第17話 魔法の身体


 午前の試合はあっさり終わった。名門の学校にしてはレベルの差がある戦いばかりだった。

 貴族が多いからね……お金で名門に入れてもらっている家もあるんだろう。


 午後は私、そしてユウリの試合がある。ユウリとは今の所、戦うか分からない。

 2人とも勝ち進まないと当たることはないから、程よく戦ったら負けるつもりでいる。


 しかし、剣だけを使うなら普通に負けることだってあり得る。何故なら実際午前中の試合では恐ろしく強い生徒がいた。


「クレスト王子……か」

「あっ!その人、強いよね。この国の王子様だっけ?」

「ショナは外国出身なのに詳しいね」

「入学する国のことくらい調べるよー」


 クレストはおそらくフーリアよりも強い。

 残念だけど彼の持つ聖剣は私と同じ属性の炎で一件風の力を使える剣を持つフーリアが有利だけど、性能の差で負けている。


「強さで言えば、魔道士でも一人居るよ」

「へぇ……ほんとに詳しいね」

「まあね、調べてるから」


 ユウリとそんな話をしていると今日の試合を終えたショナとフーリアが観客席へやってきた。

 2人とも一切疲れて居ない、それだけ楽な戦いだったという事か。


「あら?ユウリとルークっていつの間に仲良くなったの?」


 ショナにそう言われて見ると若干距離感は近くなったような気がする。

 常に隣でご飯を貪っている音が聞こえるのにむしろ最初の頃より物理的にも心の距離も近くなっている。


 ただそんな様子にあまりよく思っていないのか何故か私の方を睨んでいるフーリアが見える……。

 他の子と仲良くする分には何も思われないはず……どうしてあんな怖い目で睨んでくるんだろう。


 フーリアだってショナと仲良くなっている癖に……。


 私は初めてフーリアに怒りを感じた。

 それはそうだ、自分は良くて相手はダメなんて理不尽な事を許せるはずもない。


 そんな私とフーリアの様子に気づいていないユウリは話を進めた。


「それでね、魔導士の人で強いのはフレイヤ=ブラッドローズさん彼女は血薔薇(ちばら)の魔女と呼ばれているらしいね」

「なかなか物騒な2つ名ね」

「植物の魔法を使うらしいけど、植物の魔法に血が付くことからそう言われているらしい」


 できればそんな人と戦うのは避けたい所ね。


 いや……待てよ?

 そんなこともないのかな?血薔薇なんて2つ名の魔女と戦って負けても実家に何も言われないよね。


 流石のフーリアも血薔薇に負けたのなら仕方ないって言うんじゃないかな!


