第31話 吸血の記憶


 怪しい男を引き渡すためにギルドへ向かう途中、私達を襲って来て返り討ちにした宗教団体の男が目を覚ました。

 男はバタバタと手と足を動かして暴れている。


「放せ!!と言うかどうして俺は生きてるんだ!?」

「偶然薬の毒が周ってなかったんじゃない?」

「そんなバカな……それじゃあ俺は……だがしかし何も……」

「何訳の分からない事を言ってるの?」

 

 あの時、最期に私に対して妙な事を言った男は死んだ。

 正直生きている方が逆だったらその真相も聞けただろうに……。生きているこの男の様子から私の事を知っている素振りはない。


 いやまあもしかしたら知っているかもしれないけれど、このまま起きている状態にしておいても迷惑なだけだ。


「フーリア」

「はいはい」


 フーリアは名前を呼ぶと意図を理解してくれる。

 暴れている男のお腹に目掛けて拳で突いた。女の子とはいえ剣士のフーリアの拳を一撃でもまともに受ければ大人でも一撃で沈む。

 めちゃくちゃ屈強な身体を持っていない限りはね。

 

 こいつが途中で起きてくれて良かった。私の事で何か知っているなら聞いておく必要があったし、何か不利益な事ならギルドに渡さない選択肢もあった。

 

 ギルドの前まで辿り着くと何故かそこにショナが居た。

 声を掛けないのも変なので声を掛ける。


「あれ?ルークとフーリアじゃない……もしかしてあなた達も何か依頼を受けに来たの?」

「あなた達もって……ショナはそうなの?」

「まあね。結構時間たったし一人でもできそうな簡単な奴をね……。お金だって塵も積もれば山となるってね」


 先ほど別れたばかりだというのにすぐにギルドへ戻って1人でコツコツを依頼をこなそうとしていたのか。

 

 ショナは偉いなぁ~。


「そっちは?」


 襲ってきた男をギルドに突き出すため、ここへ来たことを伝えた。

 するとショナは水を得た魚の如くぴょんぴょん跳ねる。


「何それ面白そう!私も行っていい?」

「う、うん」


 一度別れておいて良かった。ずっと一緒だったら魔法を使えなかったからね。

 ギルドに入って忙しそうに右往左往している受付嬢を捕まえる。

 最初は邪魔をするなと怒られたけど、説明をすると目の色を変えて、事細かに話を聞いてくれる。

 

 ひとまずこんな人目のある所ではダメだということでギルドの奥へ通された。

 関係者以外入れない部屋だ。受付嬢は私達をこの部屋に通すと一度出て行った。誰かを呼びに行っているようだ。


 少し待つと部屋の扉がノックされる。私達が何か言う前にその扉は開かる。

 そこには受付嬢と小さな女の子が居た。

 受付嬢の人はいつも通り私達の対応をしてくれている方なんだけど、小さな女の子はなんだか異様な雰囲気を纏っていた。

 

 その子は中学生くらいの見た目をした可愛らしい女の子。身長や顔立ちが童顔であることから幼さを感じるがどことなく知性を感じさせる風貌に幾千もの人を見てきたような鋭い眼光を持っている。


「ふむ、お前らが有益な情報を持ってきた新人か?」

「はい、私はフーリア=ディ=ホワイトと言います。」


 フーリアが率先して質問に応えた事で私達もそれに続いて自己紹介をする。


「ショナです」

「ル、ルーク=バレンタインです」


 その女の子は私達の対面のソファ―に座る。受付嬢の子はその隣に立ったまま、まるで護衛だ。


「私はこのギルドのマスターだ」

「ギルマス!?」


 小さな女の子だと思っていたらまさかのギルドマスターだった。

 通りで知性を感じさせるわけだ。でもなんでこんな子供が……。

 そんなことを考えて居る事は知らないであろうギルマスは話を進める。

 

「ふむ、お前達の事は聞いている。エステリア学校の1年の中でもトップクラスの魔導士と剣士のチームらしいな」

「ありがとうございます。もう一人いますけど今日は休みで」

「なるほど、是非あってみたいものだが、今の状況的にそれどころではな


 ギルドマスターは床に横向きで置かれている男へ目を向ける。


「こいつか?」

「はい、しかし……まだ眠っていて話を聞くのは難しそうですが……起きるまで待ちますか?それとも叩き起こしますか?」

「不要だ」


 ギルドマスターは「よいしょ」と立ち上がる際に呟く、まるで老人だ……。

 そのままゆっくり歩いてまだ眠っている男を見やる。と突然、男の襟を上げ始めた。男の首筋が見える。

 

 何をするんだろう……?

 

 そしてギルマスは口を大きく開けるとそこからなんと立派な牙が二本生えている。それをおもむろに男に突き刺す。


「なっ!?何を!?」

「し、静かに」

「で、でも……」

「いいから」

「はい……」


 その光景に驚く私達を宥めるように受付嬢が止めに入る。

 

 それにしても結構痛そうだ……と思ったんだけど、男は何故か安らかでまるでいい夢でも見ているかのような気持ちよさそうな顔をしていた。ちょっとキモイ。

 牙を刺してそこから血を吸っている……吸血鬼……?

 

 私は咄嗟にいつもの受付嬢の顔を見る。


「これはギルマスの魔法、吸血魔法というモノです」

「吸血魔法……?」

「ええ、ヴァンパイアと呼ばれる種族に生物の生き血を吸うのが居ますが、一応彼女は人間です」

「え、じゃあその……おさな……若く見えるのは……?」

「吸血魔法による効果ですね。ギルマス曰く、血を吸うと若返るそうです」


 吸血鬼は歳を取らず見た目がずっと変わらないと聞いたことがある。

 まさか若返るなんて……いや、それとも人間が魔法を用いて血を吸っているから……?吸血鬼は歳を取らないから若返ればいつかは幼子になってしまうから矛盾が生じる。


「ギルマスの吸血魔法は若返りだけではなく、血を吸った物の記憶を見ることができます」

「えー!すごーい!若返るだけでも欲しい力なのに記憶まで見られるなんて!!」

「どちらかと言うとそれがメインですね。ギルマスはそれを駆使して口を割らない犯罪者から情報を得ています」

「すご……?」

「この魔法はギルマスが15年程前、使えるようになったんです」

「え……私達が生まれたくらいだね?」

「そうなんですね。15年前はヨボヨボのおばあちゃんだったんですよ」


 受付嬢は笑いながらそう言う。

 

 若返りの魔法は15年前に得てもう死を待つだけの老人という最も長生きした所から今の幼い子の容姿になったのか。

 それならどことなく感じていた貫禄にも納得が行く。


「ただ、この魔法は血を吸えば吸う程、記憶の奥底まで……つまり古い記憶を見られますが、その分若返ります」

「今よりも若返ったら幼女になりますが」

「今でも十分……こほんっ!だからあまり吸わないで欲しいんですけど……」


 ギルマスはずっと血を吸っている。

 逆に吸われている方を心配してしまう。

 

 ちょうどその時にギルドマスターは血を吸うのを終えたのか男から離れる。そして地面にぐったり倒れた男を乱雑に放り投げる。


「アリアナ緊急事態だ」

「何が分かったんですか?」

「……色々、今は話している暇はない。使える者を集めよ」

「はっ!」


 アリアナと呼ばれた受付嬢は部屋をダッシュで去って行く。

 何が分かったのかギルドマスターに聞いてみる。


「移動しながら話そう」

「移動ってどこへ……ですか?」

「街の外へ……だ」

 

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