第23話 野外授業


 終わってみればあっさりした結末だった。ただやっぱり最強候補なだけあって私とユウリも実力的には自信があったけどフレイヤ相手だとどこか大きな壁を感じた。

 次の決勝よりも私はフーリアの事が気になって控室へ向かう。


 ずっと帰ってこないからヘコんでいるはず、そんな所へ親友である私が励ましてあげれば昔のように戻るかもしれない!!

 控室へ入るとすぐにフーリアを見つけた。

 

「フーリ……」

「帰ってっ!!」

「――ッ!!」


 突然の大きな声に驚いてしまった。

 それだけ悔しかったのか、そんな自分を見られたくないのか……こういう時どう声を掛ければいいのか分からない。

 

 フーリアの性格上、一人にしておくべきかもしれない。

 だけど1人にはしておけないよ!!

 

「あ……相手が悪かったんだよ……ショナは私よりも強いし」

「……」

「それにフーリアは準決勝まで言ったじゃない!」

「……」

「……」


 どうやら私の言葉はあまり意味がなかったようだ。

 友達として一人にしたくなかったという私のエゴでむしろ傷ついたかもしれない。

 

 まさか……失敗だった……?

 

 下心が無いと言えば嘘になる、そんな気持ちで軽はずみに来てしまった事に後悔する。

 と、とりあえずここから離れる――その時だった。

 

「結局……」

「え……?」


 控室を離れようとした時、フーリアの声が細い声で呟く。


「結局、ルークが勝ち上がろうと戦えなかった」

「そこ?ショナに……その……」

「それも悔しいけど、私が自分て戦うと言ったのにそれすら果たせなくて……あの女とすら戦えなかったし」

「フーリア……!!」


 私は魔法を使わない全力で戦った。

 だけどそれは果たして私の全力なのか……と聞かれればそうじゃない。

 それをしなかったのはある程度戦えばいいというどこか軽い理由だった。

 

 フーリアはこれだけ約束を守ろうとしてくれていたのに……。

 

 だけど隠さないといけない理由もある……。約束か自分の保身か……それは今の私には比べられないものだった。

 私はフーリアのそんな想いを考えられなかった。


「ごめんね。フーリア……負けちゃって……」

「……まったくだよ。次は勝つから……!!」

「わ、私は……」

「ルークは自分の思うように戦えばいいと思う。理由は分かってるし……」

「……」

「だけど、いつか見せてね。ルークの本気を……」


 負けて消沈しているフーリアに気を遣わせてしまったようだ。

 

 何が前世の記憶がある……だ!!


 こんな年端も行かない若い子に逆に慰められて……!

 

 私は果たせるかすら分からない約束をフーリアと結んだ。


「分かった。いつか本気で戦おうね」


――

 

 学校で個人の強さを図る試験は終わった。

 それと同時に自分がいかにフーリアのことを分かっていなかったのかも実感する。

 そんなの嫌われて当然だ。


 それに約束もロクに果たそうとしなかった。

 いつかまたこの子に認められたい……今の私にはそんな目標ができた。

 

 そんなことを考えていると次の特別授業の話が飛び込んでくる。


「次は特別な授業があります。内容は冒険者の方々と依頼をこなす……まあいわゆる野外授業です」


 先生のその言葉にクラス中がざわつく。

 それは無理もない、なぜならこの学校の生徒の大半が貴族だからだ。

 冒険者なんてものは泥臭い平民のやることだと思われている。


 私はむしろそういうのに興味あるからありがたいんだけどね。

 それにこの授業の内容は今の自分に合っていた。なぜなら――


「この授業はグループで行います。2~4人程度のグループを組んでください」


 グループ決め!!


 それは声をかけるのにとっても勇気のいるモノで前世でも友達を待っていることしか出来なかった苦い思い出がある。

 しかし今の私は違う!!


