第18話 実家からの刺客

 ユウリの珍しい魔法が見られて少し満足してしまったけど次は私の番だ。

 相手は……あんまり聞いたことがない名前……貴族の多い学校にしては珍しい。

 まあ私は世間の有名な魔導士や剣士を知らないんだけどね。

 

 ずっと家に居た弊害がここで出てくる。

 

 テレビとかあれば多少世間の知恵を得られたのに!!

 

 なんて考えながら闘技場の広場に立つ。

 目の前に現れたのはなんだか嫌な感じの男子生徒だった。勘違いじゃなければ私の事をニヤニヤ笑いながら見ている。


「よぉルーク!!」


 突然、そんなことを言われて内心凄く焦る……。

 だけど私はこんな人相の悪い人は知らない。

 

「……私、あなたと知り合いでしたか?」

「こっちが一方的に知っているだけだな」


 え……もしかしてストーカー?

 

 私の中身の感性はまだ転生する前のモノと一緒だから男の視線とかマジで嫌なんだけど……。

 ただ何となくだけどそういう目で私の事を見ているようには思えない。

 

 何というか……野心のようなモノを抱いてこの闘技場の場に立っているような……。


「俺はバレンタイン婦人に依頼されたのさ!お前に恥をかかせろとな」

「……は?」

「婦人はお前がこの学校に入学したことが気に入らないらしくてな?俺の親は婦人と仲が良いんだよ。たまたま俺がこの学校に入学していると知って依頼してきたのさ」


 あのクソ婆ーッ!!

 

 私が試験を受けるまでこの学校へ入学することをあの義母は知らなかったはず。この男子生徒がエステリア学校に居たのは恐らく偶然だろう何という不運……。

 そしてあの義母にとっては幸運……。

 

 あの人は手の届かない所でも私の妨害がしたいみたい。

 私がバレンタインにふさわしくなければ家督は義母の実子が継ぐことになる。それを狙っているんだろう。


「だからお前はここで終わる。お前の剣は知っている。炎の剣?聞いた話では刀とかいう武器で剣術は素人に毛が生えた程度だというのもな!!」


 個人情報というのはこの世界はどうなっているんだ?

 

 って機械も無いこんな時代にそんなこと言っても無駄か。

 私はそれ以上、男子生徒と話はしなかった。

 そして審判の試合開始と言う合図と共に男子生徒は魔法を撃ってくる。

 

 遠距離からの水魔法か……。


 この戦い方は私にとって弱点になる……。間合いに入れなければ剣が届かないし、炎を飛ばしても水でかき消される。

 本来なら成す術がない。

 

 けど……!!


「炎帝……」

「無駄だ!!《水の壁ウォーターベール》!!」

「……」

「炎は水の中じゃ燃えることはできない!!その攻撃を防いだ後、ずぶ濡れにしてあられもない姿にしてやる!!」


 凄く気持ち悪いこと言ってない?


 水を被れば確かに色々透けるかもしれない……気を付けないと……。

 私の精神がか弱い女の子ならあまりの気持ち悪さに泣いている。

 

 魔法で遠くからさらに水と言う相性の悪い相手だけど魔導士には弱点がある。

 この世界の性質上、魔導騎士エーテルナイトしか魔法と剣を扱えない……。剣士は魔法を使えないけど、魔導士の身体能力は極端に低い。

 

 この水さえ消してしまえば距離を詰めて剣士としての身体能力が勝つ!

 

 そして水を消す方法はいくつかあり、今の剣士としての私にできる手段は1つか。

 

 大量の水でも蒸発させてしまえばいい!!


「包み込め炎帝剣ッ!!」


 刀から炎の斬撃が吹き荒れ薄い水の膜と衝突する。

 炎と水はぶつかり合いジュウ――ッと音を立てる。

 だけど炎は相手に届かない。


 それでいい……私の目的は水を消すことなんだから。

 炎を操って水の壁を覆うイメージを頭に浮かべる。


「クククッ……炎じゃ水には勝てないんだぞ~?」

「……そう、なら試してみるといい」


 剣に宿る精霊……その力を借りる!!


「なっどうして炎が消えずに水が消えて……!!」

「水はある程度高い温度まで熱されると蒸発して気体になる小学生の時、習わなかった?」


 まあ……この世界では小学校にすら通ったことのない私が言う。

 この世界で理科なんて習わないか……。炎は徐々に男子生徒の周りを包み込む。


「クソ……聞いてた情報と違う!剣術は素人に毛が生えた程度なのにお前……剣術も何も使ってねーじゃねえか!!」

「……」

「どちらかというとこれは魔――」


 それ以上は言わせないように炎の出力を上げて相手を黙らせる。

 少し派手にやってしまったけどこれくらいなら許容範囲内だ。

 多少痛い目を見てもらった方が面倒な気を起こそうと考えなくなるだろう。

 

 それよりもやっぱり私のこの戦い方は魔法使いに見えるのね。

 試合は男子生徒を炎で包んで中で酸欠にして気絶させた。

 炎の中から気絶した男子生徒が見えると審判は試合終了の宣言をする。

 

 控室へ戻るとフレイヤが私に向かって拍手をしてきた。


「良いね。やっぱり強い」

「ありがとうございます」

「私が勝ち残ったら是非お手合わせ願います」

「……お手柔らかにお願いします」


 美しい長い耳を持ったフレイヤに称賛してもらったのは嬉しいけど、素直には喜べない。

 目を付けられると目立つから……。

 

 しかし当たった場合の事を考えてフレイヤの試合が始まるからそれを見ないとね。

 今年度1年生の最強候補の魔導士の実力はいかに、観客席へ戻ってじっくり見させてもらおう!

 

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