリードさん。

 流石、傭兵をしているだけ、竜力の量が多い。

 ここまで一度も休むこと無く、冷気を出し続けている。


「カルマ様もそろそろお休みになられては?」

「ううん、大丈夫」


 僕もここまでノンストップで作業し続けているが、まだまだ竜力には余力がある。

 でも、日も落ちたし、ここまでかな...。


「みんな、今日はそろそろ....」

『いや、待て』


 どうしたの?


『今で大体-20℃ってところか...。ここまで下げたんだ。帰るのは勿体ない』


 でも、もうみんなヘトヘトだし....。


『ああ、だから、ここからは儂がやる。体を貸せ』


 わ、分かった。


「....、お前は休んでいろ」

「え...?あ、はい」

「"浮遊ボラル"」


 シキは僕の体を動かし、上空へ飛んだ。

 ちょうど雲の下で止まり、右手をゆっくりと上げた。

 これまで、4人で分担していたことを1人で熟すには、膨大な量の竜力が必要だが、シキなら問題ない。

 それに、僕とシキを繋ぐパイプはこの2年間で50倍は太くなっている。

 50倍と言っても、当時は糸のようなものだったのが、綱くらいになっただけだ。


「始めるとするか。"降雨ラビア"、"大氷結ニエベンデ"」


 頭上の雲から大粒の雪が降り始め、シンシンと地上に降りたって行く。


「やはり、水は冷えにくいな....」


 シキの目線の先には広大な海があった。

 そこへシキは左手を向けた。


「"永久凍土グラセーテル"」


 左手の延長先から海が凍り始め、瞬く間に一面を変えた。

 その瞬間、更に気温が低くなったのを肌で感じた。

 これなら...。


「ああ、これで条件は整った。出てこい、グラスっ!」

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