第5話 初めての魔物退治

 

 突然、爆発音が聞こえてその音の下へ向かうとそこには岩石の魔人と義妹のルーンが居た。

 ルーンは魔人に襲われている。


「来ないでぇぇぇぇええええええ!!」

「……」


 岩石の魔人はそんなルーンの叫び声に耳を傾けない。

 というか身体が岩でできているみたいだから耳なんて無さそうだ。理性も無さそうだし会話も通じ無さそう。

 

 どうしてこんな奴が家の庭に……?こんなのが居るなんて聞いていない。

 ダイン師匠せんせいは帰ったとはいえ街に居るはず……。


 爆発音も大きかったけど砂煙が高く舞い上がっていた。

 気づいてもおかしくないはずなんだけど……師匠(せんせい)が戻って来るまで何とか耐えるしかないか?

 

 ルーン……この子も私に対して冷たい……子の1人。

 といっても義母や義姉のような手を上げたり過度ないじめをしてくるわけじゃない。

 少し口が悪い……しかもそれは義姉にいわされている程度。


 もしかしたら二人に私をいじめるように強要されている可能性もある。何より救える命を救わないのは後味が悪い。

 私は聖剣を取り出す。


 私の聖剣は契約後、すぐに私の身体の中へ入って行った。

 そのため取り出す方法は念じて身体の外へ出すというなかなか変わった方法だった。


 私の利き腕である右手に赤い炎の剣が現れる。それは刀の形をしている。

 剣を強く握りしめ岩石の魔人に向かって行く。

 

 ちょうどそのタイミングで岩石の魔人が左腕をルーンへ振り下ろそうとしていたのでその左腕に向けて剣を放つ。


「はぁっ!!」


 ギィンッ――!!


 と不快な音を立てる。

 岩石の魔人の体長は約5メートルくらいか、13歳のこの身体では受け止めるのがやっとだった。

 

 むしろ受け止められるだけ充分だろう。

 これくらいなら抑えられると判断した私は後ろのルーンに大声で指示をする。


「とっとと逃げろ!!ここは俺がやる!!」

「――ッ!!はいぃぃ!!!!!!」


 おっと……つい下品な言葉使いをしてしまった。

 上品な言葉使いをしないと怒られるんだけど、油断すると吹き飛ばされそうだから余裕がなく、取り繕うこともできなかった。


 まあ素の私を見られたのは一人だからいいか。今はこいつを何とかしないと……。


「父上は今は王都へ行っているんだ……となると戦えるのは屋敷の護衛くらい?」

 

 ダイン師匠せんせいもまだ来ていないし義母達も戦いのための訓練を受けていない。


「お嬢様!何が起き……こいつは魔物!?」

「どこからか現れました」


 護衛が2人くらい駆けつけてきた。

 少ないが他の守りを手薄にするわけにはいかない。


 大きな物音が聞こえても大人数が駆けつけてこないのは気になるけど……今は戦える戦力だけで何とかするしかない。


「お嬢様!下がって……」

「いえ、私も戦います」

「そんな無茶です!!」


 別にプライドがあって引かないわけじゃない。

 ただ何となくこいつは私が倒さなければいけない気がした。


 下がれと言われても留まっていると岩の魔人は次の攻撃をしてくる。理性もへったくれも無い感情すら無い魔物が待ってくれるわけが無かった。


 一人の護衛が私を突き飛ばして攻撃から避けようとする。そしてもう一人が魔物の攻撃を受け止めようとした時――。


「な、なんだ……!?」


 突然護衛の身体が止まった。その護衛は腰の剣を差している。

 早くその剣を抜いて受け止めないと骨折どころじゃ済まない!!


 私は押されて尻もちを付いてしまい立ち上がるのに時間が掛かる……。

 このままじゃ護衛の人が……!!


