第2回 【輪ゴム、五円玉、運転】

お題【輪ゴム、五円玉、運転】

現金輸送車を奪って一攫千金狙う、輪ゴム工場で働いている男の話


ダッシュボードの上に置かれた小銭ーーーそれが合図だった。標的(やつ)は、いつも同じ時間、同じ場所にトラックを止めた。コンビニでタバコを買ったあと、必ずダッシュボードの上に釣り銭を置いて、鍵も閉めずにコンビニの側面にある喫煙所でタバコを吸う。たいてい手前に同じようなトラックが並ぶので、やつのトラックは喫煙所から死角になる。俺はそれを知っていた。数ヶ月も前から何度も、何日も見てきたのだ。


やつは現金輸送車のドライバーだ。こんなに警備が緩やかな理由は、やつがただの"運び屋"だからだ。


俺はパッとしない人生を送ってきた。普通に就職し、普通に勤めてきた。だが数ヶ月前、同僚に誘われてギャンブルにハマり、給料や貯金はおろか借金までしてしまった。額面にして五十万、まだ大丈夫だと余裕ぶっていたが、タイミング悪く会社が倒産。なんとか始めた輪ゴム製造工場でのバイトの給料は低く、返せない借金は膨れ上がる一方で、俺はとうとう首が回らなくなってしまった。

昼間はたくさんの輪ゴムに囲まれて、夜は借りた金片手に、飲み屋で一番安い酒をちびちびと飲む毎日を送っていた。

そんな時声をかけてきたのが、四十くらいの陰気な男だった。男はどこか異様な雰囲気で、暫く飲み進めると、金稼ぎをしないか、と話を持ちかけてきた。

運び屋である標的(やつ)のこと、トラックの強奪が成功すれば報酬は二億、一文なしの俺は何も考えずその話に飛びついた。

それから男は、やつの日課と強奪の手順を俺に教えた。そりゃあ、最初は疑ったが、この数ヶ月で確信したんだ。男の話は本当だってな。


俺はやつが視界から居なくなるのを見届けると、トラックに乗り込んで、ダッシュボード上に釣り銭の五円玉が乗っかっているのを確認した。不用心なやつだ、キーまでしっかりささってやがる。俺はエンジンをかけて走り出した。さあ、これで俺は大金持ちだ! ビックだ! 輪ゴムなんてもう見ずに済むんだ!





俺は運び屋だ。だが数日前に接触事故を起こし、クビを宣告されたばかりだった。

俺は何十年も運び屋として、組に従事してきた。たった一回の不祥事で首を切られるなんて、とても受け入れられなかった。クビといっても、どうせただで済むわけが無い。それなら一矢報いてやろう。

大抵この時間になったら、俺の後釜が現金の入ったトラックを運転して、このコンビニの前を通るはずだ。そうしたらあとをつけて、タイミングを見計らってこのトラックとすり替えてやろう。昨晩近くの工場から盗んできた、輪ゴムの詰まったトラックにな………。

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