貴族会議にて

 

 貴族会議は1年に4回行われる、十貴族による領地統治のための会議だ。

 それぞれが統治している街の状況や問題を話し合う場。

 開催はいつも決まって東方都市エステで開かれる。

 ここは元々、大戦時代に使われていた司令塔で、当時もここで十貴族による作戦会議が行われていたと聞いている。


 円形の机にそれぞれの代表者が座り、その後ろの椅子に配偶者や後継者が座っている。

 僕の右手から、


 十貴族第五席 アールデン=ジ=フィフシオン

 十貴族第六席 グラン=ジ=ヘキサート

 十貴族第七席 スレヒト=ジ=セブンスター

 十貴族第八席 シータ=ジ=エイテス

 十貴族第九席 デラフト=ジ=ノベンタ

 十貴族第十席 コーキ=ジ=クロノス

 十貴族第一席 アーサー=ジ=セロウノ

 十貴族第二席 ルクシオ=ジ=ツーベルク

 十貴族第三席 アリス=ジ=サンシスタ


 そして、この人達を纏めているのが僕、十貴族第四席オルト=ジ=アルバだ。

 この纏め役、つまり、十貴族の長は国王の指名と残り9人の投票で決められる。

 それぞれの席次が統治する街区と同じになっており、5つある都市に分けられている。

 都市の統治を任されている僕たちには、唯一侯爵の爵位が与えられており、ここにいない分家には伯爵の爵位が与えられている。


「ーーーこれで、今回の議題は以上となりますが、個人的に皆さんにお願いしたいことがあります」

「個人的な依頼だ?十貴族の長ってのは便利なもんだなっ!」


 僕のお願いに異を唱えたのはセブンスター家当主のスレヒトという男だ。

 この人は毎回何かと僕に対して悪態をついてくる。

 金髪で乱れた服装がさらに横暴な態度を増加させている。


「答える気がないのであれば、最初から黙って貰って結構です」

「ちっ、半民風情が...」


 半民とは僕のような黒髪、もしくは黒い瞳のどちらかを持つ者に対しての差別用語だ。

 しかし、ここに黒髪の人は僕以外にもいる。

 少しずつだが、空気が悪くなっていくのが分かる。


「私の夫を愚弄しないでくれるかしら?この人はアルバ家の立派な当主よ」

「ふんっ、鉄の処女アイアン・メイデンと呼ばれたお前がそんな甘い言葉を発するとはな」

「あらあら、随分と昔の話をするのね。女性対して昔の話をするなんて、デリカシーが無いんじゃないかしら」


 マナが僕の事を庇ってくれるのは嬉しいが、このままだと話が先に進まないので、1つ咳払いをして、話を止めた。


「それで、個人的にお願いしたいこととは何だね、オルト殿?」


 興味を示したのはノベンタ家当主のデラフトだ。

 この仮面を着けた人は、僕が学生時代に講師をして貰っていた。

 当時から僕の事となると強い興味心を剥き出しにしてくる変わり者だ。


「はい、皆さんはグラスジュエリーという花をご存知ですか?」


 反応を見る限り、十貴族の中で知っているのは僕を含めても半分くらいだ。

 ここで、鍵となってくるのが、この話を語り継いでいるヘキサート家。


「どなたか、お持ちの方はいらっしゃいませんか?僕の娘が氷結病にかかってしまい、治療薬が必要なんです」

「....どうやら、知らないようだが、グラスジュエリーは開花してから30時間しか持たない。それを超えると溶けて消える」


 家紋の入った黒い手袋を装着し、手を口の前にしたグランが言った。


「....初耳...です」

「叔母上から聞いたのなら知っていると思ったが、娘の事で少々焦りすぎた様だな」

「...耳が痛い」

「まぁいい。あの花には宛がある。屋敷に戻ったら聞いてみよう」

「本当かっ、グラン!」

「ああ。なに、昔の借りを返すだけだ」


 ここに居る十貴族の内、アリス、コーキ、グランは学院の同期だ。

 馴染みもあって、会議の場で口裏を合わせて貰うこともあるし、お互いに借りがあったりする。

 グランの件もそうだ。

 学生時代に作った借りを返してもらうとしよう。

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