第25話 アルバイト

 

 ユウリのために早く終わらせるために炎の剣を抜き放つ!!

 

 相手は当然突然現れた怪しい男。


 素早く剣を放ったんだけど……簡単に避けられた。


「お前、馬鹿みたいに強い剣使えるのに弱すぎるな」

「なっ……!!」

「これならいつでも殺せるか」


 突然現れた怪しい男はそんな恐ろしい事を言い出す。

 私を殺す……?もしかして実家の義母が何か手を回して来た?


 いや……さすがにあんな人でもそこまではしない……よね。


 剣術でどこまでやれるか分からないけど……それでもどうにかしないと!!

 

「まあ今回はどうでもいい」

「え……?」

「お前が今後、俺達の邪魔をするのなら今すぐ消すが……その剣術なら一生、敵に鼻あり得ないからな」

「……」


 なんだかムカついてくるな。


 だけど剣術の腕が全く上達しないのは確かなので言い返せないで居ると怪しい男は笑みを浮かべてどこかへ消えてしまった。

 追っても良かったけど、ユウリに負担を掛けさせないためにやめておいた。


 既に魔物狩りで身体の脂肪を魔力に変換しすぎて細くて美しい身体になっていた。これ以上行くとやせ細ってしまう。

 

 その後、邪悪な魔力に侵食されて動かなくなってしまった冒険者を抱えて私達は帰路に付いた。ゴーレムの残骸は触ると女性冒険者のようになってしまうからそのまま置いてきた。

 

――

 その日は学生の私達は寮へ帰された。

 

 それから数ヶ月経ったけど何があったのかはまだ知らない。


 そして今日、私達の学校では夏休み前日で一学期最後の登校日だった。

 今日は夏休みによくある学長先生からの注意事項でなるべく街の外へ出ることなく、出る場合は複数人で行動することを伝えられる。

 

 他の学生たちは私達が襲われた事を知らされていないのでただの夏休みに羽目を外し過ぎないようにと言う警告に思っているかもしれない。

 だけど実際は怪しい男がまだ街の外に居て、学生も同じような邪悪な魔力に侵食されないための警告だ。

 

 特別授業で起きた事件の詳細を明かさないのは学生に余計な心配をさせないためなのか……。

 どちらにしても対処しなきゃいけないことだから冒険者ギルドと協力してあの怪しい男を捕まえようとしているのかもしれない。

 

 学長先生のありがたい話を聞き終えて学校は長期の休みに入った。

 

 学校終わりに私はアナと最初に泊まった宿屋へ向かう。

 寮は長期の休みで使えないので実家に帰ってもいいんだけど……さすがにあそこへ帰る気にはなれず、無理を言ってアナと狭い宿屋に泊まる。


「お嬢様はよくわかりませんね……。こんな狭いお部屋に住みたがるなんて……」

「いやまあ狭い部屋はなんだかんだ好きだけど……それ以上に……ね」

「やはり……屋敷は……。お茶を用意しますね」

「……お願い」


 特に飲みたい気分でもなかったけど気を紛らわせるためにお茶を入れてもらう。あの怪しい男が義母の差し金だったら暗殺されかねないし。

 他にはダインスレイブ師匠せんせいの所へ行っても良かったんだけど、未だに会えていないんだよね。


 なんなら話すら聞かない。

 

 夏休み中に居場所が分かればいいんだけど、この長期休みをどう使うか。

 王都は広いとはいえ夏休みの時間全てを使えば全部を探索できると思う。だけどずっと探検するわけにもいかないし……。

 

 そんなことを考えていると私達の泊る部屋の扉をノックする音が聞こえる。ノックした人は部屋に入ってくること無く、扉の外から声を届けてくれる。


「お客様、外でお待ちの方がおられます。フーリア様からです」

「わ、わかったわ!すぐに行きます……と、お伝えください」

「かしこまりました」


 狭い宿とはいえ一応私は貴族なのでそれなりの場所に泊まっている。だから宿の従業員も結構しっかりしている。

 まあそれでも王都では安い宿なんだけどね……。どうして私がそんな所に泊まっているのか……それは義母のせいだ。

 

 私に使う金は無いと義母が良い、さすがにそれは可哀そうだという事でこの宿のお金と毎月少額の仕送りが送られている。

 アナは淹れたお茶をテーブルにそっと置く。


「あっ……」

「大丈夫ですよ、行って来てください。これは私が飲むので」

「あ……向こうで食べてくる可能性もあるし……遅くなったらアナだけ先に食べてていいよ」

「その時はお先に食事をとらせていただきます」


 私は支度をしてウキウキで部屋を出た。何せフーリアが来てくれたのが嬉しかった。


 これはもうあれでしょ!夏休みに仲直りして残りの学校生活は楽しいモノになるんだきっと!!

 

 そんな浮かれた気持ちで宿を出るとそこには……。

 フーリア!とショナとユウリが居た……。あっフーリアと二人きりじゃないんだ……。

 

 急に仲直りのハードルが上がった。


「どうしたの?」

「ルーク!!……夏休みと言えば!バイトでしょ!!」

「急に何……?」


 既にお昼を過ぎるころ……さすがにこの時間にバイトはないと思うけど……。

 しかし、夏の長期休みのイメージとして無い事はない。

 

「この子の言ってるバイトは冒険者ギルドの依頼よ」

「え!?」


 そんな言葉足らずのショナの言葉に付け加えるようにユウリが教えてくれた。

 冒険者と言えば怪しいの魔力に侵食され女性冒険者が居るよね。

 できれば平和に過ごしたいから関わりたくないんだけど……。

 

 実家からくるお金は最低限で遊ぶお金はない。服を買ったり外食をしたりは難しい……。

 買い物に興味は無いけど、フーリアと遊ぶにはお金は必要だ。

 悩んでいるとそのフーリアが遅いと言わんばかりに声を掛けてくる。

 

「で、どうする?行くの?行かないの?」

「え……フーリアは行くの?」

「ええ、剣の鍛錬になるし私もお金をあまり貰えるわけじゃないから」

「あぁ~なるほど、お互い大変ね」

「はぁ、それは同意するわ」


 やっぱりフーリアも大変な思いをしているんだなと改めて感じる。


 そんなフーリアが頑張っているんだ!!

 

 それに一緒に依頼をこなすのなら一緒に居られる時間が多いはず、これなら仲直りするチャンスもあるんじゃないかな!!


「うん!行くよ!!」

「そう来なくちゃね!」


 私がそんなことを考えているとは知らず、ショナはとっても嬉しそうに歓迎してくれた。

 

「そういえば学生でも冒険者になれるんだ」

「うん!まあ冒険者は貴族の場合は家を継げない人ばかりだけどね」

「な、なるほど……」

 

 貴族でも世知辛い世の中なのね……。


「ま、まあやるからには頑張るよ」

「ルーク、あなたに冒険者ができるの?」

「フーリアはそんなに私が不安なの?」

「そ、そう言うわけじゃなくて……」

 

 あ、そっか一応フーリアは私が魔法を使えるのを知っていて隠しているのも知っている。

 全力で戦えるかどうか不安なのね!!

 

「大丈夫!それにフーリアが居るしね!!」

「ま、まあね」


 そんな私達の会話を聞いていたユウリは首を傾げる。

 

「……あなた達ってなんか嚙み合わないわよね?」

 

「「何が?」」

 

「……」

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