第19話 フレイヤ=ブラッドローズ
実家の義母から送られてきた刺客はあっさり倒した。
まさか実家から送られてくるのが仕送りや段ボール一杯に入ったみかんではなく、義母の息の掛かった生徒だとは思わなかった。
今後もこういう事があると考えると憂鬱だ。
「お疲れ!いやぁなかなかの剣だね」
「ありがとう……ショナ!私も自分には勿体ないくらいの最高の剣だと思う」
「いや、そう言う事を言いたいんじゃないんだけどね?それに……」
「それに?」
「その剣はルークに使ってもらって喜んでるよきっと!」
「剣が?そんなこと分かるの?」
「まあね……逆に嫌な主人には従わないのが聖剣や魔剣と言った特別な剣だし……」
「……」
ショナは少し悲し気な表情でそんなことを言う。
剣が喜ぶとかよく分からないけど……そうだったらいいな。
この刀はずっと私の手元にあり、肌身離さず持ち歩いている。ダインスレイブ
そんな刀に使って喜んでもらえていると思うとちょっと嬉しいかもね。
「喜んでもらえているといいね」
「うん、そうだよ!その剣をもっと活躍させるためにもこの戦いで勝ち進もうーっ!ということで見るよ。何せ次は――」
ショナが言う前に次の試合の組み合わせが発表される。
「次は今年度の1年の中でも最も魔法に長けた生徒!フレイヤ=ブラッドローズ!!」
その名前を聞いて闘技場が湧く。もう一人の対戦相手の名前も呼ばれていたはずだけど、その止まない怒号のせいで何も聞こえない。
フレイヤがここまで人気なのはその強さ以上に美貌だろう。
長い金色の髪、緑の瞳に豊満な胸。全体的にスラっとしていて服装も軽く、色々と見えそう……。
魔導士よりも森の狩人みたいな雰囲気で弓を使う姿が想像できる……というか耳が長いから多分エルフ族だ。
だけど彼女は魔導士、弓は使わない。そこで気になるのがなぜそんなにも軽装なのか。
軽装だからこそ肌も見えていてそれがより観客の目を引く。
魔導士は打たれ弱いからある程度は武装する。騎士の様にガチガチな鎧じゃなくても今は学校の制服を着ることが多い。
制服には魔力を通すと多少防御力が上がる。
フレイヤの着ている服は制服じゃない。おそらく家から持ってきた物だろう。
相手は気弱そうな貴族の女生徒。闘技場の圧にビビっている様子……少し可哀そう。服装は学校の剣士の制服。
剣士は魔力が無いから魔力を通せる制服は意味がない。
だから服の内側に鉄板が入っていて多少重くなるけど結構頑丈だったりする。
そんな女生徒とフレイヤが構えた事で試合が始まる。
最初に仕掛けたのはフレイヤ。彼女は右手を掲げる。
「自然を照らす光よ!」
フレイヤが唱えると光がフレイヤの右手に集まって放たれる。
女生徒はそれを避ける。決して早くはない魔法だけど本人の表情からあまり本気を出していない様子が伺える。
そんな姿を見た女生徒は気弱そうに見えていたのにやる気に満ちた表情を見せる。
手加減されたのが気に食わなかったのかもしれない。気弱そうな生徒だけど貴族は皆、プライドが高ったりする。
女生徒は剣を掲げて一直線に突っ込んでいく。そんなんじゃ攻撃を当ててくれと言っているようなものだ。
フレイヤは構わず光を放つ。
しかし、魔法は女生徒に当たらなかった。また女生徒は避けた。
フレイヤは光を放つ。
だけどまた女生徒は避ける。
光魔法を飛ばしての攻撃は距離があれば、避ける事もできる。しかし、女生徒は徐々に近づきながらも避けている。
ただ少し気弱なだけで本来は闘争心の高い子のなのかも……実力もあるみたい。
フレイヤは焦った様子で魔法を連射するが女生徒に当たらない。
そして――女生徒がフレイヤの目の前にまで来た。
「これで終わり―っ!!」
「……」
と女生徒が剣を振り下ろした時だった。
ゴンッ――
と鈍い音が響く。
フレイヤは剣が当たる寸前で避けた。結構ギリギリであんな動きは身軽でかつ、高い身体能力と反射神経が無いとできない。
魔導士とは思えない高い身体能力と反射神経……。自然に生きるエルフだからだろうか。
そしてフレイヤは焦った様子を一切見せなくなり、さっきのが演技だと分かる。
フレイヤはすぐに魔法の準備をして、それに気づいた女生徒は魔法を避けるために全神経を張る。
フレイヤは右手の光を収束させてそれを――弓の形に変えた。
そして今まで使っていなかった左手を魔法の光の弓の弦まで持っていく。弓を射るように光の矢を放つ。
これは先程の単純な光の魔法とは違い、速度が尋常じゃなかった。
フレイヤは軽く射っている……凄くスピードだけどね……。
戦いの中で人が一番油断するのはとどめを差すときと聞いたことがある。その状況を作り出し、大降りに剣を振った女生徒の隙を付いたという事か。
圧倒的な速度の弓を受けて女生徒は回避できなかった。
鉄板の入った制服は破けて女生徒の肌が少し見えてしまっている。
「あっ……ちょっとやりすぎたかな」
「勝者、フレイヤ=ブラッドローズ!!」
その言葉と共に歓声が沸く。
さすがに一年生最強の魔導士候補だけある……まだ本気の一端すら見せていない様子だった。
あの弓を受けて私は防げるだろうか?いやあの速度で目と鼻の先の距離でも刀で受け止めきれると思う。
だけど重要なのはまだ本気を出していないということ。本気でやった時、あの距離の魔法を受け止めきれるかは分からない。
まだ当たると決まったわけじゃないけど、フレイヤに負けて退場するのなら……まあいいんじゃないかな。
そんな自分でも中途半端な覚悟を決めて明日の試験に備える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます