北方都市ノルテ

 

 オルトさんたちの熱い闘いの後、観客になっていた、二街区の住人たちの声が聞こえてきた。


「この寒さはどうなってるんだ。朝から水が出なくて困ってるよ」

「俺の所もだよ。雪が積もってちゃ、商売に支障が出ちまう」


 この寒さはこの屋敷を、引いてはマリンを中心に展開されている。

 離れれば離れるほど寒さは和らぐようだが、屋敷の近くの住人は、諸に影響を受けていた。


 それを見かねたオルトさんが、ゴートさんをマナさんに任し、住人達を呼び止めた。


「みんな、聞いて欲しい!」


 もちろん、この言葉に住人は戸惑い、困惑した。

 しかし、こんな事が前にもあったかのように、少しずつ静まり返った。


「これから話すのは、皆も不安に思っているであろう、この寒さについてだ。率直に原因から説明すると、うちの娘、マリンの暴走によるものだ」

「暴走っ?!ってことは竜化してるってのとですかい?!!」


 住人に恐怖の空気が漂った。


「いや、竜化はしていない!もしもの時に備えて、地下で生活してもらっている。この寒さについても、今のところ手の打ちようがない。なるべく早く解決するつもりだが、それまで皆には迷惑を掛けてしまう。申し訳ない」


 オルトさんが頭を下げた。


「あ、頭を上げて下さいっ、領主様っ!!」

「以前、私達の命を救って貰った時に比べれば、これしきの事どうってことありませんっ!!」

「そうですぞっ!それより、領主様は娘さんの事を心配なさって下さいっ!!」


 住人たちは一同に膝を着いた。


「みんな、ありがとう」


 オルトさんによる住人への説明が終わった後、僕達は執務室に集まっていた。

 ゴートさんは客室でマナさんの治療を受けている。


「それで、アリアと...カルマだったわね」

「はい、...スティーリア様」

「マナの息子と言うのなら、私のことはお祖母様でいいわ。あなたたちで、グラスジュエリーを採りに行くと言うのは本当なの?」

「任せてよっ!マリンの為に、私、頑張るっ!!」

「そう...。だったら私達の屋敷に顔を出しなさい。グラスジュエリーが採れるまで、居座るといいわ。使用人には話を通しておくから」

「ありがとう、お祖母様っ!!」


 僕もアリアと同じく頭を下げた。


「でも、そう簡単に見つかるだなんて、思わない方がいいわ。私も子供の頃、雪の降る日に毎日見に行っていたけれど、等々見つけることは出来なかったわ。それに、季節的にも雪が降るとは思えない」

「うふふ。そこはカルマが何とかしてくれるよっ!」

「...そう。なら、いいのだけど。あなたの相棒ソシオは氷竜なのかしら?」

「いいえ、水竜です」

「...そう。まぁ、せっかくだから、頑張ってきなさい」

「「はい」っ!」


 翌朝、僕たちはこの大陸の最北端を目指すため、北方都市ノルテへ向かった。

 出発前にこれ程かという程の防寒具をリナから渡された。


「ノルテは夏でも冷える為、あるに越したことはありません」


 寒いのが苦手な僕を気遣ってのことだろう。

 でも、寒くなったら、"炎衣ヴェストーマ"を使うから問題ないんだけどね。


 馬車に乗り込んだのは僕とアリアと傍付きのメイドが2人で、馭者ぎょしゃはリナだ。

 マリンの為に、どうしても行きたがっていたオルトさんだが、タイミング悪く明日から貴族会議があるそうだ。

 終わり次第、合流すると言って、僕達よりも先に東方都市エステへ向かっていった。


「我々も出発致しましょう」


 屋敷から北方都市までは、馬車で丸一日かかるらしい。

 一帯の寒波は屋敷から遠のくにつれて、徐々に薄れていき、二街区を出る頃には夏らしい暑さを感じた。

 しかし、半日も経ちノルテへ近づくにつれて、再び寒さを感じてきた。


「カルマ、見えて来たよ!」

「うわ...」


 つい、声が出てしまった。

 以前見た、中央区とはまた違った壮大な光景が広がっていた。

 街を囲む古風な石の壁に、氷を使った圧巻の城。


「あそこは別名、永久凍土ノルテって言われてるんだよ」


 夕日の差し込むそれは正に幻想的な街だった。


「あれ、街から反れてるようだけど...」

「いいの、お爺様の屋敷はここよりもう少し北東に進んだ郊外にあるのよ」


 屋敷に着く頃には夕日は沈み、無数の星が見える時間だった。

 都市も凄かったが、夜空も素晴らしい。

 馬車を降りると、中年の執事がいた。


「アリア様、カルマ様、ご到着をお待ちしておりました。お体が冷える前に、どうぞ中へお入りください」


 そう言って案内されたのは、執務室くらいの客間だった。


「こちらの部屋と両隣に寝室をご用意しております。こちらに滞在する間はご自由にお使い頂いて構いません。これからすぐに、夕食をお持ち致しますので、暫しお待ちください」


 夕食が来るまでの間に寝室を確認しておくことになった。

 一部屋にベッドが1つずつあった。


「あれ、リナは?」

「私は使用人用の部屋がありますので、そこで休ませてもらいます」


 僕たちはそこでそれぞれ夜を過ごした。

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