第10話 壮大な予感

 

 試験が終わった者はすぐに学校から出るように促される。試験を受ける子が多いから終わったら場所を開けろという。


 なので私は学校の正門に戻る。するとメイドのアナが馬車を用意して待ってくれていた。

 その馬車に乗り宿へ向かうとなんと既に料理が部屋に運ばれていた!!


「料理の準備早くない?」

「メイドですので」


 メイドって凄いんだなぁ……。

 何も言っていないのに料理が出来ていてしかもちゃんとまだ温かい……。


 そんなことを考えているとは知らずアナは料理を口に入れる私に話しかけてくる。

  

「試験、どうでしたか?」

「好感触だと思う……のに不安が凄い」

「受験とはそういうものです」

「アナも受験とか受けたことあるの?」

「もちろんです一人前のメイドになるため、メイド学校に通っていましたよ」

「でた!どんなことを学ぶの?」

「そうですね。例えば主の返ってくるタイミングに合わせて常に温かい料理を作るように教育されます。例え事前に主から帰ってくるタイミングを聞かずとも予測します。そうすることでいつでも温かな食事を用意します」

「え……メイド学校すご」

 

 まるで未来視ね。


 その能力は凄いけどメイド服を着なければいけないというのがきつい……通わされなくて良かったなぁと安堵した。


 女の子に転生したとはいえ、さすがにメイド姿はキツイ、精神的にね。


「だから今日はお疲れ様ということで豪華にしました」

「……確かにおいしそうだけど、家のより質素よ」

「さすがにご実家で作るのとは違います。ですが、ちゃんと豪勢なものを作りましたよ」

「なるほど……」


 知らない間に料理に対しての目も舌も肥えてしまっていたようだ。

 これは反省しないと、よくお高いものが当たり前の世界に入って感覚が狂う話は聞いたことがある。


 そうならないようにしないといけない。

 私は出された料理を感謝して味わった。そして普通にめちゃくちゃ美味いかった……見た目は関係ないみたいだ……。


 私達が泊まっているのは貴族が泊まるにしては質素な宿。

 と言っても一般人からすれば充分豪華な宿で快適。


 しかし、私は前世の記憶があるから冒険者というモノに少し憧れている。冒険者なら最初は質素な部屋に泊まるみたいなのを想像すると少し不便でも体験してみたいと感じた。


 せっかくの異世界だ。やっぱり冒険はしてみたい。

 そんなことを考えながら豪勢な食事を終え、床に着く。


――


 翌朝目が覚めるとアナが私の部屋に入ってきた。


「お嬢様!受験結果の紙が届きましたよ」

「早っ!?……貰うわ」

「どうぞ……」


 アナが緊張した様子で結果の書かれた紙を渡してくる。

 私はその紙をじっと見つめる。封筒に入れてないけど三つ折りに綺麗に畳まれていた。


 私は少し躊躇ったが開かないことには何も進まない。意を決して紙を開くとそこにはーー


―ルーク=バレンタイン様【合格】―


 と書かれていた。


 その結果を見てふと胸を撫で下ろす。

 そんなせっかく落ち着いた所へアナが私の身体に抱きついてきた。


「んー!おめでとうございまぁすぅ!!」

「アナ!?」


 アナは常にお堅い感じだからこんな風に抱き着いてくるなんて思わなかった。

 だけど嫌じゃない。それに豊満な胸が顔に当たってこれはこれで……。


 いやいや私も女なわけだしそれはダメでしょ……いやダメなのかな?


「あ……すみません。つい」

「全然大丈夫だけど、私より喜んでるね」

「わ、忘れてください」

「抱きついておいて?」

「うっそれは……お、お嬢様の事はずっと見ていたので、嬉しく感じるのは当然かと」

「はは、そう……いつもありがとうね」

「お嬢様っ!」


 アナは少しだけ嬉し泣きをした後、自分の涙を拭う。


 そしてーー


「では寮入りですので今から向かいますよ」

「……早くない?」

「時間に遅れてはバレンタイン家の名折れです!ささ、そのだらしない寝癖を直しますよっ!」

「さっきの涙はなんだったんだ……」


 あまりの変化に驚く。これはアレかメイド学校の何たらって奴かもしれない。


 ちなみにアナは宿に泊まり、必要な時に呼ぶことになっている。


「アナは1人で大丈夫?」

「大丈夫ですよ。むしろ、お嬢様を一人にした方が不安なのですが」

「そこは心配しなくていいわ。女性のアナ一人だと色々危なくないの?」

「私はメイド学校に通っていたんですよ?屈強な男が襲ってきてもこのナイフでイチコロです」

「え、メイド学校すご」


 どうやらメイド学校ではバトルメイドになるための訓練もするみたいね……。


 ちょっとアナの戦いぶりを見てみたいと思ってしまった。

 そんな事を考えながら宿を出て寮へ向かう馬車に乗る。


 寮が見えてきたのでアナとはここで別れる。


「お嬢様、朝は教えた通り寝癖を直してください。歯は昔からの癖で執拗に磨きますが、ほどほどに、それから……」

「アナ!大丈夫だからっ!じゃあね!!」


 寮に入る人が多いから人の通りも激しいこの場所でまるで親みたいな説教をされてさすがに恥ずかしい。


 まあここまで育ったのはアナのおかげでもある。実質育ててくれた親みたいな感じだし……だからあの時、嬉し涙を流してくれたのか。


 そんな感傷に浸りながらこれから壮大な学校生活が始まる!!


