第38話 信頼


 私は狐の女神様の力を得るために実家へ帰ってきた。

 

 その帰省に付いてきた3人の学校の友達であり、冒険者としてパーティを組んでいる子達が居る。

 私が転生していることは話していない。というかなるべく隠したいので狐の女神様の事を話すわけにもいかない。

 そこで私は皆の気を引くためひと肌脱ぐことにした。

 

 屋敷の厨房へ向かう。無駄に広い厨房はお昼が過ぎた時間帯だけあって、人が居ない。チョコレートの在庫があることを確認して使用人に使ってもいいか尋ねる。

 使用人は客間を出る時に私に付いてきた。フーリア達3人は客間で待ってくれている。

 

「はい、大丈夫ですが……お嬢様、一体何をするんですか?」

「まあ少しね。後りんごとかイチゴとかバナナも貰うね」

「お客様へのおもてなしなら私も手伝いますが……」

「大丈夫、ちょっとるだけだから」

「え……?」


 私は厨房のナイフを取り出して冷蔵庫から出した果物達を程よいサイズにった。

 アニメや漫画の世界では果物を宙に浮かせ、その間に斬るみたいな離れ業を良くしていたからその再現をしたんだけど、割と綺麗にできた。

 

 さすがに前の世界とは違って平均的な身体能力が高い世界だし、魔法や刀に異能の力もあるからこういった人間離れしたことは容易にできてしまう。

 そんな光景を見ていた使用人は唖然としていた。


「どうしたの?」

「いえ、聞いていた話と違うなと」

「聞いていた話?」

「はい、失礼ですが私はルークお嬢様と言う方はお金に物を言わせてエステリア学校へ通っていると……なので実力はないと……」

「あーどうせそれは義母上ははうえ義姉上あねうえでしょ?」

「はい」

「見た所あなたは新人の子?」


 私に対して嫌悪感を感じさせず普通に接してくれている。

 

 使用人の顔と名前はアナ以外一切憶えていないので完全に当てずっぽうだけどなんとなくそんな気がした。


「はい!基本的には今は寮生活で居ないルークお嬢様の部屋を掃除するよう仰せつかっています」

「そうなんだ?じゃあ何かあった時はあなたを呼んでもいいかな?私の世話をしてくれているメイドのアナは今、休暇中で」

「あのメイド学校で有名なアナ様ですね!!あっ!もちろんです!というかそうするように言われているので!」

「え、アナってメイド学校て有名なの……?」


 なんとなく只者ではない感じだったけども……。

 夏休み、アナは冒険者といういつ帰ってくるかも分からないタイミングで的確に温かいご飯を用意してくれていた。


 メイド学校……凄いなぁ~。

 

「聞いていた話だと大分素行の悪い方だったので」

「そ、そう……まあ噂より実際の人を見て判断して欲しいかな」

「申し訳ございません。お嬢様の言う通りですね。そのようにします」


 他の使用人とは違いちゃんと人の話を聞いてくれる子で良かった。私はそれに安堵する。

 もしかしたらアナが居なくなったからこういう素直な子を雇ってくれたのかもしれないね。

 

 キッチンに来た目的と大分違うけど予想外の良い展開に出会えた。

 私は斬った果物と大量のチョコをボウルに入れて客間へ持っていく。

 

 大量のチョコを見たフーリア達の反応は微妙だった。


「ま、またチョコ……?」

「まあ一応バレンタインの代表的な食べ物だから。それにこれは一味違うと思うよ」


 私はボウルに熱を加えるために炎帝剣を取り出す。そのまま炎で燃やすとボウル事溶けてしまうので距離を離してボウルの下に剣を添える。

 ずっと高熱を発している剣なので下へ置くだけでもボウルの中のチョコを溶かしせる。


 溶けたチョコにイチゴをくぐらせるとそれを口に頬張った。


「うん!やっぱりこの甘味と酸味の組み合わせは最高だよ!」


 チョコを散々見て苦しそうな顔をしていたフーリア達だったけど、その様子に喉を鳴らす。

 チョコは前の世界でも好きな食べ物だったけどこの世界に無かった。だから作った。だけど引きこもっていたから他の加工方法は何も教えていなかった。

 

 ありきたりで同じ味の物だけどこうした工夫を施すことで人は新鮮な気持ちになり、それに一時的だけど夢中になる。


「ん~!!美味しい!!!!甘いだけじゃなくてさっぱりして超好きかも!!」

「確かに……私は果物大好きだからいっぱい食べられるわ!!」

「ユウリはいつもいっぱい食べてるじゃない」

「そうだっけ?ハハハハ……バクバクバクバク」


 ショナとユウリの反応は上々。

 

 表情を表に出さないフーリアも最初の一口を頬張った時に少し表情が緩んだのは見ていた。

 これで一時的に夢中にすることができたはずだ。

 それじゃあ後はここを抜け出す口実を作る。


「あ!そういえばまだ他にもアレンジできるんだけど……」

「何それ知りたい!」

「だけど食材が冷蔵庫に無かったから買ってこないと」

「なるほど……じゃあ買い物へ行こう!」

「あー私が行ってくるよ」

「いや……さすがにルーク一人買い物行かせて私達は食べて待ってるっているのは気が引けるんだけど……」


 さすがショナ、いい子だ。

 

 その純粋な優しさはとてもありがたいが正直今は申し訳ないけどあんまり必要じゃない。

 こういう時、善意ある優しさを無下にするのはとても心苦しいんだけど……ここは意地でも一人になる時間を作りに行く。


「だ、大丈夫だよ私は気にしないし、それに……一人で久しぶりの故郷をゆっくり見て回りたいなーって」

「一人で?皆じゃなくて?」

「うん、多分寄り道とかしたり懐かしいから見て周りたくて……」


 く、苦しいか?

 

 正直そんなことを言っている自分自身ですら何言ってんだコイツと思ったけど!!それ以外に言葉が出てこなかった。

 しかしショナはその気持ちが分かるようだった。


「分かる、分かるよ!!懐かしの故郷……なって……」

「ショナ……?」

「ううん、気にしないで!分かったわ!!そういう一人になりたい時はあるよね!冒険者としてチームを結成して仲の良さを深める事を大事にしてきたけど、一人の時間も必要なのはルークやフーリアを見てたら分かった!だからゆっくり買い物へ行って来て!!!!」


 何故か少し半泣きでそんなことを言うショナ。

 

 故郷に何か未練でもあるのだろうか……今は学生として故郷から離れた土地で生活している。だからこそ何か思う事があったんだろう。

 そんなショナの気遣いを台無しにするようで悪いけど、私はこの街にそんな思い出はない。

 

 ほとんど家の中に居たんだから当然だ。フーリアと仲良った時もまだ幼い子供だったので街へ出る事は許されなかった。


 だからショナの半泣きの顔から目を背けるようにして扉に手を当てる。


「そ、それじゃあ行ってくるね」

「うん!楽しんできて!後、新しいアレンジ?楽しみにしてるー!」

「え、ええ……任せて」


 やばい、めちゃくちゃ心が痛い!!

 

 そんなことを考えながら私は扉の外に出て、そっと開けた扉を閉めた。

 これも仕方のない事……ごめん、ショナ!!!!


 私は頭の中でショナに謝罪してから家を出る。

 夢で見た記憶を頼りに力を手に入れるため……。

 

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