のらくら文芸部 朗読作品

石川沙人

第1回 【おいしさ、おじいさん、山】

お題【おいしさ、おじいさん、山】

ねずみさんがおじいさんのスープの美味しさの秘訣を探す話


「おじいさんのスープ」


ある山の特に大きな杉の木の根に小さな穴蔵があります。その穴蔵からちょろちょろと出入りしているのはアカネズミの太郎でした。

太郎には母と父と、騒がしい妹や弟達が沢山いましたが、太郎はこの穴蔵を住処にしていたおじいさんねずみに育てられたのでした。

おじいさんねずみは太郎にたくさんのことを教えてくれました。

くるみの割り方や、味の良いどんぐりの見分け方、土の掘り方や木の皮の剥がし方まで教えてくれました。中でも、おじいさんの作るスープは格別に美味しかったのです。

太郎はおじいさんねずみに聞きました。

「おじいさんの作るスープはどうしてこんなに美味しいの?」

「愛がこもっているからじゃよ」

「おじいさんの作るスープには何が入っているの?」

「おにぐるみが一つと、ブナの実が二つと、どんぐりが一つと、少しの愛が入っているのじゃよ」

おじいさんはそう言って、スープのおいしさの秘密を教えてくれませんでした。


そんなある日、おじいさんが木の枝から落っこちて、寝込んでしまいました。ちょうど肌寒くなってきたころでしたので、おじいさんはなかなか元気になりませんでした。

そんなおじいさんを見て、太郎はスープを作って元気を出してもらおうと考えました。

太郎は一つのおにぐるみと、二つのブナの実と、一つのどんぐりの中身をすって火にくべてみましたが、おじいさんのスープになるには何かが足りませんでした。

困った太郎は、どんぐりを拾っているリスくんに声をかけてみました。

「やあ、リスくんは、おじいさんのスープに何が入っているか知っている?」

「おじいさんはときどき、山をおりていたよ」

リスくんはそう言って走り去ってしまいました。

「じゃあ僕も山をおりてみよう!」

太郎は山をおりることにしました。

太郎が山をおりていると、モモンガさんに会いました。

「やあ、モモンガさんは、おじいさんが山をおりて何をしていたか知っている?」

「おじいさんは村におりて、たくさんの宝の山を持ち帰ってきていたよ」

宝の山と聞いた太郎はわくわくしながら山をおりて行きました。

山のふもとに来たところで、うさぎさんに会いました。

「やあ、うさぎさんはおじいさんの持ってた宝の山が何か知っている?」

「そりゃあ、宝と言えばたくさんの葉っぱと野菜だろうね!」

太郎は、あのスープのおいしさの秘密は野菜だったのか! と納得しました。きっと、畑や田んぼからおいしい野菜を一口頂いて、スープにいれていたのです。

太郎は、おじいさんがいつも山をおりて、大変な思いをしてスープを作ってくれていたことを知りました。

「よおし、僕も宝の山を見つけて、きっとおいしいスープを作るぞお!」

太郎が山をおりると、そこにはたくさんの大きな木と、地面にはごろごろと石が広がっていました。

「どこに宝の山があるんだろう?」

太郎はちょろちょろと歩いてみましたが、畑も田んぼも見つからず、鼻をくんくんとさせて、おいしい匂いを探しました。

「あっ、こっちだぞ!」

太郎はおいしい匂いのする方へ走り出しました。かたい石の上を跳ねて、木の隙間を駆け抜けて、ときどき大きな動物に襲われそうになったり、鳥に連れていかれそうになったりしましたが、太郎はめげませんでした。

そしてとうとう匂いの源にたどり着いたのです!

「宝の山だ!」

そこにそびえていたのは、おいしそうなにおいに包まれた真っ白い大きな山でした。太郎は宝の山に潜り込んで、ひとつ食べてみました。

それは美味しくて、とても甘美なにおいがしましたが、おじいさんのスープとはほんの少し、何かが違っていました。太郎はなんだか悲しくなって、山の手前でおいおいと泣き出してしまいました。太郎は夕方を超えて、夜になってもそこで泣き続けていました。

すると、そこに大きな動物がやって来て、小さな皿においしそうで甘美な匂いの宝を置きました。太郎がそれをひとつぶ食べてみると、やはり、なんとも美味しくて甘美で、おじいさんのスープにそっくりの味がしました。

太郎は喜んで、それをひとつぶ持って、おじいさんの元へ戻って、スープを作りました。


おじいさんねずみは太郎にたくさんのことを教えてくれました。

くるみの割り方や、味の良いどんぐりの見分け方、土の掘り方や木の皮の剥がし方まで教えてくれました。中でも、おじいさんの作るスープは格別に美味しかったのです。おじいさんの作るスープには、たくさんの愛が入っていましたから。

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