第44話 空腹
義母の放った言葉の意味を考える。
今更だけどどうしてこの
そして何より父上はこの女に逆らえないという……何か裏があるとは思っていたけど、それでも決定打に欠けていた。
再婚は父上が若いということで母上が亡くなっても相手を探すのは分かる。
それがたまたまこのクソみたいな女だった。母上を守れなかった父上は魔導士としての評価を著しく下げた。
それは戦闘の能力だけで辺境の領主として認められたバレンタインにとっては痛手だ。そしてさらに新しくできた妻からも見放されれば立場がない。
私はずっとその事を義母に突かれていて言い返せないからだと考えていた。
だけどもし、私の母やフーリアの両親の死に関係があるのなら……考え方を改める必要がある。
ここはカマをかけてみる。
「お義母様はホワイト家と関係があるんですか?」
「何よ?何か問題でも?」
若干焦っているようにも見えるし、本当になんのことか分からないようにも見える。
私は核心を付くことにした。
「ホワイト家のことを知っているのなら、その人達がーー」
「し、知らないわよ!そんなこと!!」
義母は何かを隠すように客間からそそくさと去ってしまう。止めようと思ったんだけど、多分こうなると簡単には吐いてくれないだろう。
深い所まで探りたいところだけどもう夏休みも少なくて、今夜までしか実家に居られない。
もう外も暗いから残りの時間は少ない。そして何より……。
「ふぅ……あのおばさん行ったね!!」
「ショナ、友達のお母様をおばさん呼びって……」
「いいじゃない、ユウリだって嫌だったでしょ?」
「まあ……。それよりも私はルーク、気になっていたんだけど……」
ユウリは私が抱いている狐を見る。
そう、今やるべきことはこの子の手当だった。狐は懐いてくれて、落ち着いているが呼吸が荒い。
ようやく灯りのある所まで来て、今更気づいたんだけど、右足の肉が少し削れている。
師匠の投げた剣はこの子を捉えていた。
命こそあるものの危うい状況であるのは確かね。
「ど、どうしよ……とりあえず包帯で……」
「素人がやっても余計痛みが増すだけよ」
「ユウリ……だけどこのまま置いておけない。この子はなんとなく死なせちゃいけない気がするの」
「分かった。私は何をすればいいの?」
ダインスレイブとの戦いで魔力を沢山使ってしまった。まだ残っているとは言え、心許ないのでユウリの魔力を借りる。
狐の傷は完璧に癒えて呼吸も安定してきた。そしてユウリは――
「……凄く痩せたね」
「まあ私は身体の脂肪と寿命を魔力に変換するから、今回は沢山チョコを食べたから良かったけど」
しかしその分がまた帳消しになってしまった。
綺麗で美しい身体になったけど、これはユウリの命を脅かす。
「ごめんね」
「今日は沢山食べさせてもらったからいいわ。それに……」
「それに……?」
「ルークは買い出しに言ってくれてたでしょ?さあさあこの子を癒した報酬として!!」
ユウリは両手で催促してくる。
その瞬間、私はとんでもない事に気づいてしまった。
そう、それは買って来たパンをダインスレイブと戦った場所に置いてきたという事だ。狐を抱きかかえていたので両手は塞がっていた。
今更ながら気づいた……。
私はフーリアを見る。するとフーリアは私から視線を逸らす。
どうやらこの子も忘れていたようだ。
そういえばフーリアは狐を運んでいる時にずっとこの子を見ていた。心配しているというよりは何か警戒しているような……。
私はその残酷な事実をユウリに告げた。
するとユウリは膝から崩れ落ち、この世の終わりを目の当たりにしているかのように絶望している。
そしてお腹を抑えながら。
「お腹空いたよぉ~……」
その夜、私とフーリアは義母の事を調べる事は出来なかった。
ずっとお腹が空いていたユウリのためにご飯を作っては運んでいたからだ。ユウリには適当なモノを与えてお腹を満たしてもらうこともできたけど、買ってきた物を忘れたのと待たせた時間もあってそのまま放置するのは罪悪感があった。
そしてひとしきりご飯を食べたユウリは満足してその場で眠りに付く、その様子を見て私とフーリアも客間で眠った。
――
翌日、目を覚ますと客間のソファーであられもない姿で寝ていた事に気づく。
格好もそうだけど首が寝違えたのか痛い……。
「あ、起きた?」
「ショナ……も起きたの?」
「まあ私はあの後すぐに寝たし」
「ふーん……」
確かにユウリのために料理を作るの時、ショナは手伝ってくれなかった。それどころかすぐに寝た。
周りを見てみるとユウリは昨日の夜、寝る瞬間はお腹を膨らませていたのに今は痩せている。
この子……どんだけ食べるの……?
私は昨日の苦労を思い出して呆れる。
フーリアはまだ寝ている。私は硬いソファーだったせいであまりよく眠れなかったんだけど、同じソファーを使っている。しかし彼女は気持ち良さそうに眠っている。
もしかしてこういう硬い所でも眠れるの……?
意外だなと思いつつ、私はフーリアを起こさないように立ち上がる。
「さてさて2人が起きる前にどう?散歩行かない?」
「散歩?どうして急に……」
「まあまあ」
「……」
私はショナからそんなことを言われて戸惑った。
心なしかいつもより元気が無いように見える。
正直2人きりは気まずいんだけど……断り切れない空気が漂っていた。仕方なく私はショナについていく。
外へ出ると真っ先に屋敷の庭へ向かう。
そして庭の中央に立ち、ショナは驚くことを言う。
「そういえばルークはここでゴーレムと戦ったの?」
それは彼女が知らないはずの出来事だったはずだ。
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