第21話 ライバル
流石に一年最強の魔導士と言われるだけはある……まだまだ手の内は明かしていないだろう……。
見せている手札だけでも十分に厄介な相手。
これ以上詮索されないためにここで片を付ける。
剣を構えて攻撃の姿勢を取るとフレイヤはそれに気づいて魔法の準備をする。
光魔法かと思ったらまた植物の魔法で巨大な薔薇とそのトゲトゲのツルを地面から生やしてそれを操る。
植物ならやっぱり炎で焼いてみるか。
剣がツルに触れるとあっさり燃えて灰に……。
「ならない!?」
ツルは燃えているものの切れることなく、そして燃え尽きることもなく身体に巻き付いてくる。
ジュッと焼ける音がする。ツルが焼ける音と炎を纏ったツルが巻き付いてきた。
私の身体に触れてまずは右腕に絡まる。おそらく徐々に体へ侵食してくる。
「くっ……」
「炎の剣士なら多少、火に耐性があるんだろうけど……これはきついみたいだね」
「このっ!」
掴まった右手に持っていた剣を投げてまだ自由な左手で受け取る。
そしてツルを切る。ツルは切断すると魔法のツルは自由が利かないのか力無く崩れ落ちる。
地面から生えているから、切断されたり離れたりすると魔法の干渉ができないみたいだ。
「それならっ!!」
私は剣に炎を纏わせずにただの斬撃を地面スレスレに放つ。全ての木のツルは地面から離れて力無く崩れ落ちる。
「え!そんなこともできるんだ!!炎だけじゃないという事ね」
「……これで!」
私は剣を腰の側に添える。鞘が無いけど抜刀の構えを取る。
目を瞑って集中する。
その様子を見たフレイヤは何かを察知したのか再び構え直す。
「何か面白い事をする予感!じゃあ私もっ!!」
そう呟いた直後、フレイヤの魔力の質が変わった。まるで今まで手を抜いていたかのような変化だ。
どうやらフレイヤの本気を見られるようだ。じゃあ私も
「ローズ……」
「抜刀……」
2人の間の緊張が走る。集中しすぎて周りの音も聞こえない。
もう何も考える必要はない、何故なら
「ウェーブ!!」
「
炎の纏った細い剣と大樹の太い木の根が何本も波の様にうねりながらぶつかる。
体積は向こうが圧倒的に上、だけど!!
剣を少しでも前へ動かせればこの攻撃を切り伏せられる。そんな予感がしていた。
後少し、後少し……。
「後……少しぃぃぃぃ!!」
「なっ!?」
「はああああああぁぁぁぁ!!」
剣は先へ進んだ――
炎を纏った剣は大樹を割り、一瞬で焼き尽くした。
魔力を通すことのできなくなった大樹は焼き消える。魔法で作り出しているからそのエネルギーの供給が絶たれればスッと無くなる。
だけど大樹の体積があまりに大きすぎた……全力でやったけどフレイヤまで届かない。
お互いの全力の攻撃は相殺された。
しかしフレイヤはまだ魔力に余裕がある。
「はあ……はあ……あ、危なかった……さぁ!次は一体どんな手を!?」
「……」
私は剣を納めて手を上げた。
「降参です」
「え……?なんで……」
「剣の力が空になりました。もう戦えないんです」
「は?……だってあなた……」
フレイヤが何か言いかけたが私の降参の合図にジャッジが反応する。
勝者はフレイヤに決まった。
魔法無しの全力の剣士としての戦いは負けた。
剣士として才能がないと言われた割には充分やった方だと思う……一応やり切った感はある、フレイヤは何か不服そうだけど。
控え室に戻るとフーリアが駆け寄ってくる。
負けた幼馴染みを慰めるために近づいてきた訳――じゃないよね。
そんな次の瞬間――
ペシーンッ!!
と甲高い音が控え室に響き渡る。
二日目の試合だけあって勝ち残った人しかいない。そのため人数は少ないものの多数の人の目を集めてしまい気まずかった。
しかし叩くだけ叩いてその場で立ち止まり、何も言ってくれない。罵倒されるのを覚悟していたんだけど……。
と、とりあえずどうにかこの空気を絶ちきらないと……。
「フーリ――」
「どうして手を抜いたの?」
「え……」
私が口を開いた瞬間にまるでわざと被せたかのように質問してくる。
なるほど……どうやら手を抜いたから怒っているとのこと、確かに本気ではなかったがそれは魔法を使う場合であって剣士としての全力は出しきった。
剣士としてはフレイヤに完敗だった。それどころか魔法有りでも苦戦を強いられただろう。
さて、私はこの場合どう反応すればいいのか。
なるべく怒らせたくないんだけど、何を言ってもダメな気がする。
どうしたものかと考えているとフレイヤが控え室へ入ってきた。
「どうしたの?」
「……」
フーリアはなぜかフレイヤを見るなり私のことは放っておいてズカズカと近づいていく。
あれ?私じゃなくてフレイヤ?な、何をする気なんだろう?
「ルーク相手に勝てたからっていい気にならないでくださいね」
「いい気……にはなってない。むしろ……」
フレイヤは私の方を見てくる。彼女もまた怒り見せている。
「むしろ」の続きは是非とも聞きたくなかった。
「まあいいわ。フレイヤあなたは私が切り伏せます」
「……へぇ、それは面白そう。じゃあ私もこの怒りをあなたに向けようかな。上がって来てね」
「望むところよ!!」
二人はなぜか決勝で戦うことを望んでいるようだった。
2人とも目から火柱がパチパチと音を立てて睨み合っている感じで怖い……。
そんなことを考えているとは知らないだろうフーリアとフレイヤは私の方を見て一言――
「見せなさいよルーク!!」
「ルーク、私も見ていてあなたが本気を出せる相手だと証明します」
「え……えぇ……」
これが自分が男ならハーレム状態に見えるのだろうか?
もはやもうそんな感覚も忘れてしまったな。
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