1話 義塾にて
王都カーラーンから北西に位置する、シルヴェスタ王国第二の街『メゾット』。 その郊外にある義塾で、紫髪の若い講師は子供達にシルヴェスタの歴史を教えていた。
「スレンダン先生ー! なんで人間族と魔族はケンカするんですかー!? 」
鼻水を垂らした人間族の子供は手を上げて講師に質問する。
「ホッホッ…… 難しい問題じゃな。 全ての人間族と魔族が仲が悪いわけではないからのう 」
500年前の大戦によって魔族は滅びかけたが、現在は数は少ないがこの大きな街にも存在している。 それは300年前に起きたルーツ山麓での大規模な火事がきっかけだった。
「それって、逃げ場をなくした人間族を魔族が助けたってやつですか? 」
「そうじゃ。 あの事変があったからこそ、我々人間族と魔族は共存の道を歩めたのじゃよ 」
シルヴェスタ王国南西、ルーツ山の麓町『アベイル』は、魔導士同士の喧嘩によって火事に見舞われた。 火炎魔法によって起きた火災は町の半分を焼き、山道付近に住んでいた住民は逃げ場を失って、山道へ逃げ込むしかなかった。
ルーツ山は魔族が潜む魔の山とされて、立ち入ることを禁じられていた地。 だが住民らに選択肢はなく、炎から逃げるために魔の山へと足を踏み入れたのだ。
「知ってまーす! 魔族の人達が火事も消してくれたんですよね! 」
「そうじゃ! よく知ってるのうミリー 」
「だってスレンダン先生が教えてくれたじゃないですか 」
「そうじゃったかの? 」
スレンダンがふざけてみせると、子供達に笑いが起きる。 すると彼は人差し指を立てて目を閉じ、自慢げに眉を上げた。
「そう、『命あるものを助けるのに種族など関係ない』── 魔族の若者はそう言っての。 逃げてきた住民らを保護したのじゃ 」
「先生見たの!? 」
「文献でな。 いくらワシでも300年は生きられんわい 」
再び教室内に笑いが溢れる。
「ともあれ、魔族だからと悪者扱いしてはいけないという話じゃ。 わかったな? 」
「えー! でも勇者様は『魔族は邪悪』って…… 」
「それはまた次回の授業でな。 今日はここまでじゃ! 」
そう言うとスレンダンは笑いながら教室から出て行った。 勉強が終わって遊び始める子供らだったが、塾生一の年長者であるハースは一人スレンダンを追った。
「先生! 」
「うん? どうした? 」
「なぜ勇者一族は今頃になって魔族を邪悪と言ったのでしょう!? とても気になるんです! 」
「子供らは飽きていたようじゃが…… ふむ、場所を変えて少し話そうかの? 」
「はい! ありがとうございます! 」
スレンダンはハースを連れて、馴染みの酒場へと向かったのだった。
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