雷炎の巫女

 

 今日はアリアが学校から帰ってくる日だ。

 というか、既に帰ってきている。

 しかし、一緒に遊べていない。

 どうやら、アリアが友達を屋敷に招待したそうだ。

 その友達が、僕たちと同じく十貴族じゅっきぞくの子供で、最高のおもてなしをする為に、使用人総出で準備をしている。

 リナも今回は手伝いをしている為、僕は独り外で護身術の特訓をしている。

 それにしても...。


「...暑い」


 まだ、午前中だと言うのに、もう既に全身から汗が吹き出ている。

 厚手の服を着ているせいか熱が籠って余計に暑く、そして気持ち悪い。


『全く、人間は不便なものだな』


 人間はってことは、竜は暑さを感じないの?


『感じないことは無いが、どの竜も竜力で体温を調節している』


 へぇ、そんな事が出来るのか。

 じゃあ、涼しくなる竜技とかあるの?


『もちろん、あるぞ』


 おおっ!!

 是非、教えてくださいっ!!


『色々あるが、一番分かりやすい青の技を教えよう。技名は"水衣アーヴェスト"だ』

「"水衣アーヴェスト"!!」


 竜技を口にした瞬間、僕の周りに水が現れ、薄く全身を覆っていった。


「おおおっ!!涼しいぃ〜」

『はぁ、本来この技は自身を守る為のものだ。暑さを凌ぐ為のものでは無い。それを覚えておけよ』


 はいっ!!

 ありがとうございますっ!!

 よーしっ、これで特訓も捗るぞ!


「ねぇ、あんた。何してんのよ」


 さぁ、これからって時に、僕に話しかけてきたのは、クリスタルのピアスをした金髪の少女だった。

 その紅色の瞳で見られると、後退りしたくなる威圧を感じる。


「...ぼ、僕は、護身術の練習をしてます」

「護身術?何それ、そんなの練習したって意味無いでしょ。もしかして、あんた相棒ソシオが居ないの?」

「いや...い、いますよ」

「だったら、竜力の練習をすればいいじゃない」


 いや、まぁたしかに、そうなんだけど...。


「もし、竜力が使えない状況だったらどうするんですか?」

「ふんっ、そんなこと有り得ないわ!私の雷炎を止めれる人なんて居ないもの!」


 雷炎?


『ほぅ、珍しいな。合成竜レイションか』


 合成竜レイションって?


『合成竜ってのは、両親からそれぞれの色を授かった竜のことだ。2色を合成して扱える事もあって、一時期流行っていたな』


 じゃあ、この子も複数の属性を使うことが出来るんだ。


「ねぇ、あんた聞いてるの?」

「え、うん。聞いてましたよ」

「じゃあどうしてそんな反応になるのよ。アタシがあの雷炎の巫女よ?もっと驚きなさいよ!信じらんないっ!」


 あの、と言われても...。

 雷炎の巫女なんて初めて聞いたんですけど...。


「ご、ごめんなさい...」

「ふん、まぁいいわ。それより、あんた名前は?」

「僕はカルマです」

「ふーん、あんたがあの...。じゃあ、せっかくだからアタシの力、見せてあげるわ!見てなさい!"雷炎銃シルトゥルーマ"っ!!」


 少女が突き出した人差し指から、雷を纏った炎の玉が放たれた。

 その玉は一直線に飛び、木に命中した。


「って、燃やしてどうするんですかっ?!!"水銃グワール"っ!」


 少女が燃やした木に同じように水の玉を放ち、消火した。


「ふーん、あんたの相棒ソシオは水竜なのね。流石、アルバ家ってところかしら。なかなか使えるじゃない」

「ど、どうも...」


 木を燃やした事を全く反省してないご様子。

 はぁ...。


「あんた、アタシの下僕になる事を許してあげるわ!」

「....はい?」

「だ、か、ら、アタシの下僕になれって言ってるのっ!」


 い、いきなり下僕になれだなんて...。

 そもそも、この子もの名前すら知らないし。


「あれ?ティア?!」

「あっ、アリア〜!!」

「どうしたの?待ち合わせの時間は昼じゃなかった?」

「どうせ、家に居たって暇だし、来たわ!」


 この子が、アリアの言っていた友達なのか。

 まさか、暇という理由で前倒しで来るとは...。


「それより、アリア。この子、アタシの下僕になったから!」


 え、僕はなるなんて一言も言ってないんですけど...。


「カ、カルマを下僕に...?!えぇ、でも...」


 そうだよ、アリア。

 僕の代わりに断ってくれ。


「別にいいんじゃない?」

「ええっ?!!」

「何よその反応!嫌なの?!雷炎の巫女の下僕になれるだなんて、とても光栄な事なんだからねっ!!」


 どうやら僕に拒否権はないようだ...。

 シキ、どうにかならない?


『ふん、諦めろ』


 デスヨネー。


「アリアは良いの?僕がこの子の下僕になっても」

「いいよー、だって、下僕って友達をみたいなものなんでしょ?クラスの子達の事も下僕って言ってるし」

「そうよ、あいつらは下僕よ!アタシの友達はアリアだけっ!」


 そう言って、少女はアリアに抱き着いた。


「アリア、下僕って言うのはね...」

「で、どうするの?!なるの?ならないのっ?!」

「....なります」


 どうせ断れないのであれば、承認して穏便に済ませよう。

 僕は友達を作ってみたいのだ。

 下僕から始まるものもあるかもしれない...。

 多分...。

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