エレヒール〜一色しか選べない世界で全色使える俺は全てのヒロインを魅了する〜「下民でも貴族社会を生き抜いてみせます!!」

@TyaganNoRyu

プロローグ

下民村エスペランサ

 

「あなたは何色が好き・・・?」


 産まれたての俺に母は言ったそうだ。

 そうだと言うのは、実際に聞いた訳では無いからだ。

 いや、聞いていないと言うより覚えていないと言った方が正しいのかもしれない。

 なんせ産まれて直ぐの話だからな。



  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぁぁぁ....」

「やっと起きたか、カルマ」

「おはよう、父さん」


 僕が目覚めたのは、こじんまりとしたワンルームの家。

 部屋の中にはベッドとテーブル、2つの椅子があるだけ。


「おはようって時間でもないぞ。もうお昼前だ」

「じゃあ、こんにちは?」

「そういう事を言ってるんじゃない!全く、起こしても起こしても、目を覚まさないんだから....」

「ごめんなさい」

「まぁ、でもそのお陰で準備が整った!」

「え?」

「誕生日おめでとう!!さ、外で皆が待ってるぞ!」


 僕は父さんに手を引かれて、外へ飛び出した。

 扉を開けると、村はいつもと違った景色になっていた。

 質素ではあるが華やかに彩られ、村人全員であろう人数が拍手喝采で待ち構えていた。


 ここは少し大きめの下民村、エスペランサ。

 と、言っても下民の村に名前なんてあるはずもなく、ただここの住人が、勝手にそう呼んでいるだけだ。

 村はブランカ王国の王都から、少し南東に進んだところにある。

 そのブランカ王国は緑豊かで水も綺麗な平和な国だ。

 唯一危険なのは野良のドラゴンが居ること。

 でも滅多に出てこないから僕はまだ見たことない。


 僕たちは専用のランウェイを歩き、村長の下へと案内された。

 これから、5歳になった僕にとても有難い話をしてくれるらしい。


「村長、この子が今日5歳になる、我が息子カルマです」


 父さんは僕の手を握りながら膝を着いた。

 僕もそれを真似て村長の話を聞くことにした。


「ふむ。これから話す事はお主の人生を大きく左右する事じゃ。心して聞くのじゃぞ」


 そのなんとも言えないよぼよぼの声に僕は頷いた。


「うむ。お主は今夜必ず夢を見る。それはただの夢ではない。その夢に登場するのは自分だけじゃ。白く靄のかかった空間に一人立っておる。そして、目の前にいくつかの玉が浮いておるじゃろう。玉の色や数は人によって違う。だから、何色が何個あるかまでは断言出来ぬが、必ず1つはあるはずじゃ。複数ある場合はお主の好きな色を選ぶと良いじゃろう」

