夢の儀式

 

 僕は気が付くと、靄のかかった何も無い空間に居た。

 昼間、村長が言っていたところだ。

 つまり、ここに僕の相棒ソシオになるはずの竜が居るはず。

 僕はお目当てのものを探すため、辺りを見渡してみたが、何も無い。

 そこにはどこまでも続く空間と、その中でポツンと1人立ち尽くす自分しかない。


「な、何もない?!!え、どうしよう、玉なんて何処にも浮いてないじゃないか!ま、まさか....僕には相棒が....」

『ーーーそんなことないわよ』


 どこからともなく聞こえてきた声、とても懐かしいような、落ち着くような綺麗な声。

 まるで女神に声を掛けられたような心地良さ。


「だれ?」


 どうしても声の主が知りたかった僕は振り返った。

 だが、そこには誰の姿もなかった。

 ただ1つ、黒い玉が宙に浮かんでいた。


「あった。これが僕の相棒ソシオ....。さっき見た時は無かったのに...。ま、気にしてもしょうがないか。1つしかないから迷う事ないね!」


 村長の言ってた通り、玉は存在した。

 嬉しさと共に僕は手を伸ばした。

 玉に触れると、それは光りだし、眩いほどに視界を埋めつくしていった。

 その瞬間、雷が轟く爆音が鳴り響いた。


「えっ、何っ?!!」


 そこは既にあの空間ではなかった。

 見覚えのある家の景色が広がっているが、父さんの姿は無い。

 それどころか、暗いはずの窓の外は、炎に包まれ、地獄のような光景になっている。


「父さん.....」

「カルマっ、大丈夫かっ!!」


 姿が見えなかった父さんは外に居たらしく、扉を開け入ってきた。


「父さんっ!」

「カルマ、怪我はないか?」

「うん...平気だよ...」


 嬉しさなのか恐怖なのか、僕の目からは涙が溢れていた。

 父さんはそんな僕を抱えてベットから下ろした。

 そのまま父さんはベットを立ち上げ、テーブルを寝かし、僕を囲うように配置した。


「いいか、カルマ。ここでじっとしているんだ。後で迎えに来るから」

「うん...わかった....」

「よし、いい子だ」


 最後に濡れたシーツを被せ、父さんは外へ飛び出して行った。

 父さんが居なくなった後の家は静まり返り、外の音がよく聞こえる。

 誰かの悲鳴、建物が焼け落ちる音、雷が鳴り響く音。

 僕は思わず耳を塞いだ。


 怖い、怖いよ。

 どうしてこんなことに。

 僕の村が、エスペランサが。

 父さん、早く迎えに来て。


 耳を塞いだせいか、いつもよりも自分の鼓動が大きく聞こえる。

 ドクンッ、ドクンッ。

 自分の鼓動で鼓膜が弾けそうだ。


 うるさい、静かにしてっ!


 しかし、更に激しくなる鼓動。

 それに比例して胸の奥が熱を発してきた。


 うぅ、熱い...。

 なんだろう、この何かが込み上げてきている感じ。


「はぁ...はぁ....く、苦しい...」


 落ち着こうと深呼吸を試みるが、咳き込んでしまい更に悪化してしまう。

 恐怖のあまり過呼吸を起こしてしまったのか、偶然今になって重い病を発症したのかは分からない。

 ただ、ここで意識を失っては、待っているのは"死"のみ。

 僕は何としても生きるために抗ったが、そんな気持ちとは裏腹に苦しさは増す一方。

 段々と霞む視界。

 少しずつ遠のく意識。

 僕は胸を押えながら、その場で意識を失っていった。

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