オルトvsゴート

 

 マリンの部屋に突如現れた、ゴートという老人に僕の存在がバレてしまった。

 しかも、その人はマナさんの実父らしい。

 ゴートさんの反応からしてオルトさんは僕の事を話していなかったのだろう。

 クソガキ、表出ろと言い残して、部屋を去ってしまった。

 クソガキと言うのはオルトさんのことだ。

 どうやら、ゴートさんはオルトさんの事をガキやクソガキと呼ぶ事があるらしい。


「今日こそ、僕死ぬのかな....?」

「あらあら、大丈夫よ。私と結婚してからお父様に負けた事なんてなかったじゃない」

「でも、もう何年も言われてなかったのに....。はぁ.....」


 オルトさんは幾度となく、ゴートさんに表出ろと言われ、決闘をしていたそうだ。

 最後に決闘をしたのが、アリアを身篭った日だと言うので、実に8年振りになる。


 マリンの部屋には傍付きのメイドと医者のみを残し、後はゴートさんの後を追い、表へ出た。

 表とは文字通りの意味で、屋敷から正門に至る道を挟む形で2人が向かい合った。


「お、もしかして、決闘か?!」

「おいおい、いつぶりだよっ!!早く皆を呼んでこい!」


 門の前を行き行く人達が気づいたのか、決闘を観戦しようと二街区の住人が集まってきた。


「うふふ、昔はよくああやって決闘をしていたのよ」


 マナさんが懐かしむように僕とアリアに教えてくれた。


「パパとお爺様が喧嘩するの?」

「うーん、少し違うわね。あの人たちが言うには、漢には譲れないものがあるらしいわ」

「ふ〜ん。よくわかんない。カルマは分かる?」


 そういえば、昔エスペランサでも父さんとセルナさんの旦那さんが同じような事を言って競争してたような....。


「まぁ、分からなくはない...かな?」


 そうこうしている内に、門の前は観客で溢れかえっていた。

 ルドーの指揮の下、少しずつ観客を敷地内に入れていき、2人を囲う大きな半円が出来ていた。

 ある程度観客を誘導した後、ルドーが2人の間に入り、両者の顔を伺った。


「それでは、思う存分なさいませっ」


 ルドーの振りかざした手によって、決闘の火蓋が切られた。


「貴様ぁぁぁぁああっっっ!!!!クソガキの分際でマナを誑かすだけでなく、愛人と子を成すだとっ?!!死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁっ??!"真水機銃乃竜ペルラ・ドラジャドグワ"っ!!!」


 ゴートさんの怒り狂った言葉と共に、無数の水竜がゴートさんの周囲から放たれた。


「貴族たるもの愛人の1人や2人いてもおかしくないでしょっ!!!"真水壁乃罠ペルラ・パレヴァルグワ"っ!!」


 オルトさんは地面に手を付き、水の壁を出し、それを防いだ。

 防いだものをそのまま反射するかのように、無数の水の球が放たれた。


「"真水壁ペルラ・パレグワ"っ!ガキに限っては例外じゃっ!何より、マナよりも先に孕ませるのが間違っておると言うとるっ!!"真水小銃乃竜ペルラ・ドラグワール"っ!!」


 ゴートさんも壁を立てて防ぎ、右手で水の玉を溜めて放った。

 放たれた水の玉は線を描きながら、オルトさんの方へ一直線に向かっていった。


「それには深い事情があるのです!詳しくは言えませんが....」


 オルトさんはそれを華麗に避け、反撃に転じた。

 2人が使う技は全てハイレベルなもので、まだシキに教わっていないものばかりだった。

 初めて見る、大人の闘いに僕は目を奪われていた。


「うふふっ、昔っからいつもああなのよ。見てて本当飽きないわ〜」


 そう言って笑うマナさんと同じく、観客からも笑い声や、歓喜の声が聞こえてくる。


 前にオルトさんが言っていた、身分に関係なく楽しく暮らせる街とはこの事だろう。

 やっぱりオルトさんは凄い人だ。


「ゴート様こそ、昔はスティーリア様以外の女性と関係を持っていたと聞いていますっ!!」


 オルトさんは再び華麗な横ステップで攻撃を躱し、側面へ回った。


「今、儂の事は関係ないであろうっ!!」


 側面からの攻撃に、ゴートさんは体を捻りながら後ろに飛ぶという、華麗な回避を見せた。

 しかし、着地と同時にグキッという音が鳴り響き、ゴートさんは悶え苦しみながら膝を着いた。


「あああぁぁぁぁあああっっっ!!!!こっ、腰がぁぁぁあああああ.......っっ!!」

「だ、大丈夫ですかっ?!」


 腰を抱えて蹲るゴートさんにオルトさんとルドーがすぐ様駆け寄った。


「あらあら、幕引きのようね。リナ、悪いのだけれど、街の人たちを案内してくれるかしら」

「はい」


 そう言ってマナさんは、ゴートさんの様子を診る為にオルトさん達の方へ行った。


「...パパ達、凄かったね」

「...うん」


 アリアも僕と同じようにオルトさん達の闘いに見惚れていた。

 大人たちは皆あんな凄い闘いを繰り広げるのか。

 僕もいつかはあんな風に大切な人を守れるのだろうか。

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