1章~再会

第1話 転生


 目が覚めるともう既に見慣れた天井が飛び込んでくる。

 この世界で生まれ変わって早9年くらいだろうか……この世界の生活にも慣れてきたな。


「身体はいまいち違和感があるが……」


 前世の記憶があるせいで転生前の自分の身体とこの9歳の身体は全然違うからたまに何もない所で転んだりした。

 まだ慣れるのに時間は掛かりそうだが……まあいいだろう。

 

 あの女神様に望みを叶えてもらったけど結局、頭の中で考えていた願いが反映されてしまった。鏡を見るとそこに居るのは赤く長い髪に水色の目がこちらを見つめている。

 9歳でありながら顔が整っているのもはっきり分かり、自分で言うのも何だけど確かに将来は期待できる……。


「まさか鏡の前でそんなことを思う日が来るとは思わなかったけど……」


後、ついでにと言ってはなんだけど、俺の生まれた場所は貴族の家らしく部屋も広くて豪華だ。

 この世界の街は中世の世界が一番表現が近いだろうか、想像していたけどやっぱりそういう世界なんだな......。

 

 中世の世界って女性に厳しそうだからちょっと不安なんだよな。あの狐め……女神様ならもう少し意見を聞いてくれてもいいだろうに……。

 そういえばあの女神は最後に何か力を上げるとは言っていた気がするが……特に何か特別なものを持っている感じはしない。

 

 忘れていたとかは無いと信じたいが……こればかりは神様のさじ加減だ。

 まあ異世界に転生させてもらっただけありがたいと思うべきか、憧れてはいたからな。せめて向こうの世界の経験を活かしてもう後悔しないようにしよう。

 

 前世の記憶ありってなかなかそれだけでもズルだしな!……まあ記憶は後半の部分がほとんど抜けてるんだけどな。

 

 俺は鏡から離れて部屋の窓から見える外の景色へ視線を向ける。

 異世界で冒険者に憧れていたからまさかそれとはかけ離れた所に産まれるとは思わなかったけどな。窓から見える色んな意味で高い景色を見てそんなことを考える。

 

 時刻は朝の7時くらいか、この時間に起きないと叱られるからか身体が毎日この時間に目が覚めるようになってしまった。

 貴族なんて楽に過ごせてお金に困らない勝ち組だと思っていたが……貴族なりに面倒なこともあるもんだな。

そしてそろそろかな?とその時ーー


 コンコンッ……。


 と、小さな扉をノックする音が聞こえる。

 

「お嬢様、失礼します」

「ええ、入って大丈夫ですよ」


 身体だけじゃなくてこの口調にも慣れないが、これも貴族の嗜みとして強要される。

 くっ……これならある程度裕福な普通の家庭も追加しておけばよかった。

 そう後悔しながらも部屋に入ってきたメイドに対応する。


「お食事の時間です」

「分かったわ。直ぐに行きます。ちなみに……」

「旦那様も奥様もまだ帰っていませんよ」

「そうですか……」


 ここ数日はこの世界での父と母は近くの街で発生している魔物を倒すために家を開けている。

 どうやら魔物が想像以上に強力で隣街の貴族に頼まれて応援に向かった。

 

 うちは御先祖様が武力でこの地位を勝ち取ったらしく実戦での実績もある。その血が入っているからかこの、バレンタイン家に産まれる子は強力な魔力を持っていて固有魔法を持ち、魔法に卓越した才能を持った一族らしい。

 

 しかし、俺は剣の腕の方がいいらしい。前世で剣道も何もしていなかったけどその構えを見様見真似して見た所、それを見た周りの人たちが不思議がり、その構えもしっかりしていたらしくてそんな風に思われている。

 

 身体がしっかりしているのに関しては鍛えられているから当然なんだけどね。ただ覚えていると言うだけでそこまで様になるとも思えない。やっぱり俺の才能は剣術なんだろうか……?