 と適当にそんなことを考えていたんだけど……壮大な学校生活の最初に相応しいことが起きてしまう。

 それはフーリアが制服を着て学校の寮へ向かっているのが見えたから! 


 受験の時はきっと受験前のストレスだったりで機嫌が悪かったのかもしれない。

 ここは過去の友情を取り戻すべく尽力するべきだろう!


 私は躊躇なくフーリアに挨拶する。


「フーリア!受験受かったんだね!」

「……」


 フーリアは名前を呼ばれて一度立ち止まる。そして一度こちらを見た後、目を閉じて身体を学校の方へ向けた。その直後直ぐに学校の寮の方へ歩き出す。


 え……まさか無視された……?

 そ、そんなはずはない!!


 私は意を決して次はフーリアの目の前に立つ。


「お、おはよう!」

「……おはよう」

「ね、ねぇあー」


 やばい、声は掛けたけど何を話そうか考えていなかった。

 私は空を見上げる。


「今日はいい天ーー」

「私、先行くね。あなたも急いだら?」


 私の会話の最終手段天気デッキを使うことすら叶わずフーリアは早足に去っていく。

 正直さすがに今回は「ルーク!久しぶり!」と喜びの声を上げながら抱きついてくることを想定していた。


 別にあの子の成長した胸の感触を味わいたかった訳じゃない……訳じゃないんだけど過去のフーリアなら全然抱きついてくるはずだった。ちなみに胸はクソ小さい……。


 私は遠くなっていくフーリアの背中を見つめ、切ない気持ちになりながらも足を進める。

 本当は寮の前でフーリアが待ってますよ~みたいなイベントを期待したけどそれはなかった。


 壮大な学校生活というか……壮大に親友に振られた……。


 結局、寮に入ってすぐに決められた部屋の場所と鍵を貰った。

 この寮は1部屋に4人ずつ泊まる方式になっている。


 一部、優秀な生徒や大貴族、相当なお金を払っている生徒には一人部屋が用意されているようだ。

 ちなみに私は4人部屋だ。


 どうやら私が合格したと聞いてムカついた義理の母が父に「勝手にあの子をあの学校に入学させたんですから、無駄なお金は出せませんわ!」って言われたらしく、4人部屋を取るように言われた。


 一人部屋はお金がかかるからね。

 正直一人でもきついのに自分を入れて4人はもっときつい。


 今からでもアナに頼んでバレンタインの領土へ行ってもらって連絡してどうにかして貰えないだろうか。

 敵わない願いを願いながら指定の部屋に入る。


 さすがに部屋は女子だけらしい。


 女子寮だしね。


 女子かぁ……前世はごく稀にこそこそと私の方を見て何か呟いている、みたいなことがあった。

 女子の世界は怖いと聞くし、さらにその不安がいっぱいになる。


 だがこの部屋の扉を開けないといけない。これは亡くなった母の伝言のため……そして私の目的のために!!


 いざ扉を開ける。ドアノブを回すとガチャッと音が鳴る。

 どうやら先着が居るみたい。


 私は一度深呼吸をしてから扉を開ける。


 するとそこにはーー


 見知った顔が2人とどこかで見たようなふくよかな女性が居た。

 まずはそのふくよかな女性。彼女は黒髪で青い瞳、顔は整っているように見える多分痩せたら美人じゃないかな。

 

 お腹を何とかすれば多分相当な美人になるだろう。

 そして残り二人はフーリアとショナだった。


「あ」

「およ?」

「げっ」

「バリバリムシャムシャ」


 ちなみに「あ」と声を出したのは私。

 「およ?」はショナ。

 そして何故か私の顔を見て「げっ」と呟いたのがフーリア。


 そして何かを食べている音を出しているのがふくよかな女性だった。

 この異様な光景と雰囲気を見て確信する。


 これは私がさっき言ったように壮大な学校生活の始まる予感だった。

 壮大と言っても嫌な方だけど……。


 そんなさまざまな表情で見つめ合う4人が部屋に入ると同時に外でカラスが鳴く声が部屋中にこだまする。

 あぁ……なるほど、これは多分……ダメな奴だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る