 このルエリア王国の貴族に生まれた私なら仲の良かったフーリアを誘うくらい余裕だった――


「フ……フフフフ、フーリア!良か――」


 隣に居るフーリアに声を掛けようとしたが何故かいつものように話しかけられなかった。

 なんだこれは……どうして私の口は動かないの!?


 そんな子芝居じみた事をしていると――

 

「ねえねえ!!どうせだし同部屋の4人で組もうよ!!というか大抵そんな感じだから組まなかったら一人になるけどねぇ~あははははは!」


 私の言葉を遮るようにショナが声を掛けてくる。彼女に悪気はなく、純粋な誘いだったんだろう。

 確かに嬉しい……嬉しいけど……なんだこのいたたまれなさは?

 

 自問自答しているとフーリアはいつもの4人で集まるとため息を付く。


「まあそれしかなさそうだし、いいわ」

「やったー!!」


 すごく不本意な返答だった。

 

 あれ?もしかしたらこれ……最悪私が誘ったら断られていたのでは?そんな不安を抱いてしまう。

 こういう誘う機会が無くたって仲良くなる方法なんていくらでもある!!はず……。

 

 特別授業と言っても冒険者の人が先生みたいな感じで魔物や依頼について教えてくれるだけだ。

 例えば魔物の生態だったり、授業で習わない冒険者の視点での魔物のことも教えて貰えるとか。

 

 これはこれでいい刺激にもなるし、なかなかいい授業だろう。そして午後からすぐに学校のグラウンドでそれぞれのグループを担当してくれる冒険者の人と会う。



 私たちを担当してくれている冒険者の人はとてもいい人たちだった。

 その冒険者のグループも4人で組んでいる。ちなみに全員女性だった。そんな4人組の冒険者グループを見つめるショナ。


「はい!質問です!!男性の人をチームに入れるとか考えたことは無いんですか?」

「ん~男性だけのチーム然りだけど異性が入るだけでそのチームは滅びるからやめた方がいいわ」

「マジですか」

「マジね。男女混合のチームなんて田舎から来た昔馴染みで近所の広場で遊んでいた子達が冒険者になって組むくらいよ。そういう子達はあんまり揉めないわね。むしろ友情が厚い」

「ほうほう……」


 一通り話を聞いた後、学校を出て街を出て付近の魔物と実戦をする。

 と言っても弱い魔物狩りだけどね。最初の方は冒険者の人達が魔物と戦ってそれを見るだけだった。

 

 だけど後半は私達にも戦う機会を与えてくれた。

 狼のような魔物が4匹……。それぞれ一匹ずつ対応しろと。

 後ろには冒険者の人達が付いている。安心して戦わせてもらう。

 

 力加減が分からないけどまあどうにかなるだろう。

 私は炎の剣を放つ――


「焔斬(ほむらぎ)り~!」


 炎の斬撃が一の字を描いて魔物に向かって行く。ちなみに結構手を抜いた。狼は素早いからジャンプするか横に避けるか。

 その隙を狙う……前世は反射神経に自信が無かったが、今は身体能力だけじゃなく反射神経もある、というか若い!!

 

 今の私ならやれるはずだ!!

 

 しかし狼の魔物は私の放った炎の斬撃に焼かれた。

 意外にも私の放った斬撃が速かったのか狼が遅かったのか……。

 そんな初めて……ではないか、子供頃にゴーレムの魔物を倒したことがある。


 狼の魔物を倒した私へ女性冒険者のリーダーが話しかけてくる。

 

「なかなか素晴らしい炎だったわ」

「あ、ありがとうございます……」

で戦うのは良いけど、後先を考えて力を温存することも大事よ?」

「え……」

「どうしたの?」

「あ、いえ……わかりました」


 あの炎の斬撃は本気でもなんでもなかったんだけど……むしろあれは避けられる前提だった。

 

 やっぱりこの剣って相当強い……?

 

 なんか珍しい聖剣みたいだし、手を抜いてもそれなりの威力が出るのは当然かもしれない。

 今後はもう少し抑えることにしよう。フーリアとの約束が無ければ本気を出す意味はない。

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