「仕方ない……か」


 あまり人前で使いたくなかったけど魔法と剣を両方使う。

 既に抜いていた剣の先を地面に向ける。その刀の先に魔力を込めて魔法を放つ。

 炎の魔法。それを地面にぶつけた勢いで立ち上がり、護衛の前に立つ。


 そして魔法と刀の力を合わせた業を使った。


炎帝焔薙斬えんていほむらなぎり!!」


 炎の魔法のブーストと聖剣本来が持つの炎を合わせる。

 聖剣や魔剣には契約が必要で中に精霊が入っていると言われている。


 若干魔法の方の炎は明るいピンクがかった色をしていて、刀からは血のような赤い炎で違いが分かってしまう。

 だから使いたくなかったんだけど……致し方ない。


 焔薙斬りで岩石の魔人は上下真っ二つに割れる。

 斬ってみて分かったが手加減していたらカウンターを食らっていたかもしれない。


 それくらいに岩石の魔人の硬度があった。

 でも今回は勝てた。師匠せんせいから沢山学んでおいてよかった……魔法も便利ね。


 少しでも怠っていたらここまで安全に倒せなかった。


「お、お嬢様!?あの魔物を一撃で……しかも剣で!?」

「ええ、危なかったけどギリギリ倒せた」

「そ、そうですか……凄いなぁバレンタイン家……」

「それにしてもこの魔物はどこから湧いて出たの?」


 私は一番気になっている事をまだ尻もちをついて動けないルーンに尋ねた。逃げろと言ったんだけど、ずっとその場で動けないでいた。


 ルーンは辺りを見回しながら何か考えるような仕草をする。その後まるで誰かが来る前にと早口で応える。


「そ、空!空から降ってきたの!!」


「「「空……?」」」


 私と屋敷の護衛の2人は同時に空を見上げる。

 そして真っ二つになった岩石の魔人を見る。

 ……どう見ても空から降ってくる事は想像できない。


 そんな私達の反応を見てルーンは信じてもらえていないと思って焦ったように慌てて弁明する。


「本当なの!ドーンッて!……凄い音だったの!!」


 確かにこの巨体が空から降ってきたのならあの爆発音と繋がる。それに砂煙が高く舞っていたのもそれが原因になる。


 あながちルーンが言っている事が本当ならあり得ない話じゃない。大きな爆発音はしたものの周辺への被害は少なく、庭が抉れているくらい。


 多少庭の方に近い窓や扉は衝撃で破壊されているが、壁などは少しヒビが入っている程度。

 じゃあ本当にこの魔物が空から……?


 ここまで条件が揃っていてもなおこの岩石の魔人が空から降ってきた事は想像できない。

 悩んでいるとルーンは私の方を見て苦しそうな声を出す。


「し、信じておね――」

「ルーン!!」


 ルーンが何かを口にしようとした時、ルーンの実母にして私の義母が屋敷から出てきた。

 義母はすぐさまルーンへ駆け寄り安否を心配している。


 もちろん私の事は一切心配していない。何なら義母は私の事を睨みつけてくる。


「あんた、ルーンに何をしたの!!」

「魔物が襲って来たので助けただけです」

「嘘よ!!あんたがそんなことするはずない!!」


 それは今まで私に対して酷い態度を取っていたから助けるようなことはしてくれないという意味だろう。

 さすがに命の危機ならこんな小さな子供なら助けるでしょ……。


 確かに義母と義姉なら少し考えるけど……それでも結果助けていた。

 だけど義母はそうは思わないらしい。


「そもそも魔物なんてどこから……まさかあんたが連れて来たんじゃ!!」

「そんなわけないじゃないですか……その魔物の身体を見てください。こんなのどうやって運ぶんですか?」

「あんたは身体だけは異常な程に頑丈じゃない?それくらいできるんでしょう!!」

「はぁ……!?」


 凄まじい言いがかりを付けられているような気がする。

 剣があっても真っ二つに割ることができるだけで運ぶのは不可能だ。

 だいたいそんなことをするメリットも無い。


 そんな理不尽な言葉に見過ごせないのか護衛の兵士が口を出すが――。


「奥様!ルークお嬢様はルーンお嬢様を助けました。それは私が確認しています」

「ふんっ!自分で呼んだ魔物が人殺しをすれば大問題になるからでしょ!」

「私達が駆けつけるタイミングとほぼ同時にルークお嬢様も駆けつけていた。魔物を運ぶにしてもその場に居ないのはおかしい」

「……何?私に立てつくの?一兵士が辞める?」

「――ッ!?」

 

 まあそうなるよね……。


 私の事を可哀そうに思って言ってくれたのは分かるし嬉しいけど、こうなるのなら言わなくても良かった。

 私だけが傷つくのならもう慣れている。今更この人に何を言われても何も響かない。


 しかしこの兵士の人が居なくなるのは流石に心苦しい。私はどうにか辞めさせないように訴えるようとしたその時だった――。


「ルークお嬢様はそんなことをしていませんよ」

「あ?……なんであんたがここに居るのよ?もうこの子の稽古は終わったはずでしょ?」


 突然声を掛けてきたのはダイン師匠せんせいだった。

 やっぱりあの爆発音を聞いて駆けつけて来てくれたん

 

 しかし何もしていないのは確かなんだけど、見ていなければここまではっきり言えないはず。

 まるで私が戦ったのを見ていたかのように……。


 信じてくれたってことだろうか?


「私も戦いを見ていましたから」


 どうやら信じる以前に見ていたらしい……じゃあなんで助けてくれなかったのってなるけど。


 聞き返したかったんだけどそんな空気ではない。何故なら義母が未だに憤っているから。

 こうなるともう横やりを入れるとさらに逆上する。


「はぁ?じゃあなんであんたが助けなかったの?」

「そりゃあ、どこからともなく現れた強敵を前に私の教え子がどう戦うのか見守りたかったんですよ」

「は……?」


 は……?はこっちのセリフなんだけど……。


 でも私が声を出したら矛先がこっちに向きそうだったから話を聞くだけに転じる。


「もちろん、危なくなれば助けました。それはルーンお嬢様も一緒に」

「……あんたはイカレているわ」

「そうですか?ルークお嬢様に対してのあなたの行動の方がよっぽどイカレている」


 その言葉に駆け付けた兵士、師匠、私は無言で義母を見つめる。

 それに同調している空気に耐え切れなくなった義母はルーンを抱えて屋敷に戻る。


 背中を見せて走り去ろうとしたその時、義母は吐き捨てるように――。


「私はあんたが教育係としてこの家に来ることが嫌だった!!だってそうでしょう?本当にイカレてる大罪人のダインスレイブ先生?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る