第9話 試験

 

 ようやく私の所に料理が運ばれてきた。そして目の前の料理を口に頬張る。

 なかなか美味しいシチュー。


 おそらく日本の料理の方が美味しいんだろうけど既にこの世界の味覚に慣れてしまい、これでも充分美味しいと感じる。


 いやもしかしたら普通に美味しいのかな?

 ただ強いていうなら米と味噌は欲しかった。身体は違えど記憶がそれを求めているのが分かる。


 それでも朝食は済ませてあるからこれくらいがちょうどいい。

 そんな料理を食べている様子をじっと見てくるのは満員で同じ席を共にするショナという少女だった。


 さすがにお互い名前を知らずに相席をするのもどうかと言う事で自己紹介を済ませた。どうやらショナもエステリア学校を受けるために来たという。


 ただ、一人ではなく仲のいい幼馴染の子と一緒に来ていたのだが……。


「ご飯食べよって言ったら……公共の場で食べるのはちょっと……って言われたの!」

「なんで!?」

「さぁ……?まああの子の方が食べるから見られるのが嫌とか?」

「え……」

 

 これ以上食べる子が居るの……?


 ショナとその友達はハーベスト帝国という隣国から来たという。


 ショナは一般人だけどその友人は貴族出身らしい。

 それにしても外国から来たのか……私はもしやと思いあることを聞いてみる。


「し、失礼ですが。ハーベストから来たのなら宿は決めているんですか?」

「宿?ううん、必要ないよ!寮に泊まるから」

「なるほど……」


 受験にまだ受かっていないのに寮に泊めてもらえる生徒は貴族か優秀な実力を持った子だけ。

 おそらく彼女は後者なのだろう。


 こんなにも沢山食べているのに体形が一切変わらない。

 なんとなく沢山食べる子は心身ともに強いイメージがある。ちょっとおバカそうな所はともかく、それなりにやる子なのかもね。


 まあ悪い子じゃなさそうだから仲良くなれたら嬉しいけど、自分からガツガツ行くことは多分できない。


 前世でも寮生活で最初に同じ部屋だった奴が誰とでもコミュニケーションできて、そのおかげで学校生活は嫌ではなかった。


 そんな幸運が何度も起きるとは思えない、しかしそれに頼るしか道はなかった。それだけこの世界でもルークわたしのコミュニケーション能力は終わっている。


 しかしそんな私の心配を他所にショナが言い放つ。


「せっかく一緒にお食事したんだしこれはもう私達は友達だねっ!」

「え……?」

「あれ……嫌だった?」


 それは願ったり叶ったりだった。


 この機会を逃す訳にはいかない!


「そ、そんなことない……です!」

「やったっ!これから学校生活を満喫しようね!」

「……ま、まだ受かるとは決まってないけどね」

「あ、そうだった」


 てへっ☆と自分の頭を軽く拳を載せてあざとい仕草をするショナ。

 可愛らしい子だ。


 さっそく友人が出来てホッと胸を撫で下ろす。

 その後はお互いに同じタイミングで食事を終える……ショナの食事量は私の食べた物の量の十倍くらいあったけど……。


 ショナを見て緊張感が薄れていくのを感じる……そんな気持ちで受験の受付に戻る。

 途中でショナの連れと鉢合わせて一旦別れることにした。


 ここからは一人での勝負だ。

 魔法も剣も自信はあるけどいざ受験となると緊張する。


 受験会場へ入ると早速始まったのは筆記試験。6年以上引きこもってこの世界の事や魔法、剣術を勉強していたから無駄に知恵は付いている。


 筆記試験は分からないところは少なからずあったものの、高得点は取れたはず。

 次に実技に試験。魔法か剣の腕を試すんだけど、どれを受けるかその人次第。


 生徒はそれぞれどちらかを選んで魔導士の会場と剣士の会場に別れる。

 私は一応剣より魔法の方が得意だろうとダイン師匠(せんせい)に言われたけど……!!ここはあえて剣士で行く!!!!


 剣士の試験はこの学校の"騎士"と呼ばれる人と1体1で戦うというもの。

 この学校の剣士にとっての騎士とはいわゆる生徒会みたいなものでこの試験には生徒会の有志の人達が手伝っている。


 もちろん騎士に選ばれるだけあって相当強い。正直受験生にはキツイレベルだ。

 手は抜いてくれているみたいだけど……一人だけ明らかに乱暴な生徒が居る。


 その人は受験生と対峙するとその圧倒的な力の差を利用してボコボコにして楽しんでいるように見える。


えぇ!!えぇ!!お前もお前も不合格ぅ!!」


 うわぁ……。


 騎士はあまり酷い怪我を負わせてはいけないらしいんだけど、それでも酷い。性格も酷い。

 あわよくばアレと戦わないで済みますように……。


 しかし現実は非情だった……。


「くそ……これが運命なら女神を恨むわ」


 受験の人数も多いから効率よく回すために実技の会場が空けば次々に順番で始まる。

 その乱暴な生徒は次々にしかも一瞬で終わらせるから周りが早く、大抵の受験生はその人と戦わされては退場している。


 よく見てみるとフーリアとショナは別の組で乱暴な騎士と戦う可能性は無い。

 これは優秀な生徒には譲歩されているのかもしれない。


 ずるくない?