 

 そんなことを考えながら朝食へ向かう。

 流石に貴族だけあって無駄に長いテーブルがある。俺はいつも通りの席へ座る。


「ようルーク。今日も早いな」

「ジークお兄様もいつも通りお早いですね」

「まあな!魔法の修行を欠かすと親父に殺されるからな!お前はもう少し成長したらこの忙しさが分かるぜ?」

「そういうものですか……」

「ああ……なんせお前はルークの名を貰ったんだからな」

「……」


 ルーク、それは俺⋯⋯私たちの御先祖様の名前だ。

 本来は男子につける名前だったのに何故か女子として生を受けた俺にその名前が付けられた。

 身体が可愛らしい女の子なだけに名前だけ男っぽいのは俺は別に嫌じゃない。

 精神がまだ向こうの世界の自分に引っ張られているからだろうか。

 

 何にせよそんな期待を帯びた名前を背負わされているのでこれからの事が大変になるのが目に見えている。

 最悪だ……ある程度裕福な一般家庭で悠々自適に過ごしていたかったのに……。これじゃあ騎士の道へまっしぐらだ。


 そう言うお堅い職業はあまり就きたくないんだけどな。

 しかし俺は知っている。そうやって就きたい就きたくないと言っていると後で後悔すると……。

 だからまあ今この段階で可能性が高く、安定する職を目指すのは悪くないだろう。


「しかしお前、女なのにめちゃくちゃ力が強いよな?さらに魔導士の家系なのに剣士とは……いつか追いつかれそうで不安だぜ」

「一応言われた通りのことはしていますから……」

「ふぅーん、実は魔導騎士だったりしてな」

「そ、そんなわけないだじゃないですか」


 この空間には私とジーク、そしてメイドや執事しか居ない。父と母一緒に魔物を倒しに行っている。

 

 ジークは父の兄弟の子供でこの世界の俺、つまりルークにとっての叔父の子供……つまり親戚。

 ルークの父は今、隣町で魔物騒ぎがあってその対処を母と知り合いの貴族の人でやっている。魔導士として優秀だから魔物退治に引っ張りだこ。

 

 常に魔物が出れば自分の街だけじゃなくて隣町まで出向く父は大変そうだ。俺はせめてそこまで忙しくない将来を過ごしたいものだ。

 将来と言えば前世の俺が死んだ理由はこの世界にあると神様は言っていたっけか。その謎も知りたいところだ。

 

 明確な目的があるのはいい事だ。何もすることがなければせっかく異世界へ来ても無意味だしな。

 それにあとするべきことと言えば、友達作りも欠かせない、前世ではまともに友達が居らず、最期の日の前日にゲームをしようと誘ったその友達以外居なかったからな。

 

 そいつが忙しい時はもう誰ともゲームをやる人が居なかった。

 この世界にゲーム機は無いけど、今度はもう少しくらい友を増やしたいところだ。とそんな時だった。


「ルークお嬢様、お客様です」

「あー!まさかフーリア?」

「その通りでございます」


 フーリアはこの世界で最初で来た友達だ。

 父の仲のいい貴族、先程の魔物退治に対処するのに向かった街の貴族の娘。そう、フーリアとは貴族同士だからもっと小さい頃に知り合うことがあってそれ以来仲良くしている。

 ただ彼女はちょっと自分勝手なところがある。こうして朝早すぎるにもに関わらず家に押しかけてくる。

 

 まあでも可愛いから許せるんだけど……。

 一応同い年だし、精神面はアレだけどこの可愛いと思う感情は何というか娘とかに対して感じるモノの方が近いだろう。


「まだ食事中なんだけどなぁ……」

「まあまあ、言って来ればいい」

「ジーク……」

「だってお前が行かないとフーリア嬢はうるさいからな」

「……」


 こっちに気を使ってくれているんじゃなくてあくまで静かに食事がしたいからと言うのがジークらしい。

 そしてフーリアも行かないとうるさいというのは確かだから、俺はテーブルの上のモノを残して遊びに出かけた。

 

 子供の遊びと言うのはなかなかに激しい。それは日本だからとか異世界だからとか一般人だとか貴族だとかも関係ないらしい。

 人の庭で貴族の令嬢なのに怪我の心配をする程にはしゃぐフーリアを眺めてそんなことを考える。


 するとフーリアは使用人の人に捕まり、「お静かにしないと旦那差に言いますよ?」と言われて頬を膨らませて怒りを表現する。

 子供かよ……と思ったけど子供だったな。

 これでいつも大人しくなるんだが、その後は庭で一緒に本を読んだり、どうやって使用人の目を掻い潜り脱走するかを練って俺にその方法を伝え、それをさらに俺が使用に伝える。

 

 何とこれと全く同じ光景をもう2年も見ている。

 フーリアは少し頭のネジが足りないようだが、将来はとっても元気な子に育つだろうな。

 ちなみにこんなに元気なのはこの子が剣士の家系だからだろう。


 身体能力は幼いながら貴族の教育を受けているから、すでに前世の俺を超えているだろう。

 この子は強くなる……そして一緒にこの世界を生きていく。


――この時のは確かにそう思っていた。この後に起こる惨劇さえ起らなければ――

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