第16話 風の剣、雷の剣
闘技場に到着すると入り口に一回戦の対戦相手、生徒の名前が書かれた表がまず目に入る。
当然、気になる対戦相手を見るために人が押し寄せている……わけでもなく、その表はあちらこちらに貼られているので人で見えないのなら別の表を見ればいい。
だから私達は空いている表を見つけてじっくりと見る。
何せ40人居るから目を凝らして探さないと分からない。
全部で20試合あるはずだから運営側は大変そうだ。
私の対戦相手は知らない名前の子だった。
とりあえずフーリアじゃなかったことに安堵する。
あとはすぐにフーリアと当たる可能性だけが気になる所だ。
フーリアと当たる前に負けるのが今の私にできる最善の策だと考えている。
だけどある程度は勝たないと亡くなった母の想いを踏みにじる事にもなるので、できれば沢山勝ち進めるくらい離れているとありがたい。
そんな中、先に闘技場へ向かったはずのフーリアと同じ場所で合流した。表を見上げるフーリアの表情は険しいモノだった。
おそらく私と最初に戦いたかったんだろう。
これは私にとっては好都合だ。フーリアは不服そうだけどね。
「私も最初は知らない人とか……フーリア!もし当たっても手加減しないからね!」
「こちらこそ、手加減はしません」
ショナとフーリアの2人はお互い見合いながら闘志を燃やしている。
私とフーリアもこれくらいの関係なら良かったのに……異常に私にだけ冷たい。
ちょっと寂しいなぁ。
というか部屋でもそうなんだけどこの一ヶ月で分かったことがあるそれは冷たい雰囲気を漂わせていながらもフーリアとショナは仲が良い。
フーリアこそ憎まれ口調なもののそれを嫌がらずに程よい距離間で接しているショナに心を許しつつある感じみたい。
「私は何となくルークと当たる気がする……お手柔らかにお願いします」
「え……あ、うん。あたったらね?」
私とユウリは仲が良いわけでも悪いわけでもない。ただお互いにコミュニケーションが苦手なせいでぎこちない関係になっている。
でもこういうのは同部屋ならいずれ仲良くなると思うから私達のペースでいいと思っている。
ユウリの実力はまだ分かっていないけどショナが相当な剣の実力者だから彼女もまたそれに通ずる強さを持っていると考えて戦いを挑む必要がある。
まあしかしそれはお互いに勝ちあがったらの話だけど……。
それぞれの想いを胸にまだ私とユウリの試合は後なので観客席へ2人で向かった。フーリアとショナは案外すぐに試合があるので控室へ向かっている。
私とユウリはコミュニケーションが取れないながらも隣の席を取って一緒に戦いを観戦する。
「今日の授業は最高だね」
「ど、どうして?」
「こうして早飯しても怒られないから」
そう言ってユウリは弁当を広げてご飯を食べ始める。
ちなみに闘技場前でユウリと合流したんだけどその時も何か食べていた。
お腹は大きいけどよくそんなに入るなぁ……。
闘技場の戦い……というか試験は1試合が長かったり短かったりとさまざま。
ある組は均等な強さで試合が長引き、またある組は圧倒的な力の差があり一瞬で勝負がつく。
フーリアの試合は後者だった。
フーリアの剣は風の様に早く、相手が疾風の剣技についていけず、試合開始と同時に勝負がついた。
フーリアの剣術は速度がある。何度も戦っているから分かる、そのスピードを捉えるのには苦労する。
ただ、パワーがあまりないから決められる所で決まらずに隙が生じて私が勝つ。
そんなことを何度も繰り返していた。
本来の実力を発揮できる剣じゃないからね。ホワイトの宝剣を持てばフーリアに勝てる剣士はそう居ないだろう。
「へぇ~フーリア強いね」
「ユウリはフーリアの戦いを見たこと無いんだっけ?」
「私だけ魔導士だしね」
「そうだね」
「……」
「ど、どうしたの?」
ユウリは私の方をじっと見つめてくる。
何かを訴えかけているようなそんな視線だった。
「バレンタインって魔導士の家系だよね?どうして剣術を?」
「初めて剣を持った時に魔剣や聖剣は持ち主によって姿を変えるでしょ?その時にこの刀……剣の形になったから珍しくて才能があると思われたみたい」
「……普通、魔導士の家系に剣はない」
「家にあったのを私が触ったって言ってたよ?」
「……魔法は使えないの?」
「……使えないよ」
「ふーん、バレンタインの魔法見たかったけどそれならしかたないね」
「ごめんね……」
嘘を付くのは罪悪感があるけど
どうして私が魔法と剣を両方使えるのかその理由は分かっていない。
一応言っておくけど、別に魔導士が剣を扱えないわけじゃない。
姿を変えない無名の剣や最近作られたアーティファクトなら誰でも扱えると聞いたことがある。ただ魔導士は身体能力が低いし、魔法を覚えるのに大抵の時間を使うから鍛えることもできない。
だから扱えてもまともに戦えない。剣士の場合はそもそも魔力が無いので魔法は使えない。
私は魔導士の家系で剣にも選ばれてしまったから使えるだけでそれは本来なら
あれは神のごとし一族と言われているから多分ただの貴族の私が使えてしまうと異端者だと言われて裁かれる可能性がある……。
実に厄介な事だ。
私がその両方を使えるのを知っているのは私に魔法と剣術を教えてくれた|ダインスレイブ
義母どころか父も知らない。
「ま、両方使えたら問題だもんね。使えなくて良かったよ」
「そ、そうだね」
これを隠して生きていくの結構辛いなぁ。
そんなことを考えながら試合を観ていると次はショナの番だ。
ショナの剣は雷の聖剣でフーリアと同等がそれ以上のスピードを見せつける。
対戦相手はそこまで強くなく、フーリア以上のスピードで試合は終わった。
「ショナも相当強いね」
「うん!自慢の友達」
「いいねそういう関係……」
昔の私はこの二人と同じような関係だった。……フーリアとそんな関係で居られたら良かったのに……と考えてしまった。
「まあ知り合って一年くらいしか経ってないけどね」
「……そうなんだ」
遥かに私よりも短いはずなのに……私とフーリアは物心ついた時から9歳まではずっと一緒だったのに!!
そんなことを考えながら試合をぼーっと観ていた。
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