第37話 最後の夏休み


 結局ギルマスは救えたものの当初の目的は果たすことが出来ず、ゴーレムの残骸は見当たらなかった。

 ただひとつ分かったことは新学期の始まったら何かあるということだけ。

 

 夢の記憶で私を助けてくれる存在と言うのも気になるし……一体この世界で何が起こっているんだろう。

 私は医務室で泣きわめくギルマスを見つめながらそんなことを考えていた。

 やっぱり希望があるとすれば女神様が力を与えた子かな。


「やることが出来たわ」

「やること?というかもう少し寝ていなさいよ。身体弱そうだし」

「そこまでじゃないよ。それに急ぎたいし」

「……どこへ行くの?」

「実家に帰るわ!!」

 

「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

――

 

 夏休みの最後の週……まさかあの実家へ帰ることになるとは思わなかったけどこれも仕方がない。

 私はアナと共に実家へ戻るために馬車に乗る……そのはずだったんだけど……。


「どうして皆が居るの?」

「私達は仲間でしょ!どこへ行くのも皆一緒だよ!」

「私はショナに付いてく、さすがにこの前一人ぼっちで置いてかれたのだったよ」

「ごめんて!ユウリ拗ねないでよ!」

 

 ショナは拗ねるユウリを宥めようと寄り添ってあげている。精神的に一番強そうな子だと思っていたんだけど、案外弱い部分があった。


「ま、そう言う事よ。それにあなたが何をしに行くのか気になるし」

「いやぁ~」


 できればバレたくないんだけどね。

 

 私が転生したって話さないと多分理解してもらえないし、そもそも転生自体を理解してもらうのが大変すぎる。

 最悪、異常者だと思われて離れてしまう可能性だってある。

 

 この3人の申し出をアナに説得をして欲しいとお願いしたんだけど……。

 

 しかしアナから帰ってきた応えは……「お友達が居るのであれば私は要りませんね。私、ここへ来て初めて意気投合できるメイド仲間に会ったので休暇を頂きますね」と言われてまさかのアナは休みを取った。

 

 私は実家に付いた時のために3人にバレず、こっそり抜け出す方法を考える。


「ここまで付いてきてアレだけど、私達は行って良かったの?」

「……アナが連絡したから多分大丈夫かな」

「さすが!じゃあ気にせずルークの育った場所を見られるのねッ!」

「……」


 狐の女神様の力を与えられた子を探しに行くのが今回の目的でそれもバレたくない事の1つの事だったけど、一番は私の家の扱いをこの子達に見られるのが嫌だということ。

 

 あの馬鹿な義母でもさすがに他の国の人とホワイト家の令嬢を前にいつも通りの行動は取らない……はず。

 

 3日かけての長い帰省だ!!ちなみに泊まるのは1日かできて2日、それ以降は夏休み明けに間に合わなくなる。

 そしてパーティメンバーの女の子3人と長いようで短い3日間の馬車の旅は何事も無く進んで行った。

 

 そして――

 

「お!あれじゃない?バレンタインの領土!」

「おーっ美味しい食べ物あるかな……?」

「久しぶり……ね」


 新鮮な反応をするショナとユウリの2人とは対照的にフーリアは何とも言えない表情をしていた。

 思い出深い場所に戻ってきた感覚そして苦い思い出が蘇っているのかもしれない。

 

 馬車を降りると門番の人が声を掛けてくる。


「ルーク様、お帰りなさいませ」

「ええ……久しぶりね。特に変わりはなかった?」

「……そうですね。良くも悪くも」

「そう……」


 この門番はゴーレムが家の中庭に入ってきた時、一緒に戦ってくれた人だ。

 数少ないこの家での私の理解者。それを分かっているのか父上もこの門番をずっと起用してくれている。

 

 是非この人にはずっと居てもらいたい物ね。


 そんなことを考えて居た時だった!!

 家の玄関の扉が開かれる……そこには義姉のアーミアが居た。

 

 最悪……最初に出迎えてくるのがこの人なんて……。


「んあ?何あんた帰って来てたの」

「は、はい……お久しぶりですお姉……」


 義姉の事は嫌いだけど、皆の手前とりあえず挨拶をしよう……。

 しかし義姉はそんな私の声に耳を傾けることなく、勢いよく外へ出て行く。その時私の肩に当たったけど何も謝罪は無かった。

 

 フーリア達もぶつかりそうになりながらも避けて事故は起きなかったが、不愉快だっただろう。


「何あれ、ルークのお姉さん?」

「……貴族なのに常識もないの……あれ」

「……」


 ショナとユウリがアーミアに対して想ったことを口にする中、フーリアは黙って居た。

 フーリアはアーミアに会ったことが無いはずだからこんな人だとは知らないはず……。

 

 皆を客間へ案内してからメイドにおもてなしをするように伝えて私は父上の部屋へ向かった。

 一応戻ってきたことを伝えるべきだと考えたからだ。

 

 まあいつも忙しかったから居ない可能性の方が高いんだろうけど……。


 父上の部屋の扉を叩くと中から声が聞こえる。


「なんだ?」


 それは父上の声だった。少し窶れているようなか細い声だった。

 何かあったのかな?そんなことを考えつつも扉越しに返事をする。


「ルークです。今帰りました」

「ルーちゃ!?ゴホンッ……入っていいぞ」

「失礼します」


 急に声が元気になったけど……まあいいや。

 

 私は扉を開いて中へ入る。

 父上は今、机の上で仕事をしているようだ。

 邪魔にならないように早く出る事にする。どうせ挨拶だけだしね。


「えっとアナから連絡があったと思うんですが、今帰りました」

「ふむ、まあ夏休みだからな。学校は何か問題は無いか?」

「はい、皆いい人達で楽しくやれています」

「そうか……それは良かった」

「……それでは」

「あ、あぁ……」

「何か?」

「いや、なんでも無い」

 

 本人が何も言ってこないのであればこれ以上邪魔をするわけにはいかない。仕方ない……私の手が必要な時はきっと言ってくれるだろう。

 私はそう判断して皆の待つ客間へ向かった。

 

「あ、ルークお帰り~」

「辺境の街なのに見たことも無い食べ物があって面白いわ!このチョコレートってお菓子美味しすぎる!!!!」

「それはどうも」

「どうしたのルーク何かあったの?」


 フーリアは私が何か気にしていることに気づいたのか珍しく心配してくれる。

 

 そう私には今悩みがある……それはこの子達にバレず、どうやって狐の女神様が力を与えた子を探すか!!正直父上の挨拶も口実でどうやって抜け出すか考える時間が欲しかっただけなのだ!!

 

 どうやって誤魔化せばここから出られるのか思考を巡らせる。

 

 ちなみにショナとユウリはなかなか満足そうにくつろいでいる。

 フーリアも同じくらいくつろいでくれれば隙が生まれるかもしれない……よし!


 私は良い事を思いついたのでそれを実行する事にした。

 

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