第26話 冒険者
偶然一緒の部屋になった4人で冒険者になるためにギルドへやってきた。
大きくて硬そうな扉とギルドの天使の羽を模した紋章を象った看板を見つける。
ギルドの名前とかはなく、ただの【冒険者ギルド】と書いてある。
そんなギルドの扉へ近づこうとした時だった――
「うぉぉぉぉぉぉりあああああああああ!!どけどけどけ!!」
「何!?」
突然赤髪の少年が扉を開けた途端に飛び出してきた。
ギルドの扉を開けたその時、元気で若い冒険者の男子が外へ走っていく。
私たちの存在には気づいていなかったのかそのまま通りすぎて行った。
「なんだったんだ……あれ……?」
思わず素の自分が出てしまう。それ程に急なことに驚いてしまう。
困惑しているとフーリアがなぜか私の前を塞ぐ……というか隠すように前に出た。
「なにしてんの!さっきの勢いでスカートめくれてるわよ!!」
「え、はっ!?なんとっ!?」
そう言われれば普段以上に下の方がスースーしたような……。
……スカートを押さえる動作を忘れていた、うん……本当に最悪だ。
私はあえてゆっくりめくれたスカートを元に戻した。焦ると逆に恥ずかしかったので平気だよと回りにアピールする。
「あの子、あんな醜態を晒して平気なのか!?」
「いや、もしかしたらこういうのに慣れているのかもしれない!!」
「見ない顔ね。これは大物になるわよ!!」
……どうやら逆効果だったみたい。
慣れているわけがない。というか慣れなんてないだろ普通……。
もう訂正しても間に合わなさそうだったので最初の平気ですよアピールを貫くしかなかった。
「さ、さぁまずは冒険者のとーろくだね!い、いこー!!」
「平気そうな顔して顔真っ赤じゃない」
「は、早くいくよ!」
「はいはい」
フーリアはそれ以上なにも言わずに私についてくる。
それに続いてショナとユウリも後ろで笑っていたけど何も言わないでくれた。
冒険者として依頼を受けるには登録が必要だ。犯罪者が出たりとか依頼人のために個人情報を提供するのが主な目的という。
誰でもなれる冒険者という職業故に監視の目は厚い。ショナとユウリはもう既に冒険者としての登録を済ませていて手順を受付の人の代わりに教えてくれる。
そして受付嬢の人は必要な書類を持ってくる。それに書き記していく、氏名、住んでいる場所、身分、それから……。
「チーム名……?」
「はい、無ければ構いませんよ。といってもショナさんとユウリさんはチームを組んでいますよね?」
「そうなの?」
チームか……この前の特別授業でお世話になった女性冒険者チームにもあるのだろうか。
というか2人にはチーム名あったんだね……。
どんなチーム名なのか聞いてみる。
「ユウリ&ショナ……」
「そうだね。うん」
このままだと私とフーリアは2人のチームへ加入することになる。
つまりこのチーム名の欄にはユウリ&ショナと書かなければいけない。
うーん……なんか嫌だな。自分達の名前が入っていないしそもそも二人だし、何より芸人のようなチーム名は個人的にはあまり好かない。ここは好みが分かれるところだけど……、
横文字のかっこいいチーム名がいいなぁ。とか考えているとショナが慌てて訂正する。
「だ、大丈夫!チーム名は変えられるから!!メンバー増えればね……」
「そう?じゃあどうするの?」
「ん~ショナ&ユウリ&ルー……」
「却下で」
フーリアが即答する。
嫌なのはわかる。だけどどうして先に私の名前が呼ばれる時に割り込んでくるのか。最後まで言わせてもいいのに……。
まさか名前だけでも先に私が呼ばれるのが嫌なの!?年頃の女の子とは気難しいものだ。
フーリアは断っておいてチーム名の欄を指差す。
「それでここには何を書けばいいの?」
「……またあとで考えよう」
「それでもいいの?」
私が受付嬢の人に確認を取ると問題はないと言ってもらえた。
元々チームの名前はあまり重要じゃないみたいだ。ただ名のある冒険者はみんなチーム名がある。
「でもどうしてユウリが先なの?」
「……じゃんけんで負けたから」
「え……」
……まあ冒険者として生きていくかはわからないしとりあえずはこれでいいだろう。
これでようやく冒険者として依頼を受けられる!!私たちは受けられる依頼を探してそして街の外へ――!!
出ることはなく、私たちは迷子の子犬を探す依頼を受けた。
というかそれしか受けられなかった。
先日の騒ぎで街の外へ出る依頼は新人は受けられないらしい。
私達は街中を4人でバラバラに散り、効率よく探すことになる……まあつまるところ今私は1人だ。
「……チームでの初依頼がこれってまじか」
私は独り言を呟く。
子犬の見た目はありがちな茶色い毛並みで赤い首輪に赤いリードを垂らしている。
お散歩の途中で逃げてしまったのか。
子犬探し……街が広いだけに大変だ。ここは通りすがりの人に聞くのが無難だろう。
私は近くを通り掛かった人にリードを垂らして走り回っている茶色い子犬を見なかった聞いてみる事にした。
「あの……」
「ん?どうしたお嬢ちゃん。迷子か?」
「いや、あの……あぁ……」
そういえば知らない人とどう話せばいいんだっけ?
ま、まずは天気の話?……いや、そこから子犬に持っていくのは難しそうだ。
私はその場であたふたしていた。
いやここは思い切って――
「な、なんでもないです」
「え、でも……」
その場を後にした。たぶん迷子と心配しているんだろうその人に大丈夫ですよと手で制す。
意図を組んでくれたのかそれ以上私に話をかけてくることはなかった。
結局子犬はフーリアが見つけて、依頼は達成された。初依頼はなにも成せずに終わるという残念な結果に終わる。
私は魔物との壮絶な戦いの中、どうにか勝利して帰ってくることを予想していたんだけど……。
現実はそう甘くないみたいだ、まさか子犬すら捕まえられないとは……。
というかこの夏休みずっとこういう依頼しか受けられないことに一抹の不安を覚える今日この頃。
さらに言えばもらえるお金も少なく、フーリア達と外食が出きるほどに稼げるのにはまだまだ掛かりそうだ。
依頼を終えて解散したので宿へ戻るとアナが出迎えてくれる。
「おかえりなさいませお嬢様。おそらく帰ってくる頃だと思い、お食事の準備が出来ています」
「なんでわかるの!?」
冒険者の帰りは依頼によって時間がランダムだ。電話で連絡でも入れない限り分からないだろう。
しかしアナは応える。
「メイド学校に通っていたので」
「え、メイド学校すご」
あまりいい気分で初依頼を終えられな方けれど……なんだかこのいつものやり取りに安心する私だったのだ。
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