悪夢
.....チュンッ。
鳥の...鳴き声...。
チュンッチュンッ。
鳴き声が次第に大きくなるにつれ、手足の感覚が戻ってきた。
「....ここは?」
目の前には大空が広がっていて、僕は瓦礫の山に埋もれていた。
こんな幼い体で生き残れたのは、恐らく父さんが建ててくれたこの...。
「はっ!父さんは?!」
僕は瓦礫をかき分け外へと飛び出した。
しかしそこには....
何も無かった。
全ての家屋が焼け崩れ、人っ子一人居ない殺風景がただ広がっていた。
「父さん...。セルナさん...。村長.....」
グニュッ
何かを踏んだ。
生モノのような、ゴムのような、黒い腕の形をしたもの。
しかし、それより先に、僕の目に映ったのはその薬指にハマっている指輪。
「これは、と、父さんの....うっ、おえぇぇぇ...」
思わず吐いた。
これは、母さんとお揃いの指輪。
僕の次に宝物だといつも父さんは言っていた。
死んだ母さんのものは、僕の首にネックレスとしてある。
何度見比べても、同じ指輪。
つまり、これは父さんだ...。
「う...ううっ....」
僕は泣いた。
日が暮れても、夜が明けても。
2つの指輪を握りしめ、ひたすら涙を流し続けた。
この指輪を持っていれば、二人が守ってくれる。
そんな気がした。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「おいおい、見渡す限り黒焦げだなぁ」
「金目のものは残ってるといいんですけどねぇ」
「兄貴、こっち」
誰かの声が聞こえる。
聞いたことの無い声、村の人じゃない。
恐る恐る目を開けると、そこには3人の若い男が、僕を囲っていた。
「なんだ、このガキ生きてんのか?」
「....」
「生きてんのかって聞いてんだよ!」
お腹を蹴られた僕は一瞬浮いた。
その拍子で握っていた指輪が転がる。
「なんだ、こいついいモノ持ってんじゃねーか!」
「...!!」
僕は急いで拾い、握りしめた。
「おいガキ、その指輪寄越しな。そうすれば命だけは取らねーでやるよ」
「....」
「おいっ、聞いてんのかよっ!」
「....」
「チッ...やっちまえ」
「「へいっ!」」
痛い、痛い。
全身が痛い。
でも、この手だけは絶対に離さない。
ドクンッ、ドクンッ。
まただ。
また胸の奥が熱く。
「ガキ、このままだと殴り殺しちまうぜ。せっかくあの悲劇を生き延びたんだ。易々死にたかねーだろ?諦めてその指輪を渡しな」
「.....」
「泣きもしない、喚きもしない。全く、つまんねぇガキだ、なっ!」
「う...」
蹴り飛ばされた体は壁にぶつかり転げ落ちる。
「兄貴、兄貴!見てくだせぇ!こっちにいいものありますぜぇ!!」
4人目の声。
一体何人いるんだろうか。
でもそのお陰で、僕への意識は外れてくれた。
「兄貴、こいつどうします?」
「放っておいてもどうせ死ぬだろ。指輪は死んだ後でもいいだろ」
そう言って男達は仲間の方へと向かっていった。
逃げなきゃ。
ここで死んだらきっと父さんの宝が奪われてしまう。
全身が痛むのを必死で堪えながら、僕は男達が向かった反対へと走り出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どのくらい走っただろう。
走り出した頃、星の光で満ちていた空はすっかり青ざめ、太陽が登りきっていた。
もう限界。
走れないよ。
足の感覚がない今、走っているのか歩いているのかさえ分からない。
視界は徐々にボヤけていき、明るいはずの平原が少しずつ黒く染まっていく。
あぁ、僕はここで死んでしまうのか。
でも父さんと母さんの指輪が取られなくてよかった。
すぐ会いに行くよ、父さん。
「止めてくれ!」
知らない誰かの声がする。
また、この指輪を狙って....。
「君っ!大丈夫か?!」
人影?
さっきの人が追いかけてきたのか。
「指輪....、指輪だけは...取らない...で...」
朦朧とする意識の中、微かに人の声が聞こえた。
「この子を助けたい」
「あらあら、貴方って人は。一応外傷は治せるけど、この子の場合は...」
「ああ、後はこの子次第だ」
僕次第?
なんの事だろう...。
僕はそのまま意識を失った。
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