 この学校の闇を垣間見えたところで乱暴な騎士との試験が始まる。


 まあやるしかないよね。


 私はの中に収めていた"刀"を抜き放つ、その細い刀身の剣を見て乱暴な騎士は笑う。


「なんだその弱そうな剣!ククク……」


 この世界の剣は少し特殊で魔剣,聖剣と言った物がある。

 もちろん安い無名の剣もあるけど、魔剣や聖剣は持つ者によって姿を変える。


 一説では剣の中には精霊が宿っているとか。


 "心の剣"精神が私は日本人だからかこの世界には無い刀に姿を変えた。周りの受験生も奇異な目で私の刀を見ている。


 それだけ異様な形らしい。


「ったく貴族連中はただ高い剣をガキに持たせる……てめえ何処の家系だ?」


 これはあれかな自己紹介しろってことかな?


 戦う前にお互いの名前を聞く、その程度の騎士道はあるみたいだ。


「ルーク=バレンタインです」

「バレンタイン……?知らないな」


 バレンタインは魔導士の家系だからね。


 魔法ならそこそこ名前は知られているんだけど……。まさかそこから剣士が排出されるとは思わないか。

 乱暴な騎士はつまらなさそうにする。


「てことは偶然拾った剣か……そんなんでこの学校で生きていけると?」

「一応……?」

「ちっ……こういう舐めた奴が一番嫌いだ。てめぇが女だろうが容赦しねぇぞ」

「……お手柔らかにお願いします」

「ケッ」


 なんだかむしろ癇に障ったみたい……?


 というかお互いに自己紹介すると思っていたのに向こうは名前を名乗らない、どうやら騎士道ではなく、ただ単に名前が気になっただけっぽい……。


 しかしながら剣の腕は確かだ。この人の戦いぶりを見ていたからわかる。


 全力でやらないと負ける!!


 乱暴な騎士は試験開始の合図と共に飛び出してくる。

 大ぶりの大剣を天高く振り上げーー


「失せろ!!」


 汚い言葉と共に大きく持ち上げた大剣を振り下ろす。

 私はそれを刀で真正面から受け止めた。


 炎帝剣えんていけんそれがこの聖剣の種類。


 さすがに刀の力を使わずにその攻撃を受け止めるのは無理だったため、刀からは炎が吹き荒れる。


「はぁ……?俺の一撃を受け止めた……!?」


 ここでこの程度か?と言えたら最高だったんだけど……生憎そんな余裕はなかった。

 確かにこの人は強い。


 もし実戦で戦うのならこの驚いた隙に倒すしかないだろう。

 私にはその手があるが……これは剣術の試験だからここでは使わないだってそれは……魔法を使うから、あくまで試験に乗っ取った戦いをする。


 それにここで倒したら色々目立つそれは避けたい。

 でもこのまま剣と剣を合わせたままというわけにはいかない。

 

 私は刀に入れていた力を抜く。そして触れている剣先を緩やかに地面に落とす。

 大振りなそれも縦に一直線に振り下ろした剣は刀に受け流されて地面に叩きつけられる。


「なっ!?」

 

 乱暴な騎士の驚く声、それと同時に砂煙が舞う、試験会場の一部を覆うそれは私たちの姿を覆い隠していた。


 この隙に……!!


 私は刀を翻し乱暴な騎士へ攻撃を仕掛ける。

 当たったら痛いけど死なないように刀の刃とは逆の方を振りかざす。


 しかしーー


「ん?刀が止まった……?」


 刀越しに妙な感覚を覚える。初めて体験するその感覚だったが、なんとなく私の刀が素手で止められているように感じる。


 刀の刃を逆にしているとはいえ素手で受け止めるなんてほぼ不可能だ。


 まさかそれをこの人はやってのけた……?


 このままじゃ反撃が来る!!


 そう考えた私は刀に炎を纏わせて乱暴な騎士から逃れる。


あちぃ!」

 

 砂煙が収まるとそこには無傷の乱暴な騎士が立っていた。


「マジか……こいつ……」


 思わず素の自分が出てしまう。それくらいにはこの光景に驚いていた。だって素手で私の刀を受け止めたのに血も流していない。


 すると乱暴な騎士は高らかに笑う。


「クハ八!おもしれぇ……ちょっと本気で行くぜ!!」


 乱暴な騎士は剣に力を込める。

 すると剣の"殻"が破れて中から別の刃が出てきた。

 落ちた殻はちゃんと斬れる剣の刃……まさかその中からさらに刃が出てくるなんて……。


 まさかこの人、手加減していた!?


 だけどなんでそんなことを……。

 と疑問に感じていた時だった。


「ジュラ!!その剣は試験では使わない約束のはずだ」

「あ?いいじゃねーか少しくらい!!」

「ダメだ。それにお前がその剣を使うということは純粋な剣術では負けを認めたといことになる」

「剣術はともかく……武器の性能差で負けているのは確かだ」

「だからルーク=バレンタインの勝ちでいいな?」

「なっ……そりゃねぇだろ!」

「あのなぁ……お前の剣を封印するのを条件にお前に試験官を許可してるんだぞ?これ以上はダメだ」

「ケチだな……おい、女ァッ!!」


 突然こちらに向けて怒号を放ってくる……。

 身体が少しビクゥッとなりながらも平静を装って応える。


「は、はい……」

「合格だ。後……」

「……な、なんですか?」

「名前、覚えたからな?」

「……え」


 そんな意味深な言葉を残してジュラは去っていった。

 するとジュラが本気を出そうとしたのを止めてくれたもう一人の試験官の人が近づいてくる。


「あいつは……あーだが悪いやつじゃない……多分。だから気にしないでやってくれ」

「は、はぁ……」

「それにしても素晴らしいだった。綺麗な炎だ」

「あ、ありがとうございます」

「ふむ、実技が終われば試験は終了。帰りなさい」

「は、はい!あ、ありがとうございました」


 こうして私の少し面倒な実技試験は終わった。

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