第24話 岩の魔人
特別授業で魔物を狩り続けているとすっかり空は紅色に染まっていた。時間はいつの間にか夕暮れ時、そろそろ今日の特別授業が終わる。
「君達!もう時間も遅いから帰って来なさい!」
「先生!」
街の方からエステリア学校の先生が走ってくる。
授業も終了か……普段とは違うモノだったけどなかなか楽しかった。自由に身体を動かすのは息抜きになる。
ただ、襲ってくる魔物1匹に対してそれぞれ別に戦っていた。できればフーリア達と一緒に狩りたかったな。
そんなフーリアはまだ少し緊張している様子、まだ警戒心が完全に抜けきっていない。多分魔物狩りの経験が無いからだろう。
一方でショナとユウリは先生の姿を見ると周りの警戒こそ怠らないもののリラックスしている。
2人は元々魔物を倒す経験があるのかもね。
ルームメイトたちの一面が見られるのも新鮮でいい。
そんなことを考えていると――背後から嫌な気配を感じる!!
剣士としての直感じゃない、魔力……それも邪悪なモノ……!!
私は何も考えずにふと振り返り剣を構える。私がすぐに臨戦態勢に入ったのには理由がある。
それは私の後ろにフーリアが居るから。
それなりに経験を積んでいるなら直感が働く人も居るんだろうけど、さっきも言った通りフーリアは経験が無い。
だからフーリアが襲われるという前提で動く。振り返ると少し離れた茂みが大きく揺れている。
不幸な事に夕日と対面の場所に居るせいか逆光で良く姿が見えない。
姿は分からないがこの魔力は放置していたらいけない気がした。私はフーリアの腕を掴んでこちら側に引き寄せる。
「ちょ!何!?」
「焔斬り!!」
周りのこと考えて力をある程度制御した当たれば火傷する程度の軽い炎がその邪悪な魔力にぶつかる。
周りの自然も炎の影響を受けて燃える。自然豊かな場所でこの剣を振るうのは少し危険か。
一応今まで手を抜いていたから火事を起こすことはなかった。
さすがにあの攻撃をくらえば……倒せると思ったんだけど、まだ邪悪な魔力を感じる。
目を凝らしてみると炎の中から岩の身体を持つ魔物が現れる。
コイツまさか……!!
「ゴーレムか!!」
授業終了の連絡をしに来た先生が叫ぶ。
「ゴーレム?」
「ええ、洞窟などに潜む魔物です。初心者の冒険者が相手できるものではない!!君達は離れて!!」
ゴーレム……名前は知らなかったけど、こいつとは以前戦ったことがある。と言っても子供の頃の話だけどね。
よく見ればあの時に戦ったゴーレムに似ている。
魔力をより鮮明に見極めることができるようになったせいかあの時には感じなかった魔力を感じる。
もしかしたら前のゴーレムにもこんな魔力があったのかもしれない。
「……またゴーレム?」
ここまで一緒に魔物狩りをしてくれた冒険者の1人がそんなことを呟く。
またってことは他にもこんなことがあったのか。
私は2年前に遭遇したんだけど……それとはまた違う……?
結構硬い魔物だし苦戦を強いられるかもしれない……そう思っていたんだけど。
その心配は杞憂だった。女性冒険者の4人があっさり片付ける、またって言っていたから一度戦ったことがあるんだろう、だからこそ処理も速かった。
「強さは同じだけど、なんだか不気味な気配を感じたわ」
「確かに……それにしてもルークちゃんは良く気づいたね」
「え……あー同じ感じで不気味な気配がしたので……」
気配を感じたと言えば誤魔化せる。
「……私は気づけなかった……」
「フーリア……?」
「……」
助けたフーリアは落ち込んでいた。
な、なんで!?まさか……これもダメな選択肢だったの?!
私はゴーレムに襲われた事よりも未だにフーリアとの関係改善ができていない恐怖に怯える。
冒険者の1人がゴーレムの残骸を拾おうとする。
なんでも不気味な気配を感じたから欠片でも持って帰って調べるつもりらしい。
これで一件落着かと思われたけど、そのゴーレムの残骸を冒険者の一人が拾った瞬間――その残骸は紫色の光を放ち始める。
「何これ!!ああああああぁぁぁぁ……」
ゴーレムの残骸を拾った冒険者の声が掠れていく。邪悪な魔力はゴーレムの残骸から冒険者の子へ移る。
魔力を感知してみると冒険者の身体に侵食しているのが分かる。
「助けないとっ!」
仲間の女性冒険者が邪悪な魔力に侵食された女性冒険者を助けに向かう。
素手で向かって行った冒険者が邪悪な魔力に侵食された冒険者の懐に入ろうとした時、侵食された方が奇声を上げる。
「キィィィィィエエエエェェェェエェェェ!!」
「うっ……!?」
耳が割れるような酷い声、おおよそ人の出す声じゃない。
このまま耳を塞いでいると剣を抜くこともできない。仕方なく私は魔力で自分の耳を覆う。
これだけで済むのならいいんだけど……。
耳を強く塞ぎながらショナが剣を抜いた私を見て驚く。
「よ、よく平気で居られるね!?」とおそらくそう訴えている。口の動きでしか分からないけどね。
ちなみに当然ながら魔導士であるユウリも同じことができるようで平気そうな顔をしている。ただやっぱり会話ができる程の大きな声は出せない。
長くうるさい奇声の中、私の背後からまた嫌な気配を感じる。
背後に何者かが回った。フーリアでも他の冒険者たちでもない。
それなら……!!
私は背後の敵を振り返らずに一瞬の内に身体を捻って剣で薙ぎ払う。
「ほぅ……」
私の背後に回っていた怪しい人はそんな不意打ちを避けた。
まだ怪しい魔力に侵食された女性冒険者の事も片が付いていないのに!!
せめて顔だけでも見たいんだけどフードを被っていて見えない。分かるのは黒いフードを被っていることだけ。
「何者?」
「……」
くっ、やっぱり声が聞こえていないか。
このまだ奇声が続いていて音が聞こえない……。
私は後ろを振り返る。そこにはいつもの大きな身体をしたユウリは居らず、お腹が細い美人のユウリが居た。
「サポートするよ」そんな口の動きを読み取る。
耳を魔力で覆っていたユウリは常に魔法を放出している状態だから魔体症のせいで痩せていた。
ユウリは身体の脂肪を魔力へ変換する特殊な身体を持っている。
脂肪と言っても人の身体の一部を使っているのでそれだけ強力な魔法と莫大な魔力を一瞬で放出できる。
だけどその弱点として長期戦はできない。
ユウリのためにも早く終わらせないと!
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