第5回 【アツアツ、いす、ソレノイド】

お題【アツアツ、いす、ソレノイド】

そのいすに座ったものは世界を手にすると言われている椅子までたどり着いた男の話。



誰もが目指している。その頂点に君臨する、王のいすを。


はるか昔、初めてこの世界を統一した王が作ったと言われる幻の塔、ソレノイド。その頂点には王のいすが聳えているという。何百もの罠、様々な仕掛け、王座を狙う強敵たち、全てに打ち勝ち、そのいすに座ったものは世界を手にすると言われている。これまでそのいすにたどり着いたものはいない。

今、私はそのいすを目の前に立ち尽くしていた。

意外と、呆気なかったな·····いや大変だったけれども。柵のない屋上、大きな丸の中心にいすが置いてあった。マホガニー調を彷彿とさせる木目の椅子で、その風貌はバズビーズチェアを思い出させた。呪いの椅子。何故このいすに座ると世界を手にすると言われているのだろうか?

ゆっくりと近付き、肘掛に触れてみる。見た目以上に固くて、冷たい。

私はいすに背を向け、ゆっくりと腰を下ろして座ったーーーその時、

ガチャン!

レバーが降ろされたような音がした。しまった! 重みで何らかのセンサーが反応したに違いない。

そう思った時には、いすから固定具が現れ、手足と腰を拘束された。

まずい! ここまで来たというのに、これが最後の罠だったのか?!

ゴオオオオオ

ジジジジジ

機械の作動する音と不気味な声のようなものが響く。

くそう、抜け出せない!

ガチャガチャともがいていると、椅子はだんだんと熱を持ち、アツアツになった肘置きはじわりじわりと私の腕を焼いた。

ガチャガチャガチャガチャ、暴れるがびくともしない。

このまま焼き殺されてしまうのか?! もう終わりなのか?!

ガコン!!! 凄まじい圧迫感ーー突然、目の前が真っ暗? 真っ白? わけがわからないが、体を握って縦に揺さぶられるような衝撃が走った!

気持ち悪さと、酷い頭痛が起こって、気付けば私は空高く投げ出されていたーーーー

一面の水色、風は冷たく、耳元は風を切る音でいっぱいと言うのに、世界は無音だった。下を見る余裕なんてなく、気がつけばはるか上に上に飛んでいき、だんだんと息苦しくなっていく。

上を見上げれば黒い空、宇宙が広がっていた。

私は椅子と共に宇宙へ投げ出される。いつの間にか手の拘束は解かれていて、地球も、私の意識も遠ざかって行った。

その中で私は見たのだ。私の小さな手の中に、青い星がおさまるのを。

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