第20話 古の魔法

 2日目の実力試験が始まる。

 試験の最終日、1年生の人数があまり多くないからか2日目で最後だ。

 

 今日勝ち進めば最大で3回は戦う事になる。準々決勝、準決勝、決勝……とりあえず見据えているのは準々決勝までは勝って準決勝で負けようと思っている。

 というかフレイヤ相手に魔法を隠しながら戦うのは無理がある。

 

 だからもし戦っても剣術の鍛錬と思って挑むことにする。

 本来であれば勝ちたい所だけど相手がフレイヤなら話は別だ。

 最強の魔導師候補に負けても誰も文句は言わないだろう。

 

 だから少し苦戦して善戦したと思わせることが出来れば上々だ。

 そんなことを考えていると対戦相手のフレイヤが私の顔を覗き見る。


「もし当たっても手加減はしないでくださいね?」

「……え?」

「あなた、昨日の試合で余力を残していたでしょう?」

「そんなことは……結構ギリギ――」

「そうでしょうか?」

「……」


 何かを訴えかけているような鋭い瞳を向けられて内心困る。

 というかエルフの綺麗な女生徒だから吐息が聞こえる距離まで来られるとドキドキする。

 

 しかし昨日のフレイヤの戦い方を見るに彼女は実戦経験があるだろう。

 あえて敵の油断を誘い出して一撃で決めるなんて芸当は狙ってできるモノじゃない。昨日の彼女の戦いはそれを感じさせるものだった。

 

 そして準々決勝も苦戦することなく終えて準決勝へ突入する。

 その相手はまさかのフレイヤだった。


 マジかー。


 そんな気がしていたけど、まさか本当に来るなんて……フラグは立てるものじゃないわ。

 試合が決まると私とフレイヤは闘技場で迎い合う。ちなみに前半戦のフーリアとショナは準々決勝を難なく乗り越えて、この試合の後は2人が戦う。

 

 まあまずは自分の試合だよね……。

 

 相手は魔導士、使う魔法は光魔法で矢を飛ばしたり、レーザービームのようなものを放ってくる。

 魔導士相手なら距離を詰めるのがセオリーだけど近づきすぎるのも良くない。

 

 それは昨日の試合で知っている。

 じゃあどうするか、私の出した答えは……目くらましだ。

 勝つつもりはないけど……簡単に負けるつもりもない!!

 

 炎帝剣を地面に叩きつけると砂煙が宙を舞う。

 弓の攻撃しかり、光のレーザービームは狙いを正確にしないといけない。

 そして私は音もなくフレイヤの方まで近づいていく。

 

 砂煙の中でも私が迷わず進めるのは日頃暗がりの中に居たから。

 凄く余裕で進めるんだよね……誇るべきか悲しむべきか……。

 まさかの引きこもり生活がここで役に立つとは思いもしなかった。

 

 フレイヤのすぐ側までやってきた私は剣をフレイヤの胴体に向けて放つ。当然剣は翻して刃の無い部分を使う。

 剣がフレイヤの脇腹に触れると言う瞬間……昨日のフレイヤの戦いを思い出す。

 

 人はトドメを刺す瞬間、一番隙ができる――

 

 すると、剣が触れる瞬間、フレイヤは前へ飛んで避けた!?

 

 やっぱりこれは罠!?剣を振り切ると目の前には光の弓を携えたフレイヤの姿がある。

 だけどこっちだって油断していたわけじゃない。

 

 光の矢を剣で受け流す!!

 

 キンッキンッーー


 と甲高い音が鳴り響く。すると砂煙はちょうど晴れて闘技場の中がよく見えるようになってしまう。

 観客は私たちがまだ立っていることに沸いた。

 

 見ている側からすれば砂煙が舞っている間に終わるのは興ざめだろうけど……。

 

 これじゃあ、また砂煙を使っても攻撃がバレる。

 相手がどういう原理でそれを可能にしているか分からないけど、砂煙を使っても無意味ならむしろこっちが不利になる可能性がある。


 暗がりの中でも動けると言っても視界が悪いのに変わりはない。


「あの距離の攻撃を避けるんだ~」

「そっちこそ……どうして私の攻撃が分かったんですか?」

「あはは、知りたかったら……本気で来るんだね!!」


 フレイヤは大きく目を見開く。すると無数の魔法陣が空中に現れる……。


「私、弓は得意だけど別に弓を使わなくても矢を放てるんだ」


 いちいち光の弓を魔法で作る必要が無いのか!?


 避ける?打ち落とす?悩んだ末に私がとったのは……。

 

 両方だ!!

 

 私は避けられる弓矢を避けて、どうしても無理だと思った攻撃は剣で打ち落とした。しかし全部は無理だった。

 あくまで致命傷を避けただけで制服で隠れていない部分の肌には少し擦り傷が出来ていた。


「わぁーっ速い!!昨日の試合からパワー系かと思ったけど……まさに光速だね」


 光の速さで攻撃を飛ばしてくる人に光速と言われても皮肉でしかない。

 観客の歓声も充分だ。これはある程度善戦したという目印。


「じゃあ次は手加減無しで行くよっ!!」

「これは……」


 フレイヤが叫ぶ――すると地面が割れた。

 その割れた地面の間から植物の根が生えてくる。

 

 これは大自然の魔法!?


 ダインスレイブ師匠せんせいから聞いた事がある。

 古の魔法に地面を割るほどの大自然の魔法があると……フレイヤの扱う魔法は光魔法じゃなかったのか!!


「私の光魔法は大自然の魔法を応用したもの」

「自然から光……?光合成……?」

「こうごうせい……?なんかね植物は光をパワーに変えられるんだよ!魔導士でもそこまでの知識を持っている人は居ないのに……」


 何か嫌な雰囲気なので何も言わずに剣を構えて、宙を斬る!


 炎がまるで空間を斬ったように斬撃がその場に残る。


「舞えっ!!」


 そう叫ぶと宙を斬りそこに残った炎の斬撃が拡散する。

 そして地面から生えてくる木の根を燃やし尽くす。

 フレイヤは感心した様子で私の炎を見ている。


 焼かれた自然の魔法は気にしていないようだ。

 

「凄いー!私がどうして血薔薇って呼ばれているか知ってる?この魔法で倒した魔物の血で植物たちが染まるからよ」

「さらっとえぐい事してますね」

「いやいや、炎を拡散させるのもえぐいし、なにより剣士なのにまるで魔法を使っているみたいな戦い方……。不思議だねぇ~」

「……」


 これ以上はバレないようにするためにも早々に片を付けるしかないだろう。

 私は次の攻撃で決める事を決意する。

 

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