第29話 動き出す針
しばらくの間、街で完結できる程度の簡単な依頼をこなす。
未だ昏睡状態の人は目を覚ましていないという。
それどころか数日経った今日……ギルド内が何やら騒がしい。
「何かあったのかな?」
「でしょうね。じゃないと騒ぎになんかならないし」
「……そうね」
この前の一件以来、さらにフーリアの辺りはきつくなってしまった。
嫌われてでも彼女を試そうと思ったのは私だから自業自得なんだけど、やっぱり辛い。
でもアレはフーリアのためを想っての事!
悔いはなかった。
ギルドへは夏休みはずっと依頼を見に来ていて今日もそれだったんだけど……。
いつも受付をしてくれている女性が私達の前を通り過ぎようとしていたので声を掛ける。
「何かあったんですか?」
「あなた達は……いつも沢山依頼をこなしてくれている子達!!今日も何か探しに来たのね。ありがたいんだけどもう少し待ってもらえるかしら?」
「忙しそうですね?私達も何か力になれるのなら!!」
ショナはそんなことを言い出す。面倒ごとは勘弁したいんだけど……リーダーの言う事なら仕方ない。
それにこの騒ぎが何のか知りたいし。
「ご、ごめんね。エステリア学校の子に危険な事は……あっいや、これは聞かなかった事にして!それじゃまた来てね!」
「あ……」
ショナは去って行く受付の人を止めようと手を前に突き出したが、追う事はしなかった。
忙しいのを邪魔するわけにはいかないし、あの言い方なら私達に何か頼ってくれることはないだろうからね。
「なんにせよ何で騒いでるのか気になっちゃうよねぇ~」
ショナは不敵な笑みを浮かべる。
あの怪しい男と関係のない事なら首を突っ込んでも構わないだろう。私もどうしてギルド内がここまで騒がしいのか気になるし……。
いつもはテーブルの方で酒を飲んでいる人やこれから依頼を受けるために作戦会議をしている人、掲示板の前にただ立っているだけの人、受付嬢をただ眺めているだけの人など様々居るんだけど……。
今日はそのほとんどが忙しなく動き回っている。
ギルドの管理をしている人や従業員しか入れない部屋へも出入りも頻繁だけど私達はおそらく中に入れない。
受付の人が私達の協力を仰がなかったのが証拠だ。
近くのテーブルから大きな声が聞こえてくる。
巨体の男性冒険者だ。誰かと話しているようでその相手の声は残念ながら小さくて聞こえないが、巨体の男性冒険者は声が大きいのでそっちは聞こえた。
「マジか。また被害が……2人目かぁ……いよいよ危なくなってきたな」
「……」
「え、最近入ったガキが!?くそ、まだ若けのに……」
「……」
「ああ、確かに……早く終わらせないとな!!」
巨体の男性冒険者は話を終えるとギルド関係者しか入れない部屋へ向かってしまった。情報は少ないモノの気になる事を聞いてしまった。
「二人目……ってまさか」
「可能性はあるね。どうする?」
「……」
フーリア、ショナ、ユウリは何故か私の方を見てくる。
え……もしかして私に決めろって言うの……?
「いやごめん、つい」
「別に首を突っ込んでも怒らないし……危険な事をしないのなら……」
「えへへ、頼っちゃってごめんね!今日は外行こ」
ショナは元気な声でギルドの外へ出るように促す。
前の事とは私がフーリアに厳しい事を言ったことだろう。
ショナ達をもしかしたら怖がらせてしまったのかもしれない。
くっ……性別は変わろうが女の子と話すのは大変だ……。
「それじゃあ今日は休む?」
「まあこの忙しいのがいつ終わるか分からないし、それでいいと思う」
フーリアは納得いっていないようだけど、3人が何もしないという事で、フーリアも自室に戻って休むことにする。
「あなたはどうするの?」
「私は……まあ一度宿に戻るかな」
「そ……それじゃあ」
「う、うん」
何か言いたげなフーリアだったけど、今日は解散する流れになる。
私は一人で宿へ戻る。
ショナ、ユウリは外国から来たので特別に夏休みでも寮に泊まれる。フーリアはホワイト家の分家の家に住んでいる。だから一緒に帰ることはない。
そのはずなんだけど……。
後ろを振り返るとその何か言いたげな子が1人ムスッとした表情でこちらを見ている。怒っているのか怒っていないのかまさに微妙な所……。だけどついて来ているのはこの子なんだから声を掛けられても文句はないはずだ。
「フーリア……どうして付いてくるの?」
「ダメのなの?」
「……いえ、大丈夫だけど」
「じゃあいいじゃない」
「……そうだね」
やばい……こういう時が一番気まずいんだよね。そして一番嫌いな空気だ。
もしかして宿まで入ってくるなんてことないよね……?そんなことを考えていると路地裏の方から妙な声が聞こえるのに気づく。
「やめてください!私はそう言うの興味ないですから!!」
「そう言うなよ。俺達と来ればいい思いができるぜ?」
なんだか怪しい現場が今そこにあるみたい。多分路地裏から聞こえる声も聞いている。私は何となくそこへ入っていく。
路地裏のすぐそこでは2人の男に女性が囲まれている。ただその男2人は見覚えのあるフードを被っていた。
「あの時の怪しい男と同じ服装ね」
「フーリア、私はあの人を助けるからここで……」
「待たない!私もそれくらいやるわよ!!」
「ちょ……!!」
フーリアは大きな声で私の指示を無視する。そのせいで怪しい男たちに見つかってしまう、多分わざとだ。
「誰だ!?」
「その人、嫌がってるじゃない!やめなさい!!」
「あ?……その制服はエステリア学校の生徒か……」
怪しい男はフーリアと私を嘗め回すように見てくる。
なるほど……女性は異性からの視線が嫌な人は多いけど、それも納得だ。フーリアに対してもその視線を向けているのはなんだかムカつくでとっとと終わらせやる!!
幸いこのフードの男達はあの時の怪しい男じゃない。それは魔力で分かる。私とフーリアはフードを被った男達と戦う。
片方は剣士、もう片方は魔導士だ。フーリアは剣士を相手にする。じゃあ私はこいつか……。
「お嬢ちゃん達も俺達と来ないかい?」
「断るわ。後、未成年に手を出すのはダメでしょ」
「未成年?なんだそれ……?お前もどこかの宗教の人間か?」
何やら引っかかる言い方だ。
あの怪しい男と同じ服装をしているんだから捕まえる必要はありそうね。
魔導士の方は私と同じ炎を使うみたい。
「
初級の簡単な炎の魔法だ。
炎の魔法と炎の刀を使う私には素で炎に対しての耐性がある。これくらいなら受けても死ぬことはない。
ただ痛いのは確かだし、せっかく炎の魔法を使ってくれているのだからそれを利用する。
「炎帝剣。炎を食べて」
剣に炎を食べさせる。というか吸収させる。
私には炎の耐性があるどころかこうして炎なら吸収できる。そしてより強い炎へ返還する。
「なっ……!?魔法の炎を剣が飲み込んだ!?ありえない。そんなことをできるのは……」
「
炎の斬撃を飛ばして一撃で終わらせる。威力が上がっていたので逆に手を抜いて放った。さすがに殺すのは前世の記憶があるから抵抗がある。
それに捕まえないと話を聞けないしね。魔導士の男は薄れゆく意識の中、一言妙な事を言う。
「貴様……いやその炎は……!!」
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