「勝ちなさい」

「え……?」

「勝ち上がって私と勝負よルーク。決勝で叩き潰すから」

「……」


 フーリアはそれだけ言うと弁当箱に手を伸ばして、丁寧に食べ始める。まるで私とはこれ以上話すつもりはないと言いたげだ。


 私はその場で固まっていたと思う。

 ここまで嫌われているともういっそ清々しい。


「あらら~フーリアは独占欲強いのね」

「絶対そんなんじゃないでしょ」


 ユウリと試合の控室へ行くために移動する。その際に冗談めいた感じで苦笑いしながらそんなことを言われた。


 私はフーリアに確実に嫌われている……そんな悲しい気持ちの中、試合に挑まなきゃいけないの……か。


 午後の最初の試合はユウリだった。


 控え室からでも戦いの様子を見ることが出来るのでユウリの戦いぶりを観察する。

 すると早速、ユウリの対戦相手の男子生徒がユウリの体型を見て笑う。


「なんだお前、これだから魔導士は運動しないと太るんだぞ?」

「……誰が太ってるの?」

「あ?デブは鏡見ないのか?お前だよ」

「目が節穴なのは可哀想……」

「んだとてめぇ!!」

「私の"本当の姿"見せてあげる!!」


 戦いのゴングがなると男子生徒は剣を鞘から抜き放ち、ユウリへ向かって突進していく。

 猪突猛進というか相手を甘くみているのが分かる。


 ユウリは目を閉じてその場で立ち止まる。

 私は魔法を使えるから少し分かるんだけど……魔力を溜めている。


 ただ妙なのが半端じゃないスピードで魔力が溢れている。

 男子生徒はユウリに剣が届く距離まで近づき。


「その腹の無駄な肉を削いでやるよ!!」


 と、ナチュラルにえぐいことを言い放つと剣を横に薙ぎ払う。

 ユウリのお腹目掛けて……しかし――


 カキンッ――


 ユウリのお腹は剣を受け止めた……。


「こんなもの?」

「は?俺の剣の刃が通らねぇ!?」

「反射魔法……ロックカウンター!!」


 ユウリが魔法を唱える。


 するとお腹が魔力の光を帯びて男子生徒を弾き飛ばす。

 それと同時に人の頭程のサイズの岩が男子生徒を追撃する。


 あの男子生徒の剣と同じかそれ以上の力で岩と男子生徒を弾いた。

 男子生徒はその場で倒れ薄れ行く意識の中、言葉を放つ。


「お前……剣の刃が通らねぇなんてどんな腹して……え?どうなってるんだお前!!!!!!」

「どんなお腹って……これだけど?」


 男子生徒が驚いたのも無理もない。ユウリは魔法を使った後、とてつもなく痩せていた。

 もちろんガリガリという訳じゃない。


 程よくお肉が付いたくらい、その表現が正しかな。


 ユウリは先程と比べればスリムで美しい身体とぽっちゃりしたほっぺからすらっとしたほっぺに変わり全体的に美しくなっていた。


 痩せたら美人なのは見て分かっていたけれどまさかここまでとは……。

 太っていた時の大きな胸はちゃんと形が分かるようになり、男性の目を引く。


 身体こそ大人びているが顔は童顔でさらにそれが男性の心を掴んでいるようだった。


「ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「私、魔法を使うと痩せるの。だからいっぱい食べるのよ今日は一試合しかないからあまり食べなかったけど」


 と彼女は言っているけど朝から今に至るまでずっと食べていたような気がする。

 魔法を使うことでエネルギーを使い、痩せる……。


 肉体と魔力が繋がっている……?


「魔体症(またいしょう)……?」


 魔導士の身体の内側にある魔力を入れておく器があり、その中の魔力を使う。

 それが魔法なんだけどごく稀に肉体を消費することで魔法を使うことが出来る特殊な体質の人が居るって聞いたことがある。


 魔力は体力さえ回復させれば同時に回復する。ユウリの魔体症はご飯を食べることで肉体と同時に回復する。

 それはどれだけ深い重症でも肉体と同時に魔力も回復するという本当に異質な体質。


 消費するのは肉体だからお腹が空けば魔法を使えなくなるというデメリットがあるけど、魔力回復スピードは他よりも早い。

 

 身体も傷ついても食べれば回復する。


「よく知ってるね魔導士のこと」

「え、あ、あなたは……血……ブラッドローズさん……」


 小さく魔体症と呟いたんだけどフレイヤに聞かれていた。

 ユウリが言うには相当強い魔導士って話だけど……。


「フレイヤでいいわよ。バレンタインさん」

「わ、私も下の名前でーー」

「ルークさんですか……剣士の片にそんな名前の人が居た気がしますが」

「そうですね……」

「剣士なのに魔導士の事も知っているとは博識ですね。ルークさん勝ち上がったら戦う機会があるでしょう。その時はよろしく」

「は、はい……」


 魔導士について詳しいというのはあまりバレたくない。

 魔体症も魔導士にしか関係ないから剣士で知る人は少ない。


 魔法に詳しい事はバレると私が魔法を使えると思われるかもしれない。

 さて、そろそろ私の試合も近い……!


 まずは一勝しよう!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る