第39話 声
ショナ達を誰も思いつかいな幼な完璧な方法で騙し、屋敷を抜け出すことに成功した私は1人、あてもなく街を歩いていた。
さてさて……どうやって女神様の力を与えられた子を探そうかな。寄り道をすると言っておいた手前、時間は沢山ある。
それにしても久しぶりに来たんだけど、心なしかこの街の雰囲気は悪いように見える。
もちろんほとんど街へ出たことが無いので普段の空気というモノがどんなのか分からないけど、都市と比べると活気が無い。
「前はこんなんじゃなかったのに一体どうしたのこの街」
私は一言も発していない。
「……」
「ねぇ聞いてる?てかもしかしてルークってあんまり街とか見たこと無いの?」
「ん~……」
私はとある現実から目を背けていた。
正直言うとこの街から女神様の気配を感じない。つまりその力を受け継いだ子もいない可能性が高いという事だ。じゃあどうして街を見て回っているのか……。
それは他でもない。
「な、なんでフーリアがここに居るの?」
「なんでってアレでうまく騙せたと思ってる?まあとは言っても確証はないから推測だけど」
「そ、そんなことはないよ。だから家に居ていいよ」
「は?何、もしかして私は付いてきちゃいけなかったの?」
「……いえ、そう言うわけではないんだけど」
付いてきて欲しくないんだけどここで肯定する勇気は私には無かった。
「じゃあ良いじゃない?」
「……そうだね」
「何その不服そうな顔」
「そ、そう見える?」
「ええ、私はいつもあなたを見てるもの」
「怖いんだけど……」
「は?」
一応表情には出さないように隠していたんだけど……よくわかるねこの子。
ホントどうしよこの状況……。ここから抜け出すのは至難の業と言える。嫌われる勇気があれば別だけど……。
そんなどうしようかと考えていた時だった。
「で、何買うの?」
「え……あー」
そうだった。チョコのアレンジをするために食材を買いに来たと言う理由で抜け出してきたんだった。
すっかり忘れていた事を思い出し何かいいモノは無いかと思考を巡らせる。
するとすぐそこにパン屋を見つけた。
とても香ばしくていい匂いだ……食欲をそそる。そのパン屋を見てあることに気づいた。
それはこの世界にはチョコレートを塗ったパンが無い事だ。
菓子パンなんて概念が無いのかほとんどがプレーンの物だったり、夕食のシチューのお供に!と書かれたパンしかない。
パンにチョコを塗る事を思いついて私はパン屋へ寄る。
「あの、パンをください」
「……あいよ」
パン屋のおばさんは愛想よく笑顔を見せているけど、なんだか作り物のような感じで怖かった。
生憎食パンは無かったのでフランスパンみたいな細長いパンを選んだ。さすがにフランスパンという名前ではなく、ただのパンとして販売されている。
パンを手に取りお金を払う。
「お金?出してくれるのかい?」
「え……?」
どうして急にそんなことを聞かれたのか考える思考で頭がいっぱいでどう返事をすればいいか分からなかった。というかなんでそんな当たり前のことを……?
私が何も言えないでいるとフーリアがパン屋のおばさんを睨む。
「そんな普通の事をこの子ができないとでも思ったんですか?」
「そ、そう言う事ではなくて……」
「確かにルークは馬鹿な所があるけど、さすがにそれくらい常識はあるわ!!」
庇ってくれたのになんだか素直に嬉しくない。
おばさんは一瞬私の方をチラッと見てきた。
なんだか顔色を窺っているように見える。もしかして私が貴族だから?このおばさんが返事をしやすいように誘導してあげるべきだろう。
勇気を振り絞れ私!!
「え、えっと……私に悪い所があったのなら言ってください。お、お店のルールに反していたとか?」
「そういうわけではないんですが……その……バレンタイン様のご子息はその……」
「私が何か……?」
この後に続く言葉はきっと私に対しての不満なんだろう……と思って身構えていたんだけどその言葉は意外なモノだった。
「おそらくあなたはルーク様ですよね?」
「そうね」
「ルーク様ではないのですが……その……バレンタイン婦人とアーミア様が……お金をお支払いしてくれないので……」
「え……」
それはある意味衝撃的な話だった。
あの2人なら想像できるけど……一方でまさかそんなことをしているなんて……。これじゃあ盗人じゃない……。
あれらにバレンタインを名乗ってほしくないんだけど!!
せめてバレンタインとしての誇りを持ってほしい。
あとで父上に言っておこう。
私はそう決意しておばさんに今までどれだけ支払われていなかったのか聞いた。
そして今まで支払われていなかった金額を書いた紙を貰う。今払いたかったけど私の手持ちは冒険者として稼いだお金とほんの少しの仕送りのみ。
とてもじゃないけどお金が足りなかった……あの人達どんだけ持って行ったのよ……。
私はパン屋のおばさんに謝罪してからその場を去った。
「その……バレンタイン婦人ってそんなやばい人なの?」
「え、まあ多分フーリアの想像は超えてるんじゃない……?」
「そこまで!?」
「だって
「……」
それを聞いて他にもまだあるのかとフーリアは呆れた顔をしていた。
私が衝撃的に感じたのもまさかと思ったから……。ただ時間が経つに連れてあの人達ならやるだろうという結論に至る。
そんな話を聞いてフーリアは何も言わないけどこちらをまるで可哀そうなモノを見るかのような目で見つめてくる。
もしかしたら私が街を歩いている間もあの人達の血縁だからと奇異な目で見られていたのかもしれない……。
そんなことを考えると頭が痛くなってきた。
というかそろそろ目的を果たさないと……。
「そ、そういえばフーリア……私ちょっと寄りたいところがあるんだけど……」
「ん、いいよ」
「あ、いや……できれば1人で……」
「懐かしい場所へ行きたいんだっけ?」
「そうそう」
「……」
「……」
私のその応えにフーリアは不服そうな顔をして詰め寄ってくる。
「さっきのおばさん、ルークの事をあまり知らないみたいだけど、本当に街に来たことあるの?」
「えっ」
「思い出って言うけど別に私達が居てもいいんじゃないの」
「いやぁ……」
「それとも私達に離せないような疚しい事があるの?」
「そんなことはないから!!」
「じゃあ行くわ」
「……マジですか?」
「マジ」
……フーリアは頑なに私についてくるようだ。
どうしようか考えながら歩いていると遂に街の外へ出てしまう。
そんなまさに街の外へ出た瞬間の事だった。
きゅううぅぅぅぅぅぅん――
と動物のような鳴き声が聞こえてきた。
何の動物か分からない……だけどなんだか胸がざわつく。
「行ってみよ!!」
「え?ちょ、ルーク!!」
気づいたら私はその鳴き声のした方へ向かって走っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます