南西の湖

 

「それにしても暑っついわね!」


 この悪態を着いている少女はティアと言うらしい。

 身長は同じくらいだと言うのに、常に上から見られている感じがする。


「ティアは髪が長いから」

「短くったって暑いわよ。こういう日は水辺に行きたいわね」


 この何気ない一言で僕たちの今日の予定が決定した。


「そうだわ!湖に行くわよっ!」

「湖?」

「そう!王都の南西にある大きな湖よ!名前は確か...えーと...」


『イーラ湖だ』


 シキ、よく知ってるね。


『あれは儂の攻撃で出来たものだからな』


 ええっ?!!

 そ、そんな大きな攻撃をしたの?!


『ああ。あれはとある戦争中にな』


 ど、どんな攻撃をすれば湖が出来るほどの穴が空くのだろう....。


「イーラ湖の事ですか?」

「そう!それよっ!やるわね下僕!」

「すごーいっ!カルマよく知ってるね!!」

「う、うん。前にリナから教えて貰った事があるんだ...」


 まぁ、本当はシキなんだけど...。


「アタシ達だけって言う訳には行かないと思うし...。アリア、馬車を借りれるかしら」

「うん!大丈夫だと思うよ!」

「じゃあ、時間もいい事だし、そこで昼食をとりましょ」

「いいね、それっ!!早速、リナに言ってくる!!」


 何か、アリアが上手く使われている気がする...。


「アリア、手伝うわよ」


 お?

 そうでも無いのか?


「下僕が」


 あ、僕がですか....。


 一通りの準備を済ませ、馬車で湖に向かった。

 メンバーは、まず運転手のリナ。

 馬車の中に、僕とアリアとティア。

 それに、身の回りの世話の為に、メイドさんが2人付き添っている。


 こうして、屋敷から出るのは2度目になる。

 村に居た頃と違って、自給自足をする必要は無い。

 今や屋敷に居るだけで、何不自由なく過ごせる。

 この生活に慣れすぎて、きっともう村で生活することは出来ないだろうな。


 アルバ家の屋敷がある四街区から湖までは意外と近いそうだ。

 屋敷を出て、王都の中を走る時は人混みも多く、時間がかかったが、門を出てからはすぐに湖のある森に入ることが出来た。


「カルマはここ初めてだよね?」

「うん。アリアは来たことがあるの?」

「よくパパとママと来るよ。最後に来たのは2ヶ月くらい前かな」


 ってことは僕が来る前の事か。

 まぁ、僕が来てから行ってたら、仲間外れにされたって事で泣いちゃうな。

 あの人達に限ってそんなことは有り得ないと思うし、心配なんかしてないよ。


「着きました」


 リナのその声を聞いて、窓の外を見るとそこには広大な湖が広がっていた。


 な、何この大きさ...。

 屋敷の敷地の10倍くらいはあるぞ。

 こんな広さの穴を開けるなんて、シキはどんな攻撃をしたんだ...。

 もしかして、僕もそれを使えたり?


『今は無理だが、その内出来るようになるかもしれんな』


 おぉ〜。

 でも、そんな攻撃をする事なんて、きっと無いだろうな。


「ちょっと、下僕っ!!早く行くわよ!!」


 僕が外の景色に見とれている内に2人は馬車から降りていた。


「す、すぐ行きます!」


 森の中というのと、水辺ということもあってか、屋敷で居るより涼しく感じる。

 "水衣アーヴェスト"のおかげでずっと暑さを感じていないけど。


「それにしても、お腹空いたわね!お昼にしましょ!!準備してちょうだい!」

「「はい」」


 他の家のメイドだと言うのに、我が物顔で命令する姿は流石と言うべきもしれない。


「僕も手伝いますよ」

「いえ、お気持ちだけで十分でごさいます。準備が整うまでお二方と遊んで頂いて宜しいですよ」

「そ、そうですか...」


 シートを敷いたり、ご飯を用意したりと2人では大変そうだけど....。


「カルマも一緒に遊ぼうよっ!!」


 まぁ、あれだけ洗礼された動きなら僕が手伝っても邪魔になるだけかも知れないし、いいか。

 でも、遊ぶって言っても水辺で何を...。


「うわっ、冷たっ!!」

「えへへ、かけちゃった」

「やったな!えいっ!あ...」


 勢い余ってアリアだけじゃなく、ティアにも水をかけてしまった...。


「何すんの、よっ!!」

「あははっ!あははっ!!」

「ちょ、ちょっとっ、2人同時は卑怯だよ!!」


 どうやら、ご飯の用意ができる前に僕はびしょびしょになりそうだ...。


「大丈夫でございます。こうなると思い、皆様の着替えを持ってきております」


 流石、リナだ。

 でも、できれば見てないで助けて欲しいなぁ...。

 ええい、こうなったら!!


「威力弱めに!"水銃グワール"っ!」

「ちょっとっ!!卑怯よっ!!!」


 2対1なんだ、これくらいズルしたっいいでしょ!


「"水銃グワール"っ!"水銃グワール"っ!!」

「あははっ!カルマすごーいっ!!」

「"水銃グワール"っ!"水銃グワール"っ!!」

「ちょ、ちょっと...いい加減に...!」

「"水銃グワール"っ!"水銃グワール"っ!!"水銃グワール"〜っ!!!」

「いい加減にしなさいってっ!!!"雷炎銃シルトゥルーマ"っ!!」

「うわぁっ!!!」


 ちょちょちょ、それはまずいでしょっ!!

 結果は言うまでもなく僕の完敗に終わった。

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