第43話 謎
残り少ない夏休みの期間を使ってバレンタインの領土に帰ってきた……というのに私はフーリアに頬を強く叩かれて頭が真っ白になっていた。
ここへ来た目的は狐の女神様が私のために用意してくれた“力”を探すためだったんだけど……。そこになんとバレンタインを追放された私の師匠が居て、戦う事になった。
ダインスレイブは私よりも圧倒的に強かったけど2人で戦ったのと獣の援護があり、隙を突いて戦況が逆転した。
ダインスレイブには逃げられたもののフーリアと獣が無事で良かった……フーリアには叩かれてしまったけど……。
その獣と目を合わせているフーリア、よく見るとそれは狐のような生き物だった。
狐と断定しないのは尻尾が2本あるのと、頭に天使の輪っかが乗っていて完全に私の知る狐ではなかった。毛並みは真っ白。
神様の使いだから天使と言う事だろうか。
今はそんなことよりも喧嘩に発展しそうなフーリアと狐のような生き物を止めるべきだろう。
ただ目を合わせているんじゃなくて睨み合っていたんだ。
なので2人を引き離す。
「ちょっとルーク!この子、私達が助けたのに近づいたら噛んできたんだけど!!殺す?」
「殺さないで!」
私は必死にフーリアを止める。狐も狐でフーリアを怖がっている。ここは私がどうにかしないと!!
だけど前世では動物に好かれることはなく、むしろ良く犬に吠えられていた。前世と今は違うモノの動物に好かれる自信はない。経験が無いからね!
しかしそれでも優しく手を差し伸べる。
すると――。
一瞬威嚇してきたものの、何故か匂いを嗅いだ後に落ち着いたのか大人しくなった。
なんならあり得ないくらいに私の頬にスリスリと寄ってきて前世も合わせて生涯初めて動物に初対面で好かれた。
私はそれがとっても嬉しくて一瞬だけフーリアの事を忘れて狐を撫でまくる。
「よしよしよし、フーリア!分かってくれたみたいだよ!!」
「……」
フーリアはバツの悪そうな表情を浮かべている。
私が先に懐かれたことが不愉快なのだろうか……。
言いたいことは分かるけど、フーリアは狐に対して殺す?とか言っていたしもう少し優しくしないと懐いてくれないだろう。
とりあえず私はこの|狐(こ)を落ち着かせるために優しく頭を撫で続けていた。するとフーリアは何故かさらに不機嫌になり恐ろしい事を言い出す。
「やっぱりその狐モドキ殺さない?」
「ダメだよ!?」
「ちっ……」
「今、舌打ちした……?」
「……ちなみにその狐モドキは飼うの?そんなの見たこと無いし多分魔物よ?どうしてあなたの|師匠(せんせい)がそんなのを狙っていたのか知らないけど……」
「じゃあなんでその子を助けたの?」
「あの男の好きなようにさせたくなかっただけよ」
どうやらフーリアはこの狐を飼うのは反対みたい。
だとしてもこの子は私が面倒を見るべきだ……と思う。フーリアを説得してひとまずこの狐は殺されずに済んだ。
屋敷へ帰る道中、フーリアと話し合って師匠の事は一旦ショナ達には伏せる事にした。
2人には関係のない話だから狙われる心配はないだろうし、これは私の問題だからね。
私からフーリアに黙っておいて欲しいとお願いした。
そして屋敷に戻って客間に入る。外は既に真っ暗なので私達の帰りはショナやユウリからすればものすごく遅かっただろう。
どう言い訳しようかな……。懐かしすぎて寄り道を楽しんでいたってことにする……?
そんなことを考えながら部屋に入ると何やら揉めているようだ。
「あなた、本当にルークのお母さん?頭、おかしいんじゃないの!?」
「ふんっ!人の屋敷へ勝手に入ってきて、よくもまあそんな口を利けるわね!!」
「だーかーらー!!ちゃんと許可を貰ってるんだってば!!」
ショナと義母が揉めている。
何があったんだろう……できれば関わりたくないものだけど……そうもいかないよね。
私の姿に気づいたショナはこちらへ駆け寄ってくる。ユウリもぶよぶよと大きな体を揺らしてゆっくり歩いてくる。この子、チョコの食べ過ぎで物凄く体重が増えてる……。
まあ魔法を使えば痩せるからいいか……。
健康面の事は置いておいて、今は目の前の問題を解決するのが得策だろう。
「何があったの?」
「ちょ、ルーク聞いてよー!」
「そのバカな娘が屋敷に不法侵入してきたのよ」
「……父上に友人を呼ぶと言っておいたはずですが」
「あの人は許可したみたいだけど、私は許可していません」
「でも来ている事は知っていた。それで不法侵入と疑うのはどうかと思いますよ」
「……あなた言うようになったわね」
義母は機嫌が悪そうだ。
いつも舐めていた相手に反論されて嫌だったんだろう。
……完全にいじめっ子の思考じゃない。
義母は私の腕に抱いている狐をまるで汚いものを見るような目で睨む。
「何その汚い生き物!!我が家はペット禁止です!」
話を逸らすために話題を変えたか……。
ちなみにペット禁止のルールは無い。確か昔にアーミアが猫を飼っていたことがある。
しかし面倒見切れずに捨ててしまったというのを聞いている。確かに一度だけアーミアの猫を見た記憶が頭の端にある。
「この子は……傷ついていたので連れて来ただけです」
「それ、魔物じゃないの?そんなものを連れて来て……魔族にでもなるの?……まああなたは魔族みたいなものでしょうけれど」
そんなことを言われてわざわざ怒ってあげる程、優しくない。
それに対してここまで黙って居たフーリアがキレる。
「実子じゃないとはいえ、その言い方はあまりにも失礼じゃないですか!」
「は?何よ。あなた」
「フーリア=デイ=ホワイトです」
「ホワイト……?」
義母はその名前を聞いて眉を寄せる。そして何か考えているような表情……?
おそらく次に発せられる義母からの言葉は絶対に罵詈雑言だろう。
「あ~あのホワイト家ね。あなたの事は|よ(・)|く(・)知っているわ。純粋なホワイトの血を引く最後の生き残りだけど実家の剣も握らせてもらえない落ちこぼれ」
「は?」
フーリアの沸点はおそらく天井を貫いた。ただでさえここへ来る前にダインスレイブとの戦いで怒らせてしまったのに……。
とてつもないほどの殺気をフーリアから感じる。
義母はフーリアの殺気に気づいていないのか表情をほとんど変えない。ある意味羨ましい精神力だ。
そして恐ろしい事を口にする。
「あなたの存在は一番要らないのよ。また消してやろうか?!」
「「また……?」」
私とフーリアは目を見合わせる。
この人は一体何を……?
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