第30話 怪しい宗教


 へんな連中に襲われていた女性を助けた私とフーリアはその子と共に路地裏を出た。

 どうしてあんな場所で襲われていたのか話を聞きたかったし、路地裏には他に何が潜んでいるか分からないからね。


「それで?何があったの?」


 フーリアは路地裏を出るとすぐに女性に問う。

 まだ怯えている様子を見せているからもう少し優しい言葉をかけて上げて欲しいんだけど……ちなみに襲われていた人は私達より年上の大人の女性だった。

 

 ただ魔法や剣術などを使えないただの一般人であの怪しい二人組に襲われてしまっても抵抗することはできなかったという。

 しかし女性は怯えながらも勇気を出してくれる。


「お、脅されて……」

「脅しって何?」

「私には妹が居まして……その子を殺すと」

「……いやいや、無理でしょ、その妹さんの居場所をあの怪しい男達が知らない限りは」

「……」


 女性はその指摘に口を閉ざした。

 あの男達が妹の居場所を知っていると確信しているような面持ちだ。

 フーリアはまだ恐怖で少し息を切らしている女性を休ませること無く問いただす。


「その様子だと何か知っているの?」

「……え、ええ」

「それは一体何?!」


 フーリアの押し問答は目に余るが私はこの状況だというのに知らない人と話す恐怖から口を開けないでいた。

 だからフーリアがこうして色々聞いてくれているのはありがたい部分もある。だけど少しやりすぎか……。

 

 私は声を絞り出す。

 

「ふぅ……フ、フーリア……もう少し優しく聞こうよ」

「ルークは黙ってて!私はこの時間を無駄にしたくないの」

「何か予定があるなら後は私が……」


 人と話すのは苦手だけど、フーリアに何か予定とかあるのなら私が何とかしようと考えた。しかしフーリアはそれを拒絶する。


「それは無理よ」

「どうして……?」

「それは……」


 フーリアは何故か私の方を見て顔を赤くしている。

 え……これは何?用事ってまさか私に?顔を赤くしているってことはまさか……!!と期待しつつも最悪この赤くしている顔が怒りを表している可能性を捨てない。

 

 怒っているようには見えないんだけど、もう女の子の気持ちは理解できないと先ほど確信したばかりだ。

 最悪怒られることを視野に入れる。

 そうなると私がその用事に必要ならここでこの女性の話を早く聞く必要がありそうね。


「お、思い出すのは怖いかもしれないけど良かったら聞かせて欲しいんですが」

「……は、はい!あの人達……あ、私を襲った連中はとある宗教の人なんです」

「宗教……?あれ、襲われたんじゃ?」

「襲われてはいました。自分たちの宗教に入らないと、その宗教に入っている妹を殺すと……」

「な、なるほど……」


 妹さんの居場所が知られているどころか同じ宗教の仲間と言うわけか。

 それなら命を握っていてもおかしくない。


「その宗教の名前は?」

「それは分かりません。妹からも入らないかと言われていたんですが、断ってしまって、入るって言わないと詳しい事を何も教えてくれないんです」

「怪しいわね」

「そうですね。怪しいと言えばあの怪しい感じのフードを妹も持っていたので……」

「それで同じ宗教だと思ったのね」

「はい……」


 あのフードは女性冒険者を侵食した魔力と関係のある奴と同じものだ。

 と言うことはその宗教団体には特別授業の時の怪しいフードの男が居る可能性は高いか……。


「どうするのルーク?」

「……とりあえずはあの人達をギルドに突き出そう。あなたは……」


 女性はどうやらこの辺の家に住んでいるらしく、家まで送る必要はないという。

 本当にすぐそこの家の中に女性が入って行ったのでそれを確認してから私とフーリアは路地裏に戻った。

 あの怪しい男達をギルドへ突き出すに辺ってとりあえず運び出す必要があるからね。

 

 しかし路地裏に戻ると私達は衝撃の光景に目を疑った。

 確かに多少痛めつけたけど血を吐くほどのダメージや傷口から大量の血が出るみたいなやりすぎな事はしていない。

 だけど倒れた2人の男の周りには大量の血が流れていた。その光景を見たフーリアは一番近くの倒れている男に駆け寄る。


「ちょっと!大丈夫!?何が起きて……」

「ぐふぅ……ククク、何も起きていないさ……これは自分達でやったことだ……」

「まさか……自分で刺した……?いや、外傷はない……」

「薬さ!我が教団の特別な……上手く行けば力を得られたが……相棒はもう死んだみたいだな……俺は飲んだ量が少なかった……みたいだが……そろ……そろ……」


 男は力なく崩れ落ちる。

 

 まだ少し息があるみたいだけど、数分で死ぬだろう。ギルドの人達を呼んでいては間に合わない。


「この!!どうしてうまくいかないの!!」


 フーリアは拳を地面に叩きつける。

 まるで行き場のない怒りを晴らすかのように……。

 やっぱり私に一度叱られたとしても目の前にあるチャンスを逃すのは嫌だよね……。

 

「こいつらを突き出せば情報が得られてあの冒険者の人が助かる可能性があるし、それに貢献したとなれば少しは私もホワイト家として!!」

「フーリア……」

「危険をなるべく冒さない、皆も巻き込まない最善の手だったのに……」

「……フーリアはその後どうするつもりなの?」

「別になんもしない……約束でしょ」

「そっか……」


 じゃあつまり、ここでこの男を助けてもその後の面倒ごとには首を突っ込まないということね。

 ホワイト家として認められたらフーリアはきっと嬉しいだろうし情報を聞き出せるのならそれに越したことはない。


 自分で薬を飲んで死んだってなればマシだけどなんか私が追い詰めたから飲んだみたいになるのは嫌だ。一人はもう助からないけど助けられる命を助けないのは夢見が悪い。

 

 私は薬で倒れている男に治癒の魔法を施した。幸いここには私が魔法を使えることを知るフーリアしか居ない。


不死鳥の炎フェニックスフレア

「ルーク……!?それは魔法……」

「知ってるでしょ私が魔法を使えるって」

「まあ……ね。魔導騎士(エーテルナイト)じゃないのにあなたは剣も魔法も両方使えるって、でもまさか治癒魔法まで使えるなんて」

「あはは……秘密だよ」

「え、ええ仕方ないわね。二人だけの秘密にしといてあげる」

「ありがと」


 なんかちょっと重たい気もするけど隠してくれるのならいいか。

 治癒魔法を施した男は毒が抜けていびきを掻いて眠っている。


「まったくあなたは本当に……」

「どうしたの?フーリア」

「何でもないわ。とっととこいつをギルドに突き出して認めさせるわよ」

「う、うん」


 フーリアはやる気満々だった。この調子ならこいつを突き出す時もギルドの人に詳しく話してくれるはずだ。

 しかし私は話すのが苦手なので精神年齢が1回り下のはずのフーリアにギルドへの対話を任せることにした。

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