「玉を選んでどうするのですか?」


 我ながら拍子もない質問をしてしまったが、村長は大きく頷き笑顔で答えてくれた。


「良い質問じゃ。玉の中には竜が眠っておっての。我ら竜人は昔から心に竜を宿してきた。少し見ておれ」


 村長は顔の前で掌を上に向け、力を込めるようにした。

 すると、掌から赤い炎が燃え上がった。


「す、すごい...」

「そうじゃろう!これが儂の中に宿る竜の力、炎竜の力じゃ。自身の中に宿っている竜の事を相棒ソシオと呼ぶ。夢の儀式とはその相棒を選択する大事な儀式なのじゃ」

「ねぇねぇ、父さんはどんな竜を宿しているの?!」

「ん?俺の中には風竜が宿ってるぞ」


 父さんは僕の方に向けて両手を広げた。

 すると、僕の足は地面から離れ、フワッと体が宙に浮いた。


「あははっ、すごい、すごいっ!」

「そ、そろそろ下ろすぞ」

「え、もう?」


 まだ30秒も経ってないのに...。


「すまないカルマ、また今度してやるから」


 苦笑いの父さん。

 その額にはすごい量の汗をかいていた。


「カルマ、許してやってくれ。人を浮かすだけでも凄いことなのじゃ。儂ら下民はそもそも竜素が少ない。故に、たまに暴走が起きることがある」

「暴走?」

「暴走とは儀式を行い、玉を選ぶところまでは良いのだが、その中の竜の力が強大すぎて抑えきれずに竜化してしまう事じゃ」

「竜化....」

「そう怖がることは無い。この夢は誰もが見るものじゃ。お主の父や母、儂でさえも見てきた夢じゃが、滅多に暴走はせん」

「よかったぁ」


 ホッと一息付き、僕は胸を撫で下ろした。


「じゃから安心して儀式に望むが良い」

「はい!頑張ってみます!」

「はっはっはっ、さすが俺の自慢の息子だ!」


 こうやって頭をワシャワシャとされると、とても安心する。

 夢の儀式かぁ。

 一体何色が出てくるんだろう。

 そんな期待を胸に僕たちは家へと戻った。

 家へ帰るとテーブルの上にはご馳走が並んでいた。


「うわぁ、どうしたのこれ!」

「へへっ驚いたか!セルナに作って貰った!」


 ご馳走と言っても大したものじゃない。

 いつもより多くキノコが入っているスープと柔らかいパン。

 下民の僕達からすれば十分ご馳走だ。

 いつもなら、お湯も同然のスープに硬いパン。

 何も食べない日だってあるぐらいだ。

 きっと、昨日父さんが街に行ってくる、と言っていたのはこの為だったのだろう。


「ありがとう、父さん!!」


 僕は満面の笑みを見せた。


「さぁ!冷めないうちに食べよう!」

「うん!!」


 食べ終わるとすぐに父さんは畑仕事をして来る、と言って行ってしまった。

 これだけのご馳走だ。

 相当無理をしたんだと思う。

 今日は一緒に過ごしたかったけど、こんな生活だもん、そうワガママも言ってられない。


 いつも父さんが仕事をしている間、僕は家事をしている。

 炊事、洗濯、掃除なんでもござれだ。

 なぜ幼い僕が家事をしているかと言うと、僕には母さんが居ない。

 僕を産んですぐに天国に行ってしまったらしい。

 でも寂しいとは思わない。

 父さんはいつも優しいし、村の人はみんな良くしてくれる。

 そんなこの村が僕は大好きだ。


「邪魔するよっ」


 扉を開け、家に入ってきたのは、隣に住んでいるセルナさんだ。


「カルマ〜っ!どう、美味しかった?」

「あ、セルナさん!すごく美味しかったよ!ありがとう!」

「お粗末様っ!あれ、ギルは?」

「父さんなら畑仕事に行ったよ?」


 綺麗な黒髪に黒い瞳。

 華奢な体ですごく素敵な大人の女性。

 ただ、少し気の強い所はあるけど...。

 セルナさんは、昔から母の居ない僕たちに変わって家事をしてくれていた。

 この見た目で父さんの幼馴染ってのは信じられないや。


「はぁぁ?アイツこんな日にまで家事押し付けてんの?信じらんないっ。カルマ、少しは甘えたっていいだよ?」

「大丈夫!僕、結構家事好きだから!」

「すーーーっんごく良い子っ!さっすが私の弟子ね!うちの子達もこれだけやってくれればねぇ」


 そう、家事は全てこのセルナさんが教えてくれたのだ。

 4歳の時に何か手伝えることはないかと考え、家事を教わった。

 意外な事にも僕には家事の才能があり、瞬く間に習得した。

 始めは2人でやっていたが、今では1人で回している。

 でもまだ炊事だけは自信がなく、たまにセルナさんの家に教わりに行っているところだ。


「それより、父さんがどうかしたの?」

「あ、そうだった。畑にいるんだよね?ちょっと行ってくるわ」

「はーい、気をつけて」


 セルナさんは勢いよく飛び出して行った。


「さて、僕は家事の続きっと」


 でも、セルナさんが父さんに用ってなんだろう。

 それにあんなに急いで。

 セルナさんが父さんを頼るなんて珍しすぎる。

 うーーーーーん。


 そんなことを考えながら家事をしているといつの間にか夕暮れとなっていた。

 そろそろ、父さんが帰ってくる時間。

 僕はすぐに夜ご飯の支度を終え、父さんの帰りを待った。


「ただいま」

「おかえり、父さん!」

「お、ご飯出来てるじゃないか!お昼がご馳走だったからないかと思ったぞ」

「今日は僕の誕生日だもん!贅沢しよーよ」

「そうだな!」

「仕事中セルナさん来なかった?」

「ああ、来た...、来たぞ」


 この様子だと、僕が誕生日の時くらい自分で家事をしろってら怒られたんだろうな。

 でも、それは次いでっぽいしな。


「何の用だったの?セルナさんが父さんに頼み事って珍しいからさ」

「ん?んー。ただの野暮用だ」

「そー...、なんだ」

「それより今日も上手いなお前の飯は!」

「そう?ありがとう」


 なんか話を逸らされた。

 こういう時は、子供には関係の無い話。

 大人の事情ってやつだ。


 下民の一日は早い。

 日の出と共に目覚め、日が沈むと共に眠る。

 僕は生まれてから一度も夜更かしをしたことがない。

 父さんが帰ってきて、ご飯を食べたら後は眠るだけだ。


「いよいよ、儀式の時だな」


 ベッドの上で腕枕をしてくれている父さんがそう言った。


「うん!僕、頑張るよ」

「そんな気負うようなことじゃないさ。好きなものを選んでくるといい」

「わかった。おやすみ、父さん」

「ああ、おやすみ、カルマ」


 僕はそのまま眠りについた。

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