2話 魔族は邪悪
「好きな物を頼みなさい。 ワシの奢りじゃ 」
大通りから一本入った、裏路地にある『アルバの酒場』。 ベアウルフという魔族が店主の店だ。
「あの…… 私こう見えても女なんですけど…… 」
周りには胸元や太ももといった露出度の高い服装の女性ばかり。 この酒場の客は表にある遊郭の遊女がほとんどで、遊女らの食堂兼憩いの場として繁盛している。
「遊郭は嫌いかの? 別にソレ目的だけではなく、女性も結構利用しとるようじゃがの 」
「そうなんですか!? …… じゃなかった! とりあえず、先生もエールでいいですか? 」
ハースは半裸に近い遊女らに気圧されつつ、ウェイターの少年にエールを二つ注文した。
「さて、なぜ勇者が今頃になって…… じゃったな 」
「はい。 勇者一族は王国から保証された身分です。 あの騒ぎに乗じてなぜ…… と、とても不思議なので 」
「あの騒ぎというのは、王都カーラーンで起きた『飴玉事件』じゃな 」
事の発端は王都カーラーンの近くにある小さな村ホセで起きた子供同士の飴玉の取り合い。 魔族の子供が母親に買ってもらった飴玉の瓶を、人間族の子供が奪い取ったのだ。 二人はもみ合いになり、転んだ際に運悪く魔族の子供の短い角が目に刺さった、というものだった。
「大騒ぎするほどではないんじゃがな。 それをたまたま勇者一族のジジイが見ていたのがマズかったのじゃ 」
「マズかった、というのは? 」
「勇者一族の肩書きなど今の時代では見向きもされん。 むしろ国庫を食い潰す厄介者とまで落ちぶれている。 そのジジイは『魔族は邪悪なるものだ』と触れ回る事で、 再び過去の栄光を我が手にと思ったんじゃろうて 」
勇者一族がそう言えば、王国はその言葉を無視することは出来ない。 現国王フェアブールトが王都に住む魔族らに退去令を発すると、納得のいかない魔族らが暴動を起こし、シルヴェスタ全土を巻き込む大事件になってしまったのだった。
「そんな事で…… 」
ハースはげんなりと肩を落としてため息を吐く。
「後は知っての通りじゃ。 暴動を起こした魔族らはその半数が軍によって鎮圧されてしもうたが、おかげで300年かけて培ってきた魔族との信頼関係はボロボロじゃ。 嘆かわしい限りじゃのう 」
アベイルの火災で人間族を保護したことをきっかけに、両者は次第に打ち解けて生活を共にするようになる。 過去にルーツ山へと追いやられた魔族はアベイルを中心に平地へと戻っていき、300年の刻をかけて共存の道を歩んでいる最中だった。
「結局、軍の鎮圧はあまり意味はなかったんですよね? 」
「そうじゃな。 結果、暴動が沈静化しつつあるは現魔王リゲルが各地に出向いて説得したおかげ。 魔王リゲルが収めてくれなければ、500年前の大戦のようになっていたかもしれん 」
魔王グリードは勇者エターニアによって倒された。 だがその子孫はルーツ山の奥で密かに生き長らえていた事が、飴玉事件の半年後に確認されたのだった。
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