第28話 好奇心

 

 結局フーリア達と共に女性冒険者を襲った怪しい男を捕まえる事になった。

 危険だからあまり乗り気じゃないんだけど、3人の若い女の子達の好奇心には敵わないか。

 

 しかし、何をどうすればどこの馬の骨かも知らないあの男を探し出せるのか。捕まえる以前の問題で躓く。そんな私達が頼ったのは冒険者ギルドだった。

 今のギルドは初心者冒険者を危険に合わせないために怪しい男の事は私達に教える事はないだろう。

 

 だけど、襲われた女性冒険者と一緒に魔物を狩っていたから少しは面識がある。それを利用して話を聞けないかと考えた。

 そして今、私達は冒険者ギルドの医務室に居る。

 

 少ないつながりではあるけどそれを利用しようと考えたのはフーリアでその作戦が上手くいく、医務室で女性冒険者の面倒を見ているのは話の分かる人で誰にも話さない事を条件に教えてくれる。

 

 あとはどこまで情報を聞けるか。

 ショナは私達のパーティのリーダーのような存在だから積極的にギルド関係者に話を聞いてくれる。


「一体何があったんですか?」

「君達は特別授業で一緒だったんだよね?心配な気持ちはわかるし、これからどうなるのかわからない。だけど必ず助けてみるから信じて欲しい」

「はぁ……」


 聞きたい情報はそんな事じゃなかった。

 ショナはあからさまに顔を引きつっている。こうして何度も話を聞いているが相手は大人、私達の発言に察して情報を開示しないように回避してくる。

 

 それなら今のこの女性冒険者の事を調べて少しでも手がかりを探るべきか。ベッドに寝かされているし常にギルドの医療班が監視しているので身体を触ったりはできない。

 

 それなら……。

 

 私は昏睡状態の女性冒険者の魔力を見る。

 やっぱり不気味なうねうねした紫色の魔力が身体の中を蝕んでいる。

 どうしてこんなことになったのか思い出す。倒したゴーレムに触れた瞬間、この魔力に感染した。

 

 その後、感染した女性冒険者の身体にはあの時、助けに来てくれたギルドの人達が触れたけど何か魔力に侵食されたみたいな話は今のところは聞いていない。

 

 ということは感染とかじゃないのかな?

 

 魔力を使ってこの出所を探る事ができるんだけど、それはあのゴーレムを倒した場所なんだよね……。

 今は外に出ることを禁じられているから確認のしようがない。

 早々にゴーレムを確認しに行くという選択肢を捨てて、ショナの話術に頼ったけど成果はなかった。

 

 私達は早くも壁にぶち当たってしまう。

 まあ私にとっては願ったりかなったりなんだけどね。そんなことを考えながら医務室を出て、街を散策しつつ歩きながら話し合いを進める。

 

 もはや自由に使えるようなお金はなく、外食はできない。ユウリは仕送りのお金でサンドウィッチを買って食べているが物足りない様子。

 分けてもらおうにも彼女の生命線でもあるから無暗に少し頂戴とは言えない。

 

 空いたお腹を押さえて、さらに会話で空腹を紛らわせる。


「どうする?これから」

「ん、何かいい案はないのルーク」

「私……?」


 ショナもフーリアも行き詰っている。

 ここで何か凄い案を思いついて提出すればもしかしたらフーリアに認められて仲直り……はどうせ無理か。

 

 今までの事を思い出してその可能性も早めに捨てた。まあそんな可能性は捨てても捨てなくてもいい案などない。

 街の外へ出られれば方法はある。だけどそのことは伝えるつもりはない。


「だいたい、街の外へ出られない時点てこの作戦は成功しないのかもね」

「どうしてそう思うのフーリア」

「あの怪しい男がこの街に居るとは限らないじゃない。街の外に隠れ住んでいたら今のこの状況で捕まえるのは不可能だし」

「――ッ!!!?忘れてた!!!!」


 ショナは驚いた声を上げる。

 どうやら街の外に居る可能性は考えていなかったようだ。魔物が多く居る外で拠点を構える事は普通しない。


「じゃあ……街の外へ行けばいいじゃない!!」

「……」

「……」

「……」

「え?」


 ショナのその発言にはさすがにその場の空気が凍り付く。

 どうやら街の外へ出てはいけないという事を忘れているらしい……と思ったんだけど……それ以前の話だった。


「バレなきゃ怒られないよ!」

「いや、ダメでしょ……最悪退学よ?」

「うぐっ!?それはちょっと……」


 最悪あり得る退学という言葉を使うとさすがのショナも自重してくれた。


「街の外へは無駄に体力使うし、ご飯食べながら戦いにくいからあんまり……」

「……もしかして戦闘中に何か食べてる?」


 私はふと疑問に感じたので聞いてみた。

 

 ユウリは肯定も否定もせず、今手に持っているサンドウィッチを頬張っている。その様子が頷いているようにも見える。

 

 そんな諦めムードの中、フーリアはとんでもない事を言い出す。


「……いえ、街の外へ行きましょう」

「フーリア!?何を言っているの!?」

「このまま依頼を受けられないのはきついし、何より脅威を退けたとあれば……」

「フーリア……」


 最後のホワイト家として実績を積みたいという考えがあるんだろう。

 それだけホワイト家はフーリアにとっては大切なんだ……。

 それは分かった。だけど生半可な覚悟なら止めるしかない。ここは少し踏み入って試すことにした。


「フーリア、実績が欲しいのは分かるよ。だけど色々覚悟はできてる?」

「覚悟……?どうしたの急に」

「急にって、失敗すればあなただけじゃなくて私達全員咎められる」

「それは……全責任を私に押し付ければいいじゃない!」

「それは覚悟じゃなくて逃げじゃないかな?」

「は……?」

「そんな子供の戯言なんか周りは聞いてくれない。私達はパーティだからね。最悪皆退学もあるんじゃないかな?」

「……それは、じゃあ」

「一人で戦うのも逃げだよ」

「――ッ!!」


 フーリアは自分を犠牲にしてでもホワイト家のために戦おうとするのは分かっていた。再開して数か月しか経っていないけどそれくらいはフーリアの態度を見ていれば分かる。

 彼女は変わってしまったけど、本質は変わっていない。誰よりもホワイト家を大切に思っている。

 

 でもそれじゃ多分……いやいずれフーリアは壊れてしまう。それだけは私としても避けたかったし、何より彼女のためにならない。

 

 フーリアは大きくため息を付いた後、諦めたように言う。

 

「……はぁ、そこまで言われるとやりたくなくなるわね」

「諦める?」

「……あなたは止めようとしてるのか行かせたいのか分からないけど、今回諦めるわ」

「今回は?」

「実績を作るチャンスはいくらでもあるからね。まあ困りごとがあるとすればお金が足りないことくらいだけど、そこも受けられる依頼を受けまくって稼ぐわ」

「そっか」

「うん」


 この道が正解はどうかは分からない。けれど今回の件は避けることが何よりも最善策だと考えていた。

 未だに解明できない魔力を保有している人が居る。それは個人なのか組織なのかも分からない。

 

 そんな所に飛び込んでいく必要はない。ましてや実績のために仲間を危険にさらすなんて以ての外だ。

 その程度の人がほとんど息をしていないホワイト家を再建させて当主として建てるとは思えない。

 

 私達は全員が合意の上で今回の件を見送ることに決めた……のだけどこの時の私達は知らなかった。

 結局まだ街の外へ出てはいけないという警報が出ているのにも関わらず街の外へ出ることになるなんてね